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ハンターギルドの生態調査 2

 最近、中庭に野良猫が出没するようになった。人懐っこく愛嬌があるため生徒からも可愛がられる存在になり、特に女子人気が高い。

 イチャイチャするカップルに嫉妬する気持ち。一方で、その立場になりたいと願う気持ち。どちらの想いも理解できる。

 しかし、猫そのものになりたいかと言われたらやっぱり疑問符が付く。


「ねね、ラドくんもワシャワシャしてもらいたいって思う?」


「いや……考えたこともないけど」


「あたしはされてみたーい」


「レナは猫になりたいの?」


「え?」


 ペットで飼われるならまだマシな方。野良猫になってエサの奪い合いや縄張り争いが付きまとう熾烈な生存競争に身を置く勇気はない。


「ほらぁ。隙あらばイチャイチャするんだもん。僕だって彼女を作ってさぁ……」


「アレは話が噛み合わず気付かねぇだけのド天然だ、ほっとけ」


「レナは健気よね。でもまだ早すぎて伝わらないのは残念でしたー」


 結局ボクがターゲットにされているし、レナはしょんぼりしている。


「レナのアプローチは遠回り過ぎ。ところでミーシャって、そんなに猫が好きなの?」


「普通かなぁ。一昨日カイザーに誘われて行った時は拝めなかったんだけどさ」


「お前それは黙ってろっつっただろ」


「あー、あの時ね。ラドまで誘ってイヤらし」


 昼食後、中庭に行こうと言い出したのはカイザーだった。

 大男のチンピラがひとりで猫を愛でるのは恥ずかしいんだろう。ボクやミーシャが一緒なら周囲の目も気にならなくなるし、それほどまで猫というのはカワイイから仕方ない。

 しかし、ジュディアの見立ては違っていた。


「ふーん。そうだ知ってる? 中庭で野良猫を撫で回す時にしゃがむ女子のパンチラ目当ての男子がいるって、ハンターギルドでも噂になってんの。今はまだ騒ぎにはなっていないけれど、顔を覚えられる前に止めておきなさいよカイザー」


 カイザーはまたしても顔を背けている。あの日は野良猫もパンチラも見られなかったから後ろめたいことはないんだけど、これからは中庭に通いにくくなりそう。


「ねーラドくん、今度一緒に行こうよー。運が良かったらパンチラだよー」


「どうしてレナが見たがるんだよ……」


 女子が、同じ女子のパンチラを見たいというおかしなことを平然と要求してくるんだから、レナには知られたくなかった。


「まったく、男子って猫をダシに変なこと考えてばっか。それよりそうそう、ケモナーといえばカイザーさあ」


「あぁん!? 誰がケモナーだ俺様にそんな趣味はねぇぞボケ」


「違うわよバカ。今夜の予定、延期ね」


「今夜の予定って!? なになに!?」


 カイザーとジュディアがそういう関係じゃないのはレナも知っているはず。先ほどの恋バナでは期待した回答が得られず意気消沈していたが、その瞳には再び光を宿していた。


「もしかしてって思っていたけれど、やっぱりカイザーとジュディアってそういう関係だったのか…………いいなぁ」


「だーっ! 調査よ調査、生態調査!!」


「根も葉もない妄言を口にすんじゃねぇ!! まだ野良猫相手にに盛った方がマシカハッ」


 カイザーとジュディアは互いに腐れ縁だと言い合うくらいだし、端から見れば美男美女のカップルと勘違いされてもおかしくない。

 ボクだって、否定するに足りる確証を突きつけられるまではミーシャと同じ考えを持っていた。


「表向きは動植物の調査なのよね。でもほら、ちょっと前に派手な魔物騒動があったじゃない。その追跡調査ってわけ。それにさー…………つい先日の迷宮探索ゲームの後に魔獣騒動があったからヤバいと思うんだよね」


 エスカレア特別区全土に影響を及ぼした『魔物騒動』は収束まで日にちを要したし、信用と信頼を失墜させてしまった。避難した生徒の多くは戻ってきたけど、全員ではない。

 趣味研の迷宮探索ゲームが発端となった『魔獣騒動』は早い段階での揉み消しと隠蔽が上手くいったおかげで、明るみになることはなかった。

 このふたつの騒動には、奇しくもXクラスのボクたちが深く関わっている。


「懲罰のボランティア活動ってまだ続いてたの?」


「きっかけはわたしたちだったけれど、ここまで懲役を科すほど非情じゃないわよ。これはハンターギルドの活動だし、報酬だって高いの」


 生態調査は危険が伴うため護衛を付けることが必須となっている。気の知れたカイザーならばうってつけのクエストだし、今夜に備えてナイトギルドを休んでいたんだ。


「雨天中止になったんだから仮眠する必要ないっしょ、起きろって。現時点でこの雨だし、夜半には止むみたいだから明日よろしく」


「明日って金曜か、悪ぃ俺様は無理だわ。今回は他を当たってくれ」


「うへー。ただでさえ迷宮探索ゲームじゃナイトギルドとハンターギルドで一悶着あったのに、今からペアを組む相手を探すって骨なのよね」


 ペアを組む理由はケガや滑落などの事故が起きた時に助けてもらうため。

 場合によっては応援を呼んでもらう必要も出てくるし、この調査は魔物調査も兼ねているので護衛の役割も求められていた。


「今まで魔物が出た報告は上がってないし、一般的な調査だったら内輪で回せるのよ。野生動物って基本臆病だから踏み込まない限り襲われないの。そもそも討伐が目的じゃないから戦って勝つ必要もないしね」


 調査は昼と夜でわかれていて、夜の方が危険で難易度が高い。暗闇で襲われても初動は遅れるし足元もおぼつかない。そのため報酬も割高だそうだ。


「…………ねーさま。それってボクが代わりにって、ダメ?」


「ラドがよければ是非ともお願いしたいわ。夜間行動には慣れてるっしょ?」


「関所越えをする程度にはね、あはは……」


「魔物や魔獣の相手にも慣れてるし…………ってダメだ、マジェクタルがないと」


 エスカレア特別区内での買い物の支払いや、クエスト報酬の受け取りが可能な手帳型の導魔器がマジェクタル。つまりマジックアイテムだ。

 身分証、学生証すら兼ねる万能さが仇になってしまい、所持していないボクはこの地で人権がないものとして扱われている。


「ねーさまねーさま、あたしとラドくんのふたりじゃ、ダメ?」


「ダメじゃないけれど、報酬はひとり分しか出ないわよ?」


「いいの。調査って気になるし、護衛はラドくんに任せて調査を体験してみたい!」

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