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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第2章:偽りの黄金、熱狂のハッキング
9/10

五感の剥離


 しかし、絶頂と引き換えに、

 蓮の身体は急速に「人間」を辞め始めていた。


 朝食に運ばれてきた、

 時価数十万円の最高級キャビアと

 金箔を添えた料理。

 

 蓮がそれを口に運ぶ。


 「…………」 味がない。


 かつて四畳半で飲んだ三〇〇円の焼酎の方が、

 まだ「痛み」という味がした。


 今の蓮にとって、

 食事は単に**「石の粉を噛んでいる」**

 ような感覚でしかなかった。


 舌の表面が石化し、味蕾みらい

 死に絶えているのだ。


 嗅覚も消えかけていた。


 部屋に満たされた数千本の薔薇の香りは、

 蓮の鼻には「古い埃」のようにしか

 感じられない。


 聴覚もまた、

 フィルターがかかったように歪んでいる。

 人々の賛辞は「金属が擦れるノイズ」に、

 風の音は「境界の靄の囁き」に。



「……あと、どれくらいだ」



 蓮が鏡の中の自分に問いかける。

 右目はすでに瞳孔まで石化し、

 焦点が合っていない。


 視界の半分は、常に朱色の霧が立ち込めている。

 石化が全身を覆ったとき、自分はどうなるのか。


 クチナシの村の伝承が頭をよぎる。



(……それでもいい。

 あのアスファルトの冷たさに戻るくらいなら、

 石になって砕ける方がマシだ)



 蓮は、感覚のない石の指で

 スマートフォンの画面をスワイプした。


 その瞬間、数百万人の信者たちの脳内に、

 蓮の「寂しさ」が共有され、

 街中の人々が一斉に咽び泣いた__。



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