店員:いらっしゃいませ、何名様ですか?
二、
俺に頭から水をぶっ掛けやがったウェイトレスは頭をぺこぺこ下げていた。
「すいません!!すいません!!すいません!!」
別に謝ってもらわなくて結構なので、さっさとタオルなんかを持ってきてもらいたい。ほら、春先だって言っても風邪を引く可能性だってあるだろ?今のところ皆勤の俺が休んでしまったらさぞかし職員方が悲しむに違いない。
「・・・いいですよ、出来れば早くタオルかなんか貸してもらえませんか?濡れてるんで・・・。」
「気がつきませんでした!!す、すいませんっ!!」
あたふたと走っていった女の子の後姿を見送っていたら別のウェイトレスがこちらへとやってきた。
「・・・どうぞ、タオルです。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって・・・。」
なんとも無機質な声なのだろうか?この人、ロボットじゃね?え、違うかな?
そんなことを考えながらさっさとタオルで水を拭いた。
「助かりました、これで風邪はひきそうにありませんよ。ありがとうございます。」
「・・・・・いえ、こちらの不手際ですみませんでした。あなた方の注文したものは全て、無料で結構です。」
「結構ですよ、ね、零時?こんな可愛い女の子に話しかけられたんだからさ?」
ニヤニヤしながらこちらを見ている瑞樹。おいおい、何がそんなに嬉しいんだ?
「確かにそこまでしてもらわなくて結構です。水がかかったぐらいだし・・・。」
「・・・そうですか。それでは、失礼します。」
幽霊のように姿を消し、そのウェイトレスさんは去っていった。辺りからはひそひそ声のようなものが聞こえてくる。
「・・・さっきの子、この前もドジしてなかったか?」
「ああ、してたな・・・確か、水ぶっ掛けた挙句に客の頭からシチューとかをぶっ掛けられてたっていってたな。見たかったなぁ・・・。」
「そうだな、掛けられた女は『こんな店、つぶれておしまいっ!!』って言ってたらしいな?しかし、ある意味羨ましい奴だな。」
「ああ、その姿を写真でとっているやつもいたらしいしなぁ・・・。」
どうやら、俺が初めての犠牲者ではないようだ。まぁ、終わったことだし、いちいち水をぶっかけられただけで怒ってはいられない。
「ぷぷっ、零時、まるでお漏らししたみたいにズボンが濡れてるよ?」
「けっ、そんなのわかってらぁ!!ちょっとトイレに行ってくる!!」
「ぷぷ、もしかして本当にちびったとか?」
なんて親友だ!!今すぐに奴の残っているお冷を頭からぶっ掛けてやろうか?そうすりゃ、こいつに馬鹿にされるのだけは終わるからな・・・・。
「零時、帰ってきたらこのお店に噂があるって話しをするよ。いつものように、話は長くなると思うから大きいほうもしてきなよ。」
「・・・噂って、さっきみたいな目つきの悪い女の子が他人に水をぶっ掛けたり運ばれてきた料理を頭からかぶせたりするもんじゃないよな?」
当然、違うとばかりに頭を振る瑞樹。やれやれ、俺は立ち上がってトイレへと向かったのであった。飯食うところで下ネタはやめとけよ?睨まれるぜ?
用を足し、お漏らししたようになっていたズボンを拭いて外に出ようとすると・・・・あのタオルを渡してくれたウェイトレスが入ってきた。男子トイレに・・・・。
「・・・同僚が本当に申し訳ありませんでした。」
成程、この子はあのドジの代わりにきちんと謝りに来たのか・・・ドジの友達はいい人なんだな。ところで、ここは『覗きだ!』と叫ぶべきか?
「いえ、もう気にしてませんから・・・。」
「・・・恥ずかしながら、頼みたいことがあるのですが・・・。」
「頼み?何ですか、それ?(男子トイレに入ってきたことだろうか?)」
「・・・ええ、あの子は・・・残念ながら、今度このようなことをしたらウェイトレスの仕事を降ろされてしまうのです。今のところ誰にもばれていませんので、できましたら店長などには訴えないでもらいたいのです。」
うぅむ、それは流石に虫が良すぎると思うのだが・・・まぁ、今ここで俺が店長に文句を言っても時すでに遅しだな。しかし、他の客も知ってなかったか?
「ええ、別にそれはいいですよ。友達が待ってるんで、それでは・・・。」
「・・・ありがとうございます。」
俺は男子トイレにその静かなウェイトレスを残して扉を開けた。遠くに店長らしき人が出ているが、たまたまだろう・・・ニコニコしているところには何処にも部下の失態を怒っているような顔ではない。多分、何か他に用があったのではないかと思われる。誰も何も言ってないみたいだしな。
「あ・・・。」
「・・?」
男子トイレの近くにあのウェイトレスが居た!俺と目が合った瞬間、持っていたお冷を持って何処かに行ってしまったと思われたが・・・俺の右足に躓いて、こけた。盛大に・・・だが、一見すると俺が襲い掛かっているようにも見える。
「きゃぁぁ!!」
彼女の手から放り出された冷水の入ったコップは一歩を踏み出した俺の脚にかかり・・・更に、コップは割れずに俺の足と床の間に入り込む。うぅむ、この短い間にここまで状況把握を出来るようになっているなんて、意外と俺って凄い?まぁ、状況把握が出来たところで何が出来るってわけじゃない。分かるだけじゃ駄目なんだろうなぁ・・・・結果、俺はそのコップを踏んで滑った。
「うわぁぁ!!」
俺は無様にこけそうになったので、何か、何かつかまるものはないかと瞬時に手を振り回した。そして、俺は手に触れたものを藁にも縋る思いで掴んだ!!
「「「「おお〜っ!!」」」」
お客が歓喜の声を上げる。きっと、瑞樹の声も入っていたんだろうなぁと俺は思うね。いや、後から思った話だ。掴んだものはそのまま滑った。
まぁ、結局・・・俺は無様にこけたんだがな・・・ああ、水がお尻に染み渡って冷たいなぁ・・・ああ、ああ、何で俺はこんな目に遭うのだ?あれか?今日、瑞樹のお買い物を適当に決めちまったからなのか?あれが原因なのか?
「あいたたた・・・。」
「・・・お客様、すみませんが・・・ちょっとお話があるので来てもらえませんかね?」
状況把握をしてみよう。
今、証拠となりうるコップは俺が盛大にこけたときにどこかに吹き飛んでしまった。
そして、次に・・・俺が掴んだものはあのドジのスカートだった。
そして、あのドジはこけなかったのだが掴まれたスカートは俺が重力に引っ張られる力で一緒に、地面に落ちた。ふ、重力に惹かれた男とは俺のことさ・・・。スカートズリ下げられたドジは何があったのか全く持って理解できていない。ああ、俺だって何が起きたのかわからないさ。目の前に恐ろしい顔した店長らしき男がいるぐらいしかな・・・・。
「え、なんでですか・・・?」
有無言わさず、俺は店長に引きずられるようにしてその場から退場を余儀なくされた。くそ、何でこんなことになってんだ!?俺を変質者とでも思ったか?
「ちょ、何で呼ばれるんですか?」
「・・・お客さん、このお店の噂を知ってますか?」
「・・・ドジなウェイトレスがお客に襲い掛かる話ですか?」
「・・・いえ、違います。このお店では、ウェイトレスにおいたをするような悪者をお仕置きする部屋があるんですよ。そこで、貴方をお仕置きします。」
ああ、成程・・・そんなうわさだったんだぁ・・・じゃ、ないっ!!
「じゃ、俺は!」
「・・・今のところ、これまで一度もそのようなことはありませんでした。しかし、今日一人目の悪者が出たのです!さて、お仕置きを見れないように残念ですが、貴方には眠ってもらいましょう。」
店長は俺の目の前まで掴んでいるほうとは違う手を持ってきて指をぱちんと鳴らした。その瞬間、俺の意識が遠のいていくのを感じた。グンナイ、俺!
「ふぁ・・?」
「・・・ちょっとした謎のお風呂にはいってもらうだけですよ、その後はお店で雑用係として働いてもらいます。」
最後に店長のそんな声を聞き、俺は意識が完璧になくなったのでどうなったか知らない、自分の事なのに・・・。ま、しょうがないかな?
あれから、何分ぐらいの時間が過ぎたのだろう?意識が覚醒していくのが分かった。
「・・・っ・・長!」
「・・・にっ!!・・・じゃ・・・」
誰かが言い争っているようで、何を言っているのかわからないが、誰かが俺の近くに居るらしい・・・俺は目を開けた。
「・・・店長、目を開けましたよ。」
「なにっ!!そ、そうか・・。」
俺は自分の身に何があったのか考えたが、思いつかない。気がついたことといえば、体の上にのっているのは白い布だけだ。なにぃ!!下着も何も無いぞ!!
俺の元に店長がやってきた。先程の物凄く怖い顔ではない。どちらかというとかなりばつが悪そうだ。そして、その隣にはあのドジとその友人のウェイトレスが居る。どの人も間違った判決を下した裁判長みたいだ。
「「「・・・お客様、申し訳ありませんでした!!」」」
いっせいに頭を下げて、俺に謝ってくる三人。はて、俺が何かしたのかな?いや、逆にあっちがしたんだろうなぁ・・それで、俺に謝ってるのかもしれないな。
「・・・俺の体に何かしたんですか?それとも、何かする前に事情が分かって連れてきてすいませんといってるんですか?え、何でそんなに首振ってるんですか?あのう、めっちゃ、不安なんですけど・・・?目を伏せないでくださいよ!」
さて、二回目となりました。ここから・・・・短編版とはちょっと違った感じになっていくと思います。以後、よろしくお願いします。




