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男:だ、断崖絶壁のチチナシおばけだぁ〜

十六、

 満月の夜に家に何事も無く家に帰り着いた俺は風呂に入るよりも先に二人にノワルと話しをしてきたと告げた。勿論、彼女との約束を破ったりはしていない。俺はこう見えても意志は硬いほうだ。まぁ、そのぶん口が軽いがな。


「へぇ、あの子をよく説得できたわね?何か魔法でも使ったの?」


「・・・・さすが、零時君。意外と説得にも長けているんですね。」


 二人とも俺を尊敬しているようだ。まぁ、こんなものは粘ったほうが勝つものさ。本当のところは全然違うんだけどな・・・・・。


「じゃ、俺はちょっと母さんに話しておかなきゃいけないことがあるから、ちょっと行ってくる。二人とも、先に風呂に入ってていいぞ?」


 俺がごく普通に(そのときセレネは俺の本棚からとあるロボットの内部設定資料を読みあさっており、ソーラはなにやら・・・紙に自分で考えたらしいロボットを設計していた。)扉を開けようとすると学校の屋上での出来事を思い出してぶるっとした。追い討ちを掛けるようにいきなりセレネが話しかけてきた。


「・・・・ねぇ、帰りが遅かったけど・・・何してたの?魔法の勉強、さぼって誰かとデートしてたってわけじゃないよね?夕食だって待ってたのに・・・。」


「デート?俺の愛しのドラ○ちゃんとか?あいにくだが、俺は未来に行く術を知らないぞ?それにだ、他に誰とデートするんだ?」


「そうじゃなくて、あの子とよ?」


「あの子?どの子だ?」


「ノワルよ、ノワル・ダーク!!あの子と何か無かった?」


 はて、何かあったかな?俺は考えてみたのだが・・・特に何も思い浮かばなかった。さすが、ノワルというのだろうか?帰り道も俺を誘拐することなく、無事に過ごせたのだが?もしかして、屋上に行ったことがばれたのか?


「いや、特に俺が危惧するような状況にはならなかったな。それがどうかしたか?」


 俺の問いかけにセレネは何事も無かったように資料を再び読み始めた。


「ふぅん、別に何も無かったのならいいけど?ちょっと、胸騒ぎがしたの。お昼に急に学校近辺だけに雨が降ってきたし、零時に良く似た生徒が屋上に向かったってソーラが言ってたし・・・・先生だって言ってたわよ。」


「そ、そうか?まぁ、俺は特に何も無かったぞ。じゃ、俺はもう行くわ。」


 ちらりとこちらを見たあの二人の視線が痛い。その視線は俺の全てを見透かしたような目をしており、隠し事も出来ないような雰囲気がその場に流れた。

 俺は慌てて心の安定をとることにした。久しぶりにねじを眺めてみる。


「・・・はぁ、怖かったなぁ、あの二人・・・何か俺が悪いことしたのか?」


 俺は一階に降り、母親にセレネとソーラのほかにもう一人下宿したい人がいるのだが、良いだろうかと尋ねてみた。さすがに既に二人がいるので半ば無理ではないかと思ったのだが、母親は寛大なお人であった。顔がにやけている。


「ええ、いいわよ。ただし、条件があるけどよろしくて?零時?」


「何?」


「あんたが調子に乗らないことよ。女の子が三人もいるのですからね。」


「俺がそんなことで調子に乗るわけ無いだろ?何を考えているんだ、母さん?」


 こうして、俺は教えられた番号を自宅の電話でプッシュ。複数回の呼び出し音の後にノワルが出てきた。俺は内心他の人が出てくるって思ったんだけどな。


『あ・・・・零ちゃん?本当に電話してくれたんだ?』


「ああ、母さんがいいって言ったぞ。明日には来ていいってさ。」


 その後はくだらない話をしたのだが・・・途中でセレネとソーラが俺の右と左にじとっとした目でこっちを見ていた。うう、いつもより怖い。


「・・・じ、じゃ、またな。」


 そして俺は未だに恨めしそうに見てくる二人のほうを向いた。勿論、ビビッていることを態度であらわしては駄目なので、震える足は思い切り角に小指をぶつけて我慢する。怖さよりも痛みで我慢するのだ、零時!!


「ぐぅ、俺に何か用か?」


「別に、ただ・・・とても楽しそうに話をしてるなって思っただけよ。」


「・・・零時君、どうして・・・今日は私たちに話しかけてくれなかったの?それに、帰ってきてもその話に触れてもくれない。折角転校してきたのに・・・・もしかしないでも頭の中にはあの子の事でいっぱい?」


「そりゃまぁ、現に電話してたんだから・・」


ぼきゃっ!!ぐしゃっ!!!


「「零時のばかっ!!」」


 再びほっぺを叩かれ・・・・(おいおい、ほっぺをたたいてもそんな痛そうな音はしないぞ?魔法使いはどうなってんだ?)俺はその場に唖然となったのであった。そして、何も出来ない俺に母さんの呆れたような声が聞こえた。二人は既に夜の街に出て行っている。そして俺の顔には紅葉マークが・・・・・。


「・・・ほらね、調子に乗ってるとこうなるのよ。零時、あの二人が大事なら・・今すぐ追いかけてあげなさい。それが一番の特効薬よ。急がないと、あの二人・・・風をひくわ。外は大雨なのよ。何でかは知らないけどね。」


 開け放たれた扉の外は確かに雨が降っていた。さっきまでは満月が俺たちを見ていてくれたはずなのだが・・・・・これもあの屋上の謎の儀式のせいか?


「・・・・・わかった。俺・・・なんであんな音がするびんたができるのか気になるから追いかけてくる!それ以外にはないからな!」


 そう言った俺の背中に母さんの呆れた声が最後に聞こえてきた。


「・・・素直じゃないのね。そういうところは父親に似ちゃったか・・・・。」


 その夜、俺は考えなしに歩き回り・・・気付けば俺は学校に舞い戻ってきていた。町はほとんど探したし、レストランにも彼女は来ていないと店長さんに言われた。なら、学校にいるかもしれないと思ったので学校にやってきたのだった。雨はまだまだ・・・やみそうに無い。しかも、屋上に誰かいるような気が・・・・


「・・・今日、ノワルに怪談を聞いたのが間違いだったな。」


 そんなことを考えながら校舎内へと足を踏み入れる。校舎が開いていなければそのまま帰ろうと思ったのだが・・・・何故か、開いていたので入ることにした。


「・・・何もいないよな?いやいや、セレネとソーラがいてくれたらいいのだが。」


 誰かに見られているような視線(こういうものはどちらかというと被害妄想って奴だろうな。)を背中にびんびんと感じながら一階一階確認していく。


「・・・あとはこの屋上だけか。うう、一人はさすがに・・・・・。」


 再び戻ってきた俺は屋上の扉を開けようとして・・・・後ろに気配を感じた。


「わっ!!」


 誰かに後ろから肩を叩かれた。喉はからから・・・体は全く動かない。冷や汗は流れまくりだ。こ、ここまでなのだろうか、俺の人生は?


「・・・零時、こんな時間に学校で何をしてるの?」


「・・・・零時君、この時間帯は生徒が学校に忍び込んではいけない時間帯ですよ。何か忘れ物でもしたんですか、屋上に?」


 勇気を持って振り返ってみたらセレネとソーラであった。はぁ?どうなってんだ、これは?実は俺が探していなかった場所にでも隠れていたのだろうか?


「セレネ、ソーラ・・・今までどこにいたんだ?もしくは消えていたのか?」


「いや・・・ちょっと外に出ただけだよ?ええっとね・・・・・家を出た後・・・」


「・・・・・裏庭に回っていただけです。そこには私たちが零時君に黙って作成した『恨みを聞く寡黙の箱』がありますので・・・・そこで零時君の不満な点を述べていたら血相変えた零時君が走っていくのが見えたんです。何事かと思って慌てて私たちも追いかけていったんですが・・・・この前と違って零時君の足が速かったので追いつくのに時間がかかったんです。意外ですね。」


 セレネの説明に全く理解できなかった俺の代わりにソーラが詳しく説明してくれた。ああ、なるほど・・・俺の努力は無駄だったわけだな?


「二人とも雨に降られなかったのか?大雨が降っていたんだが?」


「「雨?」」


 二人ともきょとんとしている。怪談の踊り場から見える窓の外には綺麗な満月が姿を見せている。あれれ?どうなっているのだろうか?俺の幻覚?


「零時、顔色悪いけどどうかしたの?」


「・・・大丈夫ですか、零時君?」


 て、てっきり屋上にいるのがこの二人だと思っていたのだが、それはどうやら違うようだ。うん、これってあれだよね?もしもこの二人がここで俺を止めなかったら俺はこの屋上の扉を開けていたに違いない。そして、どうなってたんだ?


「・・・ちょ、ちょっと走りまくって疲れちまってな。帰ろう、二人とも。」


「零時、大丈夫なの?顔色かなり悪いよ。土色だし・・・・・。」


「・・・・無理はしないでくださいね?健康が一番ですよ?」


「あ、ああ・・・・それは分かっているんだが・・・・・。」


 俺は屋上の扉から180度回転して後ろ髪をなんとなく引かれているような感じを受けながら情けないことに俺を中心に二人の手を握らせてもらった。


「零時?」


「・・・・零時君?」


 不思議そうな顔をしているセレネとソーラに苦し紛れに微笑を返事とし、二人に引きずられるような感じで家に帰りついたのであった。

 俺は断じてひとりで寝るのが怖いわけではないのだが、夢にお化けやら何やらが出てくるのだけは遠慮してもらいたい。ほら、安眠を妨害されるのは誰だっていやだろう?


「零時、何かあったの?急に三人で寝ようなんて言い出して・・・?」


「・・・いや、ちょっとな・・・・。」


 勿論、他の二人にはこのことは話していない。だって、信じてくれないだろう?


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