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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第2章:偽りの黄金、熱狂のハッキング
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再会


 ある夜、蓮は奇妙な衝動に突き動かされ、

 一人でホテルの非常階段を降りた。

 

 周囲には鉄壁の警備がいるはずだが、

 蓮が「俺を見るな」と念じれば、

 彼らは彫像のように硬直して視界を逸らす。


 深夜のホテルのロビー。


 そこに、不自然なほど静かに佇む人影があった。


 その少女は、現代的な服を着てはいたが、

 その存在感だけが周囲の景色から

 浮き上がっていた。


 蓮は、心臓の奥が凍りつくような感覚を覚えた。


 味覚も嗅覚も失った身体が、

 その少女の存在にだけは、

 激しく「生命」として反応したのだ。



「……お前、は……」



 少女がゆっくりと振り返る。

 それは、あの白鷺色の鳥居の向こう側

 

 ——黒い靄の隣にいた少女、

 **紗夜さよ**だった。


 彼女は言葉を発さない。

 案内人コトシロが言っていた通り、

 彼女は「声」を境界に置いてきたのだ。


 だが、彼女の瞳は、

 蓮の洗脳を一切受け付けず、

 鋭い透明感を持って蓮を射抜いた。


 蓮は、石化した右手を無意識に隠した。



「なぜ、ここにいる。お前も、

 俺を拝みに来たのか?」



 紗夜は首を振った。

 彼女は蓮に近づくと、その冷たい石の腕に、

 そっと自分の小さな手を添えた。

 

 洗脳された信者たちの、

 卑屈で熱狂的な接触ではない。


 そこにあるのは、純粋な、

 そして深い**「憐れみ」**だった。


 彼女の指先が触れた瞬間、

 

 蓮の石化した肌から、

 かつての「温もり」が一瞬だけ蘇った。


 だが、それは同時に、

 蓮が封じ込めていた

「人間としての痛み」を

 呼び覚ます激痛でもあった。



『 ……逃げて 』



 紗夜の声は聞こえなかったが、

 蓮の脳裏にはその意志が鮮明に焼き付いた。



「逃げる? どこへ。

 俺は今、世界の頂点にいるんだぞ。

 すべてを、思い通りに演出できるんだ!」



 蓮は虚勢を張った。


 だが、紗夜の瞳が、

 自分の背後を指し示していることに気づく。

 鏡のように磨き上げられたロビーの壁に、

 蓮の姿が映っていた。


 そこには、神々しい若者の姿などなかった。


 全身から朱色の血を流し、

 数万人の呪詛の言葉を全身に刻まれた、

 醜悪な**「人柱」**の成れの果てが、

 そこに立っていた。



「……消えろ! 俺をそんな目で見るな!」



 蓮が右手を振り上げると、

 衝撃波のような洗脳の波動が

 ロビーを駆け抜けた。

 

 だが、紗夜は消えなかった。


 彼女はただ、悲しげに微笑むと、

 一輪の「クチナシの花」を床に置き、

 霧のように姿を消した。


 蓮は床に落ちたその白い花を、

 震える左手で拾い上げた。


 花からは、何の匂いもしない。


 ただ、その白さだけが、

 九本目の鳥居の色と同じ、

 残酷なまでに純粋な色彩を放っていた。



「……鬼童。次は、お前だ」



 蓮は、自分を捨てた男の末路を

 確認するために、歩き出した。

 

 復讐はまだ終わっていない。


 鬼童を単に廃人にするだけでは足りない。

 彼が作り上げた「演出」という名の世界を、

 完膚なきまでに「解体」しなければ

 ならなかった___。




 第2章、完。


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