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『かかって来い、私の初恋!~』 『これが恋だって、気づかなかった。』   作者: 季波


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第31話「ハナコの応援」

日曜日。

「お邪魔します」

凛は藤代家へ入った。



今日は文化祭の試作の日だ。

本来なら美琴も来る予定だった。



「遅いわね」

時計を見る。

約束の時間は過ぎていた。



「寝坊じゃないか?」

柊が言う。



「美琴が?」



「あり得るだろ」



「まぁ、あり得る」

凛は頷いた。

「電話してみる」



プルルルル。

数秒後。

『もしもーし♥』

元気な声だった。

『ごめんねー! 今日はママと買い物なの♥』

『あっ、ママ呼んでる!』

『凛応援してるからね♥』

『進展あったらすぐ連絡してね』

『またねー』



「えっちょっと待って」

『ツー、ツー』

(なんで私が気まずくならなきゃいけないのよ……)



「美琴、用事あるって」

「じゃあ私も帰ろうかな



「何でだよ」



「だって」



「桜井はホールだし、関係ないだろ?」



「味見する人いないと困るでしょ」



「そうだけどさ」

「やっぱり俺のこと避けてないか?」



「そんなことないわよ」



「そうか」

柊は少し安心したように笑った。

「ほら、始めるぞ」



「えっ、うん」



「こっちだ」

リビングへ入る。



テーブルには材料が並べられていた。

生クリーム。

イチゴ。

スポンジケーキ。



「結局ホールケーキにしたのね」

「普通スポンジから作るんじゃないの?」



「ケーキ屋ならそうするけど、フードメニューもあるし、材料費かかるだろ?」



「それもそうね」

「なら、パンケーキ案は?」



「お前が何百枚焼くんだよ」



「……」



反論できなかった。

「じゃあ、やるか」



柊がエプロンを手渡した。



「ありがとう」

受け取る。

ふと視線が合った。



(顔が熱くなる)

(平常心、平常心)



「どうした?」



「なんでもないわ」

凛は慌てて目を逸らした。



作業は意外と順調だった。

生クリームを泡立てる。

「腕疲れるわね」



「どれ」

素早く泡立てる。



「電動泡立て器ないの?」



「あるけど、大きい音だとハナコびっくりするし」



「そうね、大丈夫よ」

砂糖を入れながら甘さを調整していく。



「いい感じじゃん」

ツノが立ってきた。

柊が人差し指で少しすくって舐めた。

「うん、ちょうどいい」



凛はなぜかその様子を直視できず、慌てて手元のイチゴへ視線を落とした。



フルーツを切っていく。 イチゴはスライスし、キウイは星形に飾り切りする。 ミカンは彩りを見ながら添えていった。



「器用だな」



「ソフビフィギュアを作るのも全部手作業だから、硬さは全然違うけど」



スポンジを重ねる。

「そこ押さえて」



「こう?」



「そう」



二人でケーキを回しながらクリームを塗る。

思ったより近い。

肩が触れそうになる。

「……」

妙に意識してしまう。

(ケーキに集中しなきゃ)

「出来たわ」



「完成だな」

柊が言った。



テーブルの中央にはホールケーキ。

イチゴも綺麗に並んでいる。

「結構いいんじゃない?」



「うん、良くできた」

凛は頬を染めて笑った。



達成感があった。

その時だった。

トタトタトタトタ。

奥からハナコがやって来た。



「ハナコ」「お腹すいたか?」

柊が笑う。



ハナコは真っ直ぐ凛の方へ向かった。

「え?」



ぴょん。

膝の上へ飛び乗る。

「わっ」



さらに肩へよじ登った。

「ちょ、ハナコ?」

ふわふわの毛が首元に触れる。

くすぐったい。

ぺろっ。



「ひゃっ!」

思わず声が出た。

「くすぐったい!」

凛は笑った。



ぺろっ。

ぺろっ。

「ちょっと、ハナコ!」

笑いが止まらない。



「あっ、コラ!」

柊が慌てて抱き上げる。

「お前何してんだ」

ハナコは不満そうに足をばたつかせた。

「大丈夫か?」



「う、うん」

凛はまだ笑っていた。

目尻に少し涙まで浮かんでいる。



「そんなに面白かったか」



「だって、くすぐったいんだもの」

そう言ってまた笑う。



柊は少しだけ目を見開いた。

(こんな顔もするんだな……)

気づけば、目が離せなかった。



「ハナコ、お前変なとこ舐めるなよ」

ハナコはイチゴを食べたそうに見ていた。



「甘い香りがして、飛びついて来たのね」



「ウサギは果物大好きなんだ」

「にしても、食い意地張ってるな」

柊はハナコを見て笑った。



その笑顔を見て、凛もつられて少しだけ笑った。



ハナコは柊の腕の中で気持ち良さそうにしている。



文化祭の準備はまだ始まったばかりだった。



「食うか」



「うん」



ハナコを優しく床に下ろすと、包丁でケーキを取り分ける。



「断面も綺麗に出来てるわ」



「そうだな」

柊がケーキをカットして、お皿に置く。

「はい、どーぞ」



「フォーク取るわね」

同時に手を伸ばす。

指先が触れた。



「あ」

凛は反射的に手を引っ込める。



「悪い」



「ううん、大丈夫」

心臓が一瞬だけ跳ねた。



「ありがとう」

「いただきます」

一口食べる。

「美味しい」



柊の顔を見る。

「うん、上手いんじゃないか」



甘さもちょうどいい。 すごく美味しい。

それだけじゃない気がした。

理由を考えそうになって、凛は慌ててケーキを口に運んだ。

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