第42話「すごいじゃん」
商品化。 その二文字が、まだ自分のものにならない。
だけど。
一つだけ決めていた。
冬休みに入る前に。
(今日は話そう) 柊に。
教室へ入る。
柊はいつも通り友人と話していた。
声を掛けようとして。
やめた。
休み時間。
声を掛けようとした瞬間。
柊は友人に呼ばれてしまった。
やっぱり無理だった。
気付けば放課後だった。
「……何やってるのよ私」
凛は小さく呟いた。
帰り支度をしていたその時だった。
「真白」
聞き慣れた声。
顔を上げる。
柊だった。
「帰んないの?」
「帰るわよ」
「じゃあ行くぞ」
当たり前みたいに言う。
凛は少しだけ驚いた。
気付けば一緒に校門を出ていた。
しばらく沈黙が続く。
言わなきゃ。
そう思うのに言葉が出てこない。
「なぁ」
先に口を開いたのは柊だった。
「昨日の話」
「っ」
心臓が跳ねた。
「昨日?」
「美琴が騒いでたやつ」
覚えていた。
当たり前なのに少し嬉しい。
「……あの、これ」
凛はスマホを取り出した。
画面を開く。
何度も読んだDM。
柊へ差し出した。
「どれ?」
柊は画面を見る。
数秒。
もう一度読む。
さらに最後まで読む。
凛は落ち着かなかった。
変な文章だったらどうしよう。
勘違いだったらどうしよう。
そんな不安ばかり浮かぶ。
やがて柊が顔を上げた。
「すごいじゃん」
あっさりと言った。
「え」
思わず声が漏れる。
「いや、すごいだろ」
柊はスマホを返した。
「商品化の話なんだろ?」
「まだ決まったわけじゃないわよ」
「でも声掛かったんだろ」
「そうだけど」
「じゃあすごいじゃん」
当たり前みたいに言う。
凛は少しだけ肩を落とした。 「……それだけ?」
柊は首を傾げた。
「何か変か?」
「もっとこう」
「もっとこう?」
「驚くとか」
「昨日の美琴みたいに?」
「うん」 「もっと驚くと思ってた」
柊は少し笑った。
「いや」
「俺は『やっぱり』って思った」
「真白さ」
「なによ」
「好きな物に一直線だった」
「ずっと変わらないもんな」
「だから、いつか誰かが見つけると思ってた」
凛は黙る。
海へ行った日も。
花火の日も。
休日も。
工場で塗装していた。
「だからじゃね?」
「え?」
「そういうの」
柊は前を向いたまま言う。
夕方の風が吹いた。
凛は返事ができなかった。
胸の奥が少しだけ熱い。
「……そうかな」
「そうだろ」
即答だった。
しばらく二人で歩く。
やがて駅が見えてきた。
その時。
「創作フェスでまさか、出店側になるとはな」
柊が言った。
「俺必ず行くから」
「うん」
「じゃあ頑張れよ」
短い言葉だった。
だけど。
なぜか美琴に褒められた時より。
祖父に褒められた時より。
嬉しかった。
「……うん」 凛は小さく頷いた。
そして思う。
(私、柊のこと本気で好きなんだ。)
駅へ向かう柊の背中を見つめる。
(やっぱり。) 少しだけ笑う。
(最初に話したかったのも、柊だったんだ。)




