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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第1章:白鷺(はくろ)色の鳥居
3/10

微睡(まどろ)む石の徴(しるし)


 どれほどの時間が経過したのか。


 あるいは、

 そこには時間などという

 概念すら存在しなかったのか。


 蓮の意識を現実に引き戻したのは、

 頬を刺すような冷たい雨の感触だった。



「……っ……はぁ、はぁ……」



 肺の奥が焼けるように熱い。


 泥の混じった石畳を掴み、

 蓮は必死に身体を起こした。

 視界がひどく歪んでいる。


 景色全体が、

 古いブラウン管テレビのノイズのように

 絶えず震えていた。


 顔を上げると、

 そこは先ほどの廃神社の境内だった。


 しかし、何かが決定的に変わっている。

 世界から「奥行き」が消え、あらゆる色彩が、

 まるで誰かに彩度を絞られたかのように

 薄汚れて見えた。



「夢、じゃ……なかったのか……」



 蓮は、激痛の余韻が残る右手に目をやった。

 そして、絶叫しそうになるのを

 喉の奥で押し殺した。


 右手の指先。

 爪の生え際から第一関節にかけて、

 皮膚が完全に**「どす黒い、質感の硬い石」**へ

 と変貌していた。


 それは、

 何百年も雨風にさらされた墓石のような、

 冷徹な色をしていた。


 指を動かそうと力を入れると、

 関節の奥で「ミシリ……」という、

 生身の人間からは決して発せられるはずのない、

 硬質な摩擦音が響く。


 蓮は震える左手で、その石化した指に触れた。

 

 感覚がない。


 いや、正確には「触覚」が死んでいる。

 代わりに、指先の芯から、微かな、

 だが確実な**「脈動」**を感じた。


 それは蓮自身の鼓動ではなく、

 何か異質な存在が、

 彼の肉体を介して呼吸しているかのような、

 不気味なリズムだった___。




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