創造神の要求
とある宇宙飛行士の日記。
西暦2510年4月5日。
人類初一人用小型スペースシャトルに乗り、私を含めた10名は単独宇宙へ飛び出し、宇宙開発を開始。
人類が単独で宇宙へ飛び出す歴史的な瞬間だ。
しかし何ということだ。
西暦2000年以降、地球の緑は激減している。
ここから見た地球は緑を見つけるのが難しい程だ。
人々の希望を砕かぬよう私も頑張らねばいけない。
第二の地球を見つける為の第一歩なのだ。
2510年5月1日。
地球側から送られてくる要求を淡々とこなす日々。
しかし、私は満足している。
これが私の選んだ道だからだ。
だが、家族の事も気にはなっている。
もちろん声は地球からの通信で聞いてはいるが、それでも心配である事に変わりは無い。
2510年6月26日。
今日も難なく作業をこなす。
なんら異常は無い。
ただ一つだけ言うとしたら宇宙食には飽きてしまった。
妻の温かくて美味しい料理が食べたいものだ。
2510年7月11日。
今日は息子の7歳の誕生日だ。
通信で息子と一緒に誕生日を祝った。
きっと私が地球に帰る頃には背も大きくなっているのだろう。
あの年頃の子供は本当に成長が早い、もしかしたら私の顔も忘れかけているのではないか。
・・・いや、流石にそれは無いと信じたい。
2510年8月27日
謎の電波を察知した後、機体が大きく揺れた。
機体に損傷は無いが、地球側からの通信が得られなくなる。
また他の機体に乗る者との連絡も取れなくなる。
これでは指示が得られない。
今から通信機器に異常が無いか調べようと思う。
異常が無い場合は、このまま待機。
異常が見られた場合は修復作業に移る。
2510年8月28日
どうやら通信機器に異常は見られないようだ。
直す手間が省けたが、地球側からの通信が得られないのでは動く事ができない。
地球側の通信機器の故障と言う事もありうるし、昨日の謎の電波が妨害している可能性もある。
今暫く様子を見よう。
2510年10月4日
宇宙へ出て半年が経った。
今日が帰還予定日だが、一行に地球側からの電波が届かない。
食料も底を尽きた。
通信ができないまま帰還するのはリスクが大きいが、
餓死等をしてしまえば本末転倒。
これから地球へ帰還しようと思う。
だが、ここで気が付いた事が一つある。
地球の様子が変なのだ。
半年前と比べても緑が激減している。
それどころか、緑など全く無い状態なのだ。
海も何処か薄黒い。
もしかしたら地球では、私の知りえない何かが起きているのかもしれない――――――。
宇宙で書き続けた日記を、鞄へしまう。
『カチャ・・・・・』
私は覚束無い足で立ち上がり、ポッド上部にある扉を開けて外へ出る。
どうやら無事に海面へ着水したようだ。
だが何だこの空の色は。
灰色の空から太陽の光がちらほらと見えるだけの世界。
海も太陽の光が遮られ、黒い色に染まっている。
いやそれだけでない、海自体が汚いのか。
「一体地球に何が・・・・」
『人類は絶滅した』
私が一人言を漏らすと、それに答えるように頭の中へ声が響く。
一体何なのだ。
誰の声なのか。
「誰だ!」
この見たことも無いような世界で、心に訴えかけてくる声。
恐怖に怯えて思わず叫び声をあげてしまう。
『私が誰でも良い。
人類は滅びたのだ』
低く響く声。
感情は感じられない。
怒っているのだろうか?
嘆いているのだろうか?
「人類が滅びたとは・・・」
理解できない。
半年前。
私が地球で暮らしている頃には、その様な前触れは一切無かった。
平和そのものだったのだ。
『地球を好き勝手に開発した挙句。
資源を食いつぶした後に、戦争を行い勝手にいなくなった。
唯それだけだ』
「馬鹿なっ!
私が宇宙へ出てまだ半年!
その様な短期間で地球の資源が無くなるなど・・・!」
『お主は偶然生き残ったのだよ。
人間では考えもつかない程の時を飛び越え、今に至るのだ』
「時を飛び越え・・・まさかタイムスリップをしたとでも!?
そんな話信じられるか!?
まるで映画の世界じゃないか!」
『それでも信じねばならない。
その証拠に地球と言う星は美しさを失い、人類は滅びている。
事実は事実だ』
私が幼い頃に見た映画そのものだ。
映画では地球は他の生物に支配されていたが。。。
『そこでだ。
私には一つ提案がある』
初めて声の調子が変わった。
ほんの少しだが、声のトーンが上がったのだ。
提案がよい提案である事を祈ろう。
『地球を開発して欲しいのだ』
途方も無い事を言われた。
緑も無ければ、水も無い。
第一ここは海の中心。
どうやって開発などできようか。
『心配はご無用だ。
私はお主に力を与える』
「力?」
『そうだ。
それは創造する力。
思った事を具現化できる力だ。
その力を使って人間の過ちを治し、宇宙で最も美しい星、地球を復活させて欲しいのだ』
これもまた途方も無い事だ。
創造する力。
この声の主は私に全知全能の神になれとでも言うのか。
『どうするかね?』
しかし、言葉を信じるならばやる以外に道は無い。
やらねばいけない。
「やらせてもらおう」
『では力を与える。
頑張りたまえ』
その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
「創造する力・・・と言われても具体的に何をすれば良いのか・・・・」
・・・・・!!!
途方に暮れていたその時。
俺はある事に気が付いた。
何時の間にやら陸地にいるのだ。
海の上でなくて、陸の上に、目の前が一面の砂漠になっていた。
「・・・海から陸に上がりたいと言う気持ちがそうさせたのか」
どうやら創造するのみでなく、自由に移動もできるらしい。
では・・・・私の母国『日本』へ移動するとしよう。
どうなっているのかも気になる。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
何度念じてみても移動しない。
先ほどは確かに瞬時に移動した。
強く念じる以前にすぐに陸地にいたのだ。
・・・!!!
まさか・・・・。
「この砂漠が・・・日本・・・なのか・・・」
そうだ。
よく考えてみれば、私が生まれ育った地はここ日本。
陸と思って創造するのは『日本』に決まっているのだ。
「するとここは私の生まれ故郷でも在るという訳か・・・」
これは少々ショックが大きい。。。
ここには私の妻と子供が住んでいたのだ。
しかし先ほどの声を当てにすると、私の家族は大昔にこの世を去っている事になる。
だが・・・。
諦めてはいけない。
私は想像する力を持ったのだ。
そうだ、この力を持ってさえすれば・・・・人々や私の生まれ故郷ですら。。。
まずは町からだ。
人々が困らないように町を創造しよう。
私は強く念じると、ぼんやりと町の風景が私の周りを囲みだした。
そして、大まかな風景が具現化された。
だが、細かい部分で何かが足りない。
「・・・そうそう、ここに本屋があってここに学校。
電信柱なんかもあった」
一つ一つ思い出すように、頭から記憶を搾り出すように具現化していく。
「・・・ここに信号はあったか・・・?」
時々忘れている事もあったが、思い出しては具現化、思い出しては具現化。
そしてどれだけ時間が経ったか分からないが、私の生まれ故郷の町が完成した。
何処か違和感があるが、仕方ない。
ガードレールの錆びや、建物の汚れ等、細かい物までは思い出せない。
全てが新品。
これが私の・・・・生まれ故郷・・・・なのか?
イマイチしっくりこない。。。
あぁ、そうだ。
私の家を忘れていた。
町の一角にある一軒屋を事細かに思い出す。
ついでに愛車もガレージに置いておこう。
家の構造もキッチリと思い出す。
建てて間もないピカピカの家。
こんなに綺麗だったか・・・・。
まぁいい。
綺麗な方が皆喜ぶさ。
よし、ついに妻と息子の番だ。
元通りに・・・全て元通りに。
妻と息子を強く念じる。
妻の顔・・・少し若返ってるかな。
ほくろの位置は目の下。
お気に入りの服はアレとこれで。。。
息子の顔だってすぐに創造できる。
宇宙にいた時だって、写真を持っていたから。
でもそれは半年前の写真。
半年後にどうなっているかは知らない。
でも、これが私にできる限りの創造。。。
徐々に人の形になってゆく。
そして・・・・。
「出来た・・・!」
我ながら上出来だ!
私の周りはこれで昔どおりになったはずだ!
「・・・・?」
しかし、二人は一行に喋ろうとしない。
それどころか感情すらないように見え、常に無表情だ。
そうか。
性格までは創造していなかった。
人は物とは違うんだ。
妻は優しくて明るい性格。
息子は活発で元気な子・・・と。
「・・・あら、あなた・・・お帰りなさい」
「お父さんお帰り!」
笑顔で二人は私を見て、そう言った。
思わず私も笑みがこぼれる。
「あぁ、ただいま・・・・」
「ほら、二人とも家に入りましょ」
妻が家のドアを開ける。
そして勢いよく靴を脱いで家の奥へ走っていく息子の姿。
家族で出かけた時なんかは、これが何時もの風景だ。
私が望んでいた物だ。
「仕事お疲れ様、ご飯の用意は出来てないけど、何が食べたい?」
「う~ん、そうだな。
得意な物で良いよ」
久しぶりの妻の料理だ。
どうせなら得意料理を食べたい。
「・・・得意な物ってなに?」
玄関で靴を脱ぎながら、私は固まった。
そう言えば妻の得意料理とは何だったのか。
聞いた事がない。
これが本物の妻だったら・・・・・・いや、その事は考えるな!
今からは彼女が本物なんだ。
「・・・い、いや。
そしたら、ハンバーグが良いな。
皆好きだし」
「うん、でも冷蔵庫の中何も入ってないの」
冷蔵庫の中には何が入っていたのか。
創造していない。
「買いに行けばいいじゃないか」
「何処へ?」
私には分からない。
妻が何処へ買い物に行っていたのか。
「じゃ・・・じゃあ、材料を言ってくれ。
用意するから」
「ハンバーグの材料って?」
・・・・っ!!!!
「それ位分かってくれよ!!!
さっきからなんだ!!からかってるのか!?」
「ううん。
そんな事してないわよ。
だって分からないんだもん」
笑顔でそう返す妻。
本来は俺が怒鳴りを上げると、妻もそれに反応して言葉を返してきた。
喧嘩をした晩に話し合いが行われて、次の日にはすっかり忘れてお互い笑顔に・・・。
しかし、今そこには私が先ほど設定した「優しくて明るい」だけの妻がいた。
違う・・・・・・・。
こんなのを・・・・望んではいない!!!!!!!!
私は駆け出した。
扉を開けて、誰もいない綺麗な町の中へ飛び出した。
不完全な町の中を駆ける。
そして、町の風景が途切れる頃に、またあの声が聞こえてきた。
低く、響く声で。
『分かったかね?
創造とは実に難しい。
その難しい世界をいとも簡単に潰してしまった人間は実に愚か。
それが分かったかね?
さて、この世界をどうしようとお主の勝手だ、私はここを去ることにしよう』
「ま、待ってくれっ!!!」
呼び返そうとするが声は返ってこない。
声の主は全知全能の創造神だったのだろうか。
創造がいかに難しいか。
それを人類に教えるために、私にこの力を与えたのか。
だとすれば彼は次の星へチャンスを与えに言ったのか。
地球に住んでいた愚かな種類の生物に見切りをつけて。
声の主の本当の要求は、人間の愚かさを人間自信に実感してもらう事だったのだ。
地球を改善しようともしないで、次の惑星を捜し求める人類に対する天罰。
そして、私はそれを身を持って感じた一人の人間。
いっその事人類の歴史の中で死んでいった方が気楽であった。
振り向くと、先程まであった町は跡形も無く消え去っていた。
地球環境が破壊され、人類が絶滅した後の話。
この話見て考えて欲しい事は。
あなたならどうするか。
という事です。
是非とも考えてみてください。
どの様な事をしても声の主は許してくれないでしょうか?
しかし、最初に創造神が行った事を行えば、
少なくとも地球は再生したのかもしれませんね。
彼の身の回りの事のみでなく、地球を出来たばかりの姿に戻す。
それが出来れば、声の主に見捨てられる事も無かったかもしれません。