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ローザ:マスターはいい人間ですね。

三十二、

 次の日の朝、俺は太陽の当たらない地下で目を覚まし凝り固まった体をごきごきとならしていた。パンツの中に違和感があったので手を入れて見るとなんと、書類が出てきた。俺、寝るときに入れたかな?まぁ、いいか・・・・とりあえず書類を蝋燭の光に当てて初めてその内容をじっくりと眺めることにした。


「・・・しかしまぁ、この書類のどこに世界を支配するような魔法陣とやらが書かれているんだろうか?ううむ、見るのなんだか面倒くさそうだな。」


 数学のノートのような感じがしてならないのだが・・・まぁ、それはいいとしてその書類の中を読んでいくうちにあることに気がついた。


「・・・・この書類に記されている魔法陣はどれかを使用すればコピーされている魔法陣も二度と使えないようになります・・・・?これ、コピーできたのか?」


 俺は引っ付いてきているローザをはがすような感じでローザの体を押していたのだが唐突にローザが目を覚ました。瞼を擦っているようだ。俺は先ほどから書類の中に視線をおとしているので気がつかない。


「マフター、ファナに指がふぁふぁってまふぅ!!」


「あ、すまん。」


 ローザの鼻の穴から指を引き抜いてローザの服で拭く。汚いなぁ・・・。


「うわ、汚いじゃないですか!!自分の服で拭いてくださいよ!!」


「そういうなよ、お前の鼻の中に指を突っ込んじまった俺の身にもなってくれよ。」


 俺はローザの鼻頭に人差し指をくっつけてつついてやった。


「・・・マスターどうやら魔法成功してたみたいですね?もう、鼻血でてませんよ!」


「え?何だって?」


 俺はローザの目の前で人差し指を止めて首をひねる。魔法?


「ほら、その書類の中に『失敗した魔法を解除する魔法』って書かれたのがあったじゃないんですか!ええと、寝る前に試してみようって言い出してマスターは魔法を発動したんです。それでそのままマスターは眠ってしまったんですよ?書類は私が一番大事なところに隠しておきました。大丈夫です、見てませんから。」


 なんて余計なことをしてくれるんだ・・・・いや、それはおいといて・・・・


「・・・・ローザ、魔法が成功したってどうしてわかったんだ?」


「ほぇ?だって私を触っても鼻血、出てませんよ?前は私に触れただけで鼻血を出していました。今では一リットルも出てません。」


「一リットルも出たら貧血起こしそうだな・・・まぁ、たしかに・・なるほど・・・・。」


 ということは・・・・この書類は力を失ってしまったのか・・・でも・・・・そしたら・・


「あ、あのう・・・なんだかマスターがとても怖くなった気がするんですけど?ええと、私何か気に障るようなことを言いましたか?」


「くくく、その逆だ。」


 遂に・・・遂にこのときがきたのだ!!俺は右手にドライバーを持ってローザに笑いかけた。まぁ、本心は別のところにあるとすれ、ローザは・・・・


「ローザ、どうやら俺の女の子を触ると鼻血が出るのが治ったらしいからな・・・・。」


 ローザはぎくりとして俺から離れ始めた。


「ええと、解体ですか?」


「そうだ。これまで我慢していたが今となってはローザが色仕掛けをしてきても俺の鉄分が急激に減少することは無い。くくく、これまで流されたヘモグロビンの敵をとってやるぜ。」


「ま、マスター・・・。」


「可愛く言っても駄目だ。俺にはすでに色仕掛けなど効果は無い。」


「ええと、任務は・・・?」


「却下だ。治った今俺にするべきことはお前を解体することぐらいだな。ねじ一本にしてやろう。」


 とうとうローザの背中が壁へと触れる。覚悟を決めたのかローザは目をつぶった。ふむ。


「・・・・ええと、わかりました。マスターが好きなようにしてください。」


「・・・・。」


「しょ、しょうがないですね。マスターにとって私は単なるお手伝いですから・・・。」


「・・・・。」


「でも、マスターが望むなら・・・。」


 本当に覚悟を決めたのだろう・・・・・ローザは俺にこういった。


「ええと、できればもうちょっとだけ一緒にいたかったとおもいます。」


 そこまでローザが言って俺はため息をついた。やれやれ、ここまでだな・・・。


「冗談だ・・・全く、さっさと逃げ出すなり何なりしてくれればよかったんだがな・・・。」


「え?」


「これを見てみればわかるぞ?ま、今から逃げ出しても遅くない。いや、逃げろ。」


 俺は書類をローザに手渡してその場に座り込んだ。やれやれ、ローザでも責任を負わないように自分なりに(半分本気)芝居をがんばってみたんだがとんだ大根役者だったな。


「ええと、それじゃこの書類の意味は全くなくなってしまったんですか?」


「そういうことになるな。ローザ、とりあえず今から逃げても大丈夫だと思うぞ?開発者のところに行って俺に分解されそうになったとでも言って来い。」


 俺はローザとは反対側に顔を動かして呟いた。まぁ、少しの間だけだったが仲良くできてよかった。魔法がかかっていなかったら今頃ローザはばらばらだな。


「マスターはどうするんですか?」


「ここで篭城を決め込む。なぁに、責任は一応取るつもりだ。俺が間違ってつかっちまったんだからな?つかっちまった俺が悪いのであってローザは悪くないはずだ。」


「でも・・・マスターがトイレの水で水攻めにあったらどうするんですか?」


「それは却下だ。それをしてくる奴は人間じゃない。まぁ、そうなってもしょうがない。」


「・・・大丈夫です、私がなんとしてでもマスターを助けます。とりあえず・・・正直に話したらどうでしょうか?」


 ローザは俺の右手をちょっとだけ握って言ってくれたのであった。


「・・・・わかった。試しに篭城をやってみるか。」


 振り返ってローザの頭をなでてやった。なんとなく、そうしたい気持ちになったからだ。


「・・・でも、本当にマスターに分解されてもよかったんですよ?」


 ぐりぐりなでてやっているローザは泣いているようだった。どうやらあのときの俺の顔はそれなりに怖かったようだな。(半分本気。)


「悪い悪い、ちょっとしたジョークだ。俺が戻せないのに分解するわけないだろ?」


「・・・そうですね。やっぱりマスターは私が思っているような人でした。」


 ローザはそういうと俺にもたれかかっていた。その体がとてつもなく震えていることに俺はさすがに罪悪感をはらえなかったのであった。


「・・・・ま、マスタァ・・・私をいじめないでくださいよぉ・・・うわぁぁぁん・・・」


 ローザは涙を流して俺の服をぬらしていた。俺は年下が泣き出してしまったときの対処を知らない。いや、一度は瑞樹の妹が泣いているのを止めたことはあったのだ!だが、それも何年も前のことなので今では忘れてしまった。


「・・・・・ごめんな、ローザ。俺が悪かった。」


「・・・うぇっ・・・私は・・・マスターを・・うぐっ・・・・助けます・・・・。」


 やることないので俺はローザが泣き止んでくれるまで頭をなで続けていた。


 それから数十分後に完全にローザは泣き止んだ。涙の筋が残っているがかまわないようだった。俺にしがみついてはいるが目を合わせてくれようとせずそっぽを向いている。


「悪かったって。」


「・・・マスターそれは心のそこから言ってますか?」


「・・・嘘だと思ってんのか?」


「・・・マスター、芝居うまいからまた騙されたらたまりませんから・・。」


 いやぁ、未来のロボットかどうかはよく知らないが俺の芝居も大根ではないのだなぁとのんきに思っている場合ではない。


「本当だ。悪いと心のそこから思ってるって。わかった、これをお前にやる。」


「・・・・・わかりました。マスターを信用します。」


 あっさり信用しやがったな・・・因みに俺がローザに渡したものは先程芝居で使った小道具のドライバーだった。小さいころに母さんに買ってもらってずっと使ってきたものだ。自転車がちょっと壊れてきたときもこれを多用したものだ。ローザは笑い、言った。


「・・・・今回はこれで我慢しますが次回はもうちょっといいものじゃないと駄目ですよ?」


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