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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第1章:白鷺(はくろ)色の鳥居
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白鷺の再演


 そして、十四歳。

 

 声変わりという

 不可避の生物現象が蓮を襲った瞬間、

 シュレッダーのスイッチは入った。



『声変わり? 困るんだよね。

 不良在庫を抱えるほど、

 うちの番組は暇じゃないんだ』



 鬼童の一言で、スタジオのライトは消えた。

 昨日まで跪いていたスタッフたちは、

 透明人間でも見るかのような目で蓮を無視し、

 彼の席には次の「天使」が座らされた。



「……ああ、そうだ。俺は在庫処分されたんだよ」



 蓮は立ち上がった。

 足元がふらつき、ペットボトルを蹴飛ばす。

 

 もう、この部屋にはいられない。

 かつて自分を称賛した数千万人の視線が、

 今はすべて「軽蔑」という刃となって

 壁の隙間から自分を覗いているような気がした。


 蓮は薄汚れたジャケットを羽織り、

 夜の街へと飛び出した。

 

 目的地などなかった。


 ただ、誰も自分を知らない場所へ・・・


 誰も自分を「元子役」として

 見ない場所へ行きたかった。


 夜風は冷たく、都会の喧騒が

 ノイズとなって脳を揺らす。

 

 どれくらい歩いただろうか。


 気づけば、繁華街のネオンは遠のき、

 周囲は不気味なほどの静寂に包まれていた。


 目の前に現れたのは、

 地図にも載っていないような

 古びた神社の入り口だった。

 

 不法投棄されたテレビや冷蔵庫が雑草に埋もれ、

 異様な腐敗臭が漂っている。

 

 その神社の参道には、崩れかけた朱色の鳥居が、

 不気味な等間隔で並んでいた。



「……なんだ、ここ」



 蓮は、壊れたスマートフォンのカメラを、

 何気なくその鳥居に向けた。

 その瞬間、彼の背筋に氷のような悪寒が走った。


 肉眼で見れば、

 それはただの朽ち果てた古い鳥居だ。


 だが、スマートフォンの液晶画面の中では、

 その鳥居は**「鮮血を塗りたくったような、

 どす黒い赤」**に変質し、脈動していた。


 一本、二本。

 蓮は、スマホの画面越しに鳥居を見つめながら、 その下をくぐっていった。

 

 三本、四本。

 鳥居をくぐるたびに、現実の音が、

 膜を一枚隔てたように遠ざかっていく。


 五本、六本。

 深夜のはずなのに、頭上の空は

「境界」を超えた証のように、

 どす黒い紫に染まり始めていた。


 七本、八本。

 最後の朱色の鳥居を抜けた先。


 そこには、

 肉眼では決して捉えることのできない、

 圧倒的な存在感を放つ「九本目」が立っていた。


 それは、純白。


 雪のように白く、死装束のように冷たく、

 そして白鷺はくろの羽のように鋭い。


 「白鷺色の鳥居」。



「……これ、は……」



 蓮がその白鷺色の鳥居に一歩近づいた瞬間、

 周囲の景色が崩壊した。


 地面は数えきれないほどの「下顎の骨」が

 敷き詰められた白い草原へと変わり、

 頭上からは黒い雪のようなすすが降り注ぐ。


 そして、鳥居の中央。

 そこには、物理的な形を持たない、

 漆黒の渦——**「黒いもや」**が、

 宇宙の断絶のように口を開けていた。



『 ……愛されたいか 』



 声ではない。


 それは直接、脊髄を震わせる「振動」だった。



『 忘れられたくないか。

 もう一度、あの光の下で、全てを支配したいか 』



 蓮は、その黒い霧に向かって手を伸ばした。

 恐怖はなかった。


 あるのは、自分を捨てた世界に対する、

 底なしの復讐心だけだった。



「……戻りたい。俺を笑った奴らを、

 全員……ひざまずかせたい!」



『 契約は成った 』



 その瞬間、

 黒い霧から細い触手のような影が伸び、

 蓮の右指を貫いた。



「が、あああああああああああああああ!!!」



 熱い。

 

 指先から心臓に向けて、

 沸騰した鉛を流し込まれたような激痛。


 蓮の視界は真っ白に染まり、

 彼の魂は、人としての形を失い、

 境界の闇へと溶けていった___。



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