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『かかって来い、私の初恋!~』 『これが恋だって、気づかなかった。』   作者: 季波


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36/50

第36話「発売日」

発売日だった。



真白凛は鏡の前で固まっていた。

「……」

クローゼットが開いている。

ベッドの上には服が並んでいた。

淡い水色のワンピース。

白のカーディガン。

別のスカート。

何着か試した結果だった。



「別に」

小さく呟く。

「ソフビ買いに行くだけだし」

鏡の中の自分を見る。



数秒。

そして着替え直した。

「こっちの方が動きやすいし」

誰も聞いていない言い訳だった。



日焼け止め塗って、淡い色付きリップを塗る。

身だしなみを整えてるだけだわ。



髪もいつもより入念にとかす。

服を着替えて、鏡を見る。

「よし」

―――――


駅前。

時計は九時二十五分。

凛は少し早めに着いていた。

スマホを確認する。



発売情報。

整理券配布。

入荷数。

何度も見た情報だった。

その時。



「早いな」

聞き慣れた声。

振り向く。

柊がいた。

私服は見慣れてるのに、なぜか鼓動が早い。



「あ」

思考が止まる。



「どうした」



「ううん」

慌てて視線を逸らした。



「柊も早いわね」



「五分前だろ」

そう言われればそうだった。

「行くか」



「うん」

二人は駅へ向かった。

―――――

店の前にはすでに列ができていた。

「結構いるのね」



「人気なんだろ」



「当たり前よ」

凛は真剣だった。



店員が整理券を配る。

二人も受け取る。

そして店内へ。

入口近く。

特設コーナー。



大きなポスター。

『月光蜘蛛ブラインドボックス』

凛の目が輝いた。

「本当にあった……」



「そりゃ、あるだろ」



「写真で見るのと違うのよ!」

凛は完全にテンションが上がっていた。

箱を手に取る。



横を見る。

柊も箱を持っていた。

「え?」「買うの?」



「買うけど」

当たり前みたいに言う。

「ソフビ興味ないでしょ」



「お一人様一個までなんだろ」

数秒。

理解する。

「あ」



「一個増える」

凛は固まった。

「……なるほど」



「だろ」



「ありがとう」

思わず笑みがこぼれた。



柊は何も言わない。

ただレジへ向かった。

―――――

店を出る。

袋の中には二つの箱。

「開ける?」



「昼飯食ってからでいいだろ」



「そうね」

凛も頷く。

近くのファミレスへ入った。

注文を済ませる。

料理が運ばれてくる。

凛は早速話し始めた。

「月光蜘蛛さんってね」



「うん」



「元々ガレージキットから始まった人で」



「うん」



「塗装にこだわりがあるの」



「うん」



「特に目や重ね塗りのグラデーションと細い部分の手塗りがね好きなの」



「うん」

十分後。



「それで――」



「聞いてる?」

凛が疑いの目を向ける。



「三十分くらい月光蜘蛛の話してるぞ」



「そんなに?」

「……ごめん」



「別に」

柊はハンバーグを一口食べる。

「うん、上手いな」

「ずっと、楽しそうに話してるな」



その一言に。

なぜか胸が少しだけ跳ねた。

凛は慌ててドリンクを飲んだ。

―――――

食事が終わる。

いよいよ開封だった。

テーブルの上。

二つの箱。

「いくわよ」



「どうぞ」



凛は慎重に開けた。

数秒後。

「あっ!」

声が上がる。



狙いではない。

でも欲しかった一体だった。

「可愛い!」

嬉しい。

その時。

柊も箱を開けた。

中身を見る。

そして。



「これか?」

テーブルの上に置く。

凛が固まった。



「え」

一番欲しかったやつだった。

シークレットではない。

でも今回一番欲しかったカラー。



「これっ」



「欲しかったやつ?」



「うん、欲しかった」

即答だった。



「じゃあやる」



「え?」



「俺別に分からないし」



「いやでも」



「代わりにそっちくれ」

凛は自分のフィギュアを見る。

数秒。

そして交換した。

「……ありがとう」



「別にいいよ、よかったじゃん」

「狙ってたやつ出てさ」

柊は興味なさそうに受け取る。

でも。



本当に興味がないなら、発売日に付き合ってくれたりしないのかもしれない。

ふとそんな考えが浮かんで――

「……?」

凛は首を傾げた。

よく分からないまま、手の中のフィギュアを見た。



思わず笑顔になる。

「そんなに嬉しいのか」



「うん」

迷いなく頷いた。



柊も少しだけ笑った。

その笑顔を見て。

凛の心臓はまた少しだけ騒がしくなった。

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