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御注文は? 〜一夜限りのパーティーで!〜

零時「お、百回記念だってよ?」瑞樹「まったく、作者の優柔不断さには舌をまくしかないね」零時「そうだよなぁ、実際のところはさっさと百回記念を出そうとしたんだそうだがずるずる引き伸ばされたらしいからな」瑞樹「一年ジャストで百回目か………」零時「とりあえず、今回で百回記念です、皆さん。今回の話は独立した話なんで………」瑞樹「楽しんでもらえるとうれしいですね」零時「ちっ、途中からとられちまった………百回続けられたのも皆さんの………」瑞樹「おかげです。僕のファンの皆、ありがとう!!」零時「しつこいわい!」

プロローグ

 一人の男がいつも愛用している拳銃を取り出す。一般的に普及しているようなものでもないようで、他の拳銃に対してどこか似ているような特徴がないでもない。

 必要の無い拳銃を懐に収め、彼は椅子から立ち上がる。

 どこと無くかび臭い部屋を出て、めったに着ることの無いパーティー用の服を鏡の前で着てみる。

 どうにも、こっけいな姿であって彼は首をすくめる。

 相方は既に準備が終えていたようで、外のほうから彼を呼ぶ声が聞こえてくる。

 これから行く予定となっているパーティー会場に何も起こらないという保障をしてくれるものなどいないだろう。

 保障をしてくれるという者がいたとしたら神様か超能力者…………残念ながら、彼にはどちらの知り合いもいなかった。


一、

 華やかなパーティー会場、どうやら誰かの長寿を記念して開かれたもののようだったが彼………剣山零時には関係の無いことだった。

「ふぅ、まったく………飯はうまいが話は長いな」

「おいおい、零時…………そんなこと言ってたらここから放り出されてしまうよ?」

 隣に立つのは彼の親友である後鳥河 瑞樹はそういって首をすくめる。

「わかってるって………だから他人に聞こえないようにして言ってるんじゃねぇか?」

「おいおい、僕に聞こえてるって」

 そんな彼らにとってはいつものやりとりをしているといかにも貴婦人といった感じの人たちがやってくる。

 やってきた貴婦人に対して礼儀を知らない零時のほうは瑞樹の影に隠れるようにして後ろのほうに移動してしまった。

 どうにも、こちらと話したがっているように見えたので瑞樹に零時は耳打ちする。

「瑞樹、ちょっと俺はトイレに行くから…………」

「はいはい、わかったよ………僕がこの麗しの貴婦人たちと話をしておくよ」

 瑞樹はそんな親友の逃げるための口実に対して苦笑しながらも承諾してくれたようで、自ら貴婦人たちの相手を買って出てくれたのだった。

「すまねぇな」

 そういって零時はトイレへと向かうふりをしてパーティー会場から出たのだった。

 今回、零時がこんな場違いな場所に来ていたのは彼の友人の女性が風邪を引いてしまったからだった。

 どうしても外せないというほどのパーティーだったそうで、その女性の代わりとして零時がいくことになり、補佐として瑞樹を連れてきたということである。

 やはり、来たところでろくに話すことも出来ないので時間を潰すために庭に出た零時だった。

 裏庭で殆ど人が来ない上に太陽が昇る頃になってもここには日の光は届かないだろうというぐらい暗い場所へとやってきたところ、やはり人は一人もいなかった。

 冷静に何かを考えるのならこれほど都合よい場所は他にないだろう。

 他にあるとしたらトイレの個室ぐらいなものか?

「ふぅ…………」

 成人はしているが、酒が飲めない………グラスを片手に上品におしゃべり………とは到底いきそうにもない。

 もっとも、彼の友人の女性がこのパーティーに出席していても同じことにはなっていただろうが……………

 金ぴかに輝く像に噴水…………形作られた上に無駄に贅沢な庭を眺め、その端に要人警護にやってきたと思われるサングラスに黒スーツの男たちをちろりと眺める………

「仕事、大変そうだよなぁ………」

 彼も一時期はそんなことをしていたのだが、なんだか面倒になったのでやめてしまっていた。

 正確に言うと色々と問題を起こしてしまい…………やめさせられたといったほうがいいだろうが、もとからやめる気でいたのでどちらでも良いのだろう。

 そして、今はフリーターでいずれは就職したいと思っているのだがさて、どうしたものだろうか………と彼が考えていたところで人々のはなす声が聞こえていたはずの建物はちょっとした騒ぎ声となって急に静かになってしまった。

「どうしたんだ?」

 再びあの長寿のじいさんの話でも始まったのか?と思いさらに知り合いの友人にパーティーがどうだったか尋ねられたときのためにスピーチを聞いておかないと思って彼は建物内部へと戻ることにしたのだった。


二、

 建物内部へと戻った零時の目に廊下に倒れている人を確認する。

 姿を確認したところ要人警護の人のようだった。

「どうしたんですか?」

 触って確認してみるとどうやら眠っているだけのようで、怪我などはしていないようだった。

「とりあえず、警察に連絡したほうがいいな…………」

 零時は携帯をおもむろに取り出して人目につかないところを探して見つけられず………いったん庭に出て連絡しようとしたが外へ通じるはずの扉は何故か開くことがなかった。窓から出ようとしたのだが窓は壊れない。

 何気なしに携帯をみてみれば………

「あれ?あ、そういや携帯の電池充電してくるのを忘れてたぜ」

 やれやれ、どうも調子が狂っていかんなと呟いて零時は誰も立っていない廊下を歩き出したのだった。

 零時は廊下を歩きながら少しの時間懐に手をつっこんでいたが次の瞬間にはその手には既に短銃が握られていた。

 短銃を握り締めながら零時は何者かによって電気を消されてしまった廊下を静かに歩く………零時の表情はこれが余興だったのならどれほど面白いかと思いながら不謹慎ながらもこの状況を楽しんでいるようにも見えた。

 そんなことを考えている彼の耳に誰かが走ってくる声が聞こえてくる。

「さぁて、ゾンビが出るか吸血鬼がでるか………」

 零時はそのまま廊下の脇にあった大きめの植え込みに隠れる。

「はぁ………はぁ…………」

 相手は誰かに追いかけられているのか、既に息が上がっているようだった。

 零時に気がついているわけではないようで、植え込みに隠れている零時はその相手の視線がまっすぐ向いておりこちらに気がつくようではないようだと見て取れた。

「ていっ!」

「きゃあっ!!」

 零時は何を思ったのか植え込みの前を駆け抜けようとした相手を転ばせる………

「あいたた………」

「おい」

 倒れた相手にたって話しかける。

「うう………」

 相手は心底おびえているようで今にも泣きそうな顔をしているし、腰が抜けてしまっているようだ。

「そうおびえるな、あんた、パーティーの客か?」

 相手は薄緑色のドレスを着ており、その姿を見ればパーティーの客だということが一発でわかるだろうが、零時は確認したまでである。

「そ、そうよ……そ、それ以上近寄らないで!近寄ったら噛み付くわよ!」

「わかった、近寄らないから騒ぐなって!」

 零時は近寄らずに相手に話しかける。

「…………とりあえず、落ち着け………俺はあんたの敵じゃない、俺もパーティーに来てた客だ………それで、何があったんだ?」

「………敵じゃないって………その手に持ってるものは何よ?普通はそんなものを持ってないわ!あんた、顔が悪人面してるもの!」

 拳銃を震える指先で示して少女は尋ねる。

 零時は少女が言ったことに対してむっとしたが、自分はこの娘よりも年上なのだ、だから大人の態度をしないといけないとがんばって自制したのだった。

「これか?これは………ほら、のどが痛いときにのどに撃っていがいがをおさめる奴だ」

「嘘言いなさいよ!それが銃ってことはわかってるんだから!」

「騒ぐなっての!」

 零時は拳銃を懐に戻して無抵抗であるとポーズで示した。

「あんた、何に追いかけられてたんだ?」

「…………黒服の男よ………今に追いついてくるわ、あんたの仲間でしょ?」

「ちげぇっての…………そう思うのなら逃げろ、ちなみにこの館からは逃げられんようだがな………」

「そういって後ろから撃つんでしょ?」

 女の子は零時のほうを向いたままゆっくりと立ち上がる。

「撃たない」

「撃つ」

「撃たない」


ダーン!!


 女の子の足元に弾丸がのめりこむ………

「ほら撃った!」

「おいおい、俺じゃねぇって…………」

 少々表情を強張らせながら零時は後ろを振り向く。

 そこには彼女が形容した黒服の男と思われる人物が黒光りする拳銃を手に月光に照らされて立っていた。

「…………まさか、たかが小娘一人だと思っていたが仲間を呼んでいたとは………」

「ほら見ろ、俺が撃ったんじゃないだろ?そもそも、拳銃も持たないのにどうやって弾丸を撃つんだよ?」

「そ、そんなことを言ってる場合じゃないでしょ!」

 確かに、そんな状況ではなかった。

 零時は両手を挙げて無抵抗のポーズを維持していた。

「無抵抗、なにもしません………そこの娘は勝手に何か引っかかってこけたのを見たんで通りすがりの一般人が気まぐれで助けただけです」

「な、何よそれ!あなたのせいでしょ!!」

 気がついてたか………と零時は思ったのか舌を出してだんまりを決め込む。

「……………」

 男は零時に銃を向けて注意しながらも徐々に娘のほうに近づいていき、女の子は銃に恐怖したのか動けないであっという間に縄で縛られてしまった。

「ちょ、ちょっと痛いじゃない!」

「黙れ………」

 静かに女の子に銃を向けたのがこの男の命取りだった。


バキッ


というなにやら不穏な音がして男はその場に崩れ落ちた。

「………ま、日ごろからきちんと練習してた甲斐があったな」

 零時は首をぐりぐりと動かしており、両手を挙げたままだった。

「…………」

 縄に縛られたまま、女の子はそんな零時を見ていた。

「さぁて、どうしよっかなぁ………俺のことを信じてくれないような悪い子はこのまま放置していっちゃおうかなぁ?」

 零時はにやけた笑みを女の子に向け、首をすくめる。

 それに対して女の子はキッと零時を睨みつけて告げる。

「勝手にどこにでも行けばいいじゃないの!」

「あっそ、それならそうさせてもらうわ………いやぁ、どこに何がいるかどうかさえわからないのに残念だなぁ」

 零時はそういうと男がやってきたほうに歩き出す。

「ちょ、ちょっと!」

「何だ?」

「縄ぐらい解いていきなさいよ!」

 顔をしかめながら零時は振り返る。

「………なんでだ?何であんたに目の敵にされている俺がわざわざあんたの縄を解いてやらないといけないんだ?」

「あんたじゃないわ!私はきちんと律咲りつざき すずって名前があるもの」

「ああそうかい、それじゃ鈴ちゃん、俺は残念ながら俺のことを眼の敵にする鈴ちゃんの縄を解いてやるほどやっさし〜お兄さんじゃないんでね………白馬にまたがった王子様が鈴ちゃんを助けに来ることを祈るんだな」

 右手を軽く上げて零時は階段のある踊り場へと移動しようとして………

「わかったわよ!あんたのことを信用するわよ!」

「やれやれ、早くそう言ってあげれば助けてあげたのにな」

 回れ右をして零時は一瞬にしてとらわれのお姫様を助けてあげたのだった。

――――

「これからどうするのよ?」

「さぁな、それをこれから考える」

「何よ、その答え」

「鈴、ちょっと黙っててくれ………明日の晩御飯を考えてるから」

 少々残った縄の跡を気にしながら零時は隣を歩いている鈴を相手にしようともしない。

「何よ!その態度は!」

「何で?真剣に考えてるんだからな………とりあえず、鈴、お前はさっさとこの館から出ろ………さもないとなぁ………」

「いたぞ!」


ダーン!!


「こんなことになるぞっと………」

「きゃぁあ」

 零時は鈴を巻き込む形で近くの開いていた部屋に隠れる。

「おいおい、鈴が騒ぐから見つかっちまったじゃねぇか………」


ダーン


「っと、そんなこと言ってる場合じゃないな………………鈴、ここにいろよ?お嬢様が出てくるもんじゃないからな」

 黙りこんで睨みつけてくる鈴に念を押して零時は短銃を取り出して部屋の外に出て行った。

 零時が出て行ってすぐに相手の放った銃声がとどろいたが、次の瞬間には騒ぎ声が、そして瞬時に断末魔のめちゃくちゃ短い叫びに変わって数分後、零時は戻ってきた。

「ふぅ、二人だったか………これで今のところ三人はおしおき完了ってところだな………鈴、怪我はないか?」

「……あんたが部屋の中にいろって言ったから怪我なんてしてないわよ………怪我があるとしたらあんたが私をこの部屋に押し込んだときに足をひねったぐらいだわ………」

 鈴がぶすっとした調子でそう告げると少々あせった感じで零時は鈴のドレスを上に上げる。

「な、何するのよ!」

「……わりぃ、ったく………やっぱりあの仕事やめといてよかったな………こんなんじゃ仕事にならねぇからなぁ………鈴、ちょっとそこの椅子に座ってくれ」

 頼んでいるような言葉だが有無を言わさぬものがあって鈴は不機嫌な表情ながらも黙ってそれに応じたのだった。

「………名前、なんていうのよ?」

「あ?」

 足にテーピングをしている零時に鈴はそう尋ねる。

 部屋はほのかな明かりがちょっとだけともっているだけで何かが動けばわかる程度で色などは判断できないだろう。

「名前、あんたの名前よ」

「………いわなかったか?」

「いってないわ」

「そうか………俺の名前は零時だ………剣山 零時………タダのアルバイターいや、フリーターだな………これでよし………まだ痛むか?痛むならこの部屋に隠れてていいぞ?」

 跪いているような姿勢で零時はしたから鈴を眺める。

「こ、こんな暗い部屋にいろっていうの!?」

「ああ、悪化するかもしれないからな」

「……………誰が私を護るのよ?」

 その言葉に不思議そうに首をかしげる零時。

「何だ、それ?」

「縄を解いてくれたでしょ?私を助けてくれたじゃない!首をつっこんだら最後までやるのが人の道ってものじゃないの?」

 鈴はそういうが零時は首をすくめる。

「何いってんだよ………お前の足を心配してんだよ、俺は」

「私が死んじゃったら足の心配したって意味ないでしょ!」

 もっともなことをいう鈴に対して零時は再び首をすくめる。

「………足は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ」

「そ〜かい、それなら一緒に来るか?それなら絶対にお前を護れるからな」

「……………ついていくわよ」

 ぶすっとした表情のまま鈴は零時よりも先に部屋を出て一人でずんずん進んでいったのだった。

 それを後ろから眺めている零時は一言、

「まったく、素直じゃないのがあの年頃か?」

と呟いて鈴を追いかけていったのだった。

―――

 慎重に二人して歩いていくと厨房らしきところにやってきた。

「………鈴、ちょっと俺の後ろに隠れるような形でついてきてくれ」

「わかったわ」

 腰を低くして厨房内の様子を確認するとどうやらコックたちが捕らえられているようだった。

 先ほどのような男たちの姿を探してみると一人、銃を持っている男が食事をしている最中のようだった。

 警戒しているのかやはり左手には銃を持っており、右手にフォークを持って肉を食べている。

「………隙だらけだよな」

 零時は瞬時に相手の隣に立って口を開くと共に引き金を引く。

 相手はそのまま倒れて動かなくなり、零時は首をすくめる。

「………死んだの?」

「いや、寝てるだけ………信じてくれないならためしに撃ってやろうか?」

 そういう零時の腰辺りを鈴ははたく。

「冗談だよ、冗談………本当は人数とかを聞きたかったんだが………どうにも危ないまねはしたくないんでね………」

「そんなことより、今はコックたちを助けるほうが先決でしょ?」

「はいはい、わかってますって………ほら、ナイフ………人質を間違えて切るなよ?」

「そんなへまはしないわよ!」

 近くに縛られているコックを縄から解放するために零時と鈴はそれぞれ近づいていって猿轡や縄を解いていく。

 ざっと二十人ぐらいのコックを助けて零時がコック長と思われる人物に話を聞き始めた。

「この場所にやってきたのは何人ですか?」

「さっきの一人だ」

「そうですか、それならこの中に怪我をしている人とかはいますか?」

「いねぇ、皆あんたたちのおかげで助かったぜ」

「それはどうも………一階の正面玄関からは多分もう逃げ出せると思いますので速やかにここから退去して警察を呼んできてもらえないでしょうか?途中、この男たちの仲間たちがいるかもしれないですが放っておいてもらって構いません」

「わかった、それに従う」

 コックたちはそのまま(中には先ほど銃を持っていた男に対しての復讐なのかその顔面にケーキをぶつけるコックもいた)零時がいったところへ向かってフライパンやらフライ返しやらで武装して廊下を駆け抜けていったのだった。

「鈴、お前もいかなくていいのか?」

「………いいわ、正面玄関ってここから結構距離があるから疲れるもの……私、疲れるのは嫌いだわ」

「そうかい、それなら足元に気をつけてついてきてくれよ」

 零時はそういって再び廊下に出て歩き始めたのだった。

 廊下を歩き始めてすぐに鈴は零時にたずねる。

「………ねぇ、なんでそんなに強いの?」

「強い?何のことだ?」

 後ろを振り返ることもなく、ぎりぎりで声が聞き取れるほどの大きさで零時は話しながら廊下を歩いていく。

「零時よ、零時」

「俺?ま、運が強いってことにしといてくれ………俺は類まれなる幸運の男だからな」

「ふ〜ん………」

「あ、その声は信じてないな?食玩で狙ったおまけを当てれるほどの強運の持ち主なんだぞ、俺は」

 本当だぞと念を押しながら零時は歩いていたのだが途中で鈴に声を出す。

「鈴、ちょっとここで座って待ってろ」

「え?」

 そういうが早いか零時はあっという間に走り去っていき、何かを背負って戻ってきた。

「救助」

 背負ってきたのは少年で、鈴よりも年齢が一つか二つほど低いだろう。

「少年、大丈夫か?」

 零時はその少年に話しかけると、少年は目をゆっくりと開けていったのだった。

「ん………」

――――

 少年の名前は田中 太郎だそうだ。

 どうやら鈴の知り合いのようだった。

「僕が目を覚ますとあなた方がいたというわけです…………それ以前はパーティーで誰かと話していたような記憶があるのですが、覚えていません」

「太郎君は田中グループの御曹司なのよ」

「そうかい、怪我が無くて何よりだったな………田中君、君はパーティー会場にいたんだろ?」

 その問いかけに首を縦に振る太郎

「ええ、いましたよ」

「何人ぐらいの犯人たちが入ってきた?」

「合計で十人ですね」

「そうか………」

 なにやら思うところがあるのか零時は頭の中で計算しているようだった。

「………残り六人って所か?とりあえず、パーティー会場を覗いてくるから鈴、お前は太郎君を連れてひとまず安全なところに行け」

「安全なところって?」

「そりゃ、この建物を出ることだな………俺、わりぃが方向音痴でな………どっちが出口か良く知らん」

「それならまずあなたがパーティー会場についていけないじゃないの………」

 鈴がそういうと太郎が口を挟む。

「道がわからないのなら任せてください。ここ、僕の父が立てた建物ですから内部は熟知しています」

「そうかぁ………うん、それじゃ太郎君に悪いが道案内頼むとするか………」

 こうして、太郎、零時、鈴の順番でひとまずパーティー会場に向かうことになったのだった。

――――

 パーティー会場の扉は締め切られており、太郎が率先して中を見たのだが身長が届かないのか中をよく見ることはできないようだった。

「………」

「零時、ちょっといい?」

 なにやら様子のおかしい鈴を零時は見る。

「何だ?誰かいたのか?」

「いや………トイレにいきたいんだけど?」

「………いって来い、できればそのまま戻ってくるな」

 鈴はそういって近くのトイレを探しに旅立ち、太郎と零時がその場に残る。

「……………太郎、お前嘘ついてるだろ?」

「はい?何についてですか?」

 首をかしげる太郎に対して零時は視線を注ぐ。

「お前の身長じゃ見えなかったかもしれないが、俺の視点からじゃちょうど窓があってそこを介して廊下の鏡に当たって中が見えたんだよ………それと、だ………」

 零時は懐から何かを取り出すとそれを太郎に見せた。

「これ、お前の手下が持ってたぜ?」

 零時がその手に握っているもは『偉大なるボスのために』と書かれている太郎の写真だった。

「………やれやれ、まったく、使えない上に僕の足を引っ張るとはね………あの連中には失望したよ」

「お前、何が目的だ?」

 ゆっくりと歩きはじめる太郎に零時は尋ねるが、既に拳銃を握っていた。

「………意味がわからないだろう?」

「あ?」

「意味がわからなくて結構さ………それより、一つだけ聞かせて欲しい」

「何をだ?」

「鈴さんがいるところでも充分話せたと思うんだが何で話さなかったんだい?」

「………あいつがいるとややこしそうだったから………ちょうど似たような友人を一人もっているんでね」

「そうかい………それじゃその気遣いに感謝して今日のところは素直に引き下がることにするよ………零時君、次を楽しみにしてくれ……次はこうもあっさりと引き下がらないから………」

 太郎はそういうと近くの窓から脱出し、闇夜にまぎれてしまった。

「ったく、この町も安全じゃねぇな…………さてと、瑞樹を拾って今日のところは帰るとするか」

 零時は聞こえてきたパトカーのサイレンに顔をしかめると扉を静かに開けて中に入ったのだった。

「瑞樹、帰るぞ」

 返事の無い友人を肩に担いで零時はパーティー会場を後にしたのだった。

 そして、零時と太郎がいなくなったあとに鈴は戻ってきたのだが………

「君、大丈夫か!」

「被害者確保!!怪我などはしていないようです!」

「え、あれ?零時は?零時!零時どこにいるの!」

――――

エピローグ

「謎の襲撃者、田中グループの御曹司行方不明!!だってさ」

 飄々とした男が新聞を傍らの男に見せる。

「だってさってなぁ………俺たち貧乏人にはどうでもいいことだろ」

「おいおい、社会性が無いなぁ………ところで、学校で寝てて寝言で言っていた鈴ってどんな娘さんだい?」

「ちっ………また余計なことを………大学で寝るもんじゃないな………そんときの事件の被害者の一人だ」

「ふぅ〜ん」

「ま、どっかのお嬢様かも知れねぇな……おっと、携帯に電話がはいった………」

 男は携帯を手にして…………新聞を未だに読んでいる男にいやそうな顔をして告げる。

「………まったく、お前の探知能力には脱帽だぜ………」

「そうかい?」

 電話の相手は男が受話器から耳を話したのを悟ったらしい。

『ちょっと零時!ちゃんと聞いてるの?今、この前のお礼をしにきてあげたわよ!』


〜Fin〜


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