未来人アリィ 4
「ふぇっ、謝罪ってアリィ、どういうことなんだい!?」
決して認めない、謝らない、悪くない。
こんな態度を取り続けて成長したアリィから、謝罪という言葉が出るのはミーシャの声が裏返るくらい珍しいようだ。
「落ち着いてくださいお兄様。この品々はエレモア城から拝借したものですの。迷惑にならない範囲で配慮したつもりですが、やはりいけませんよね」
迷宮探索ゲームの準備を手伝っていた時、報奨品は日に日に増えていた。皇族であるエレマール家からの出資だとは予想していたけど、実際のところは横領品だったんだ。
「わかりました。しかしなぜ、今それをこの場で」
「わたくしひとりの行動で、趣味研のフェイやラド、果てには周囲の友人まで疑いの目を向けることになるでしょう。それは本意ではないのです。ありがたいことに、エスカレアに来てから心より大切な仲間ができたのですから」
アリィから発せられた想いと言葉は、ボクにとっては最悪だった初対面の記憶を帳消しにさせるくらい喜ばしいと思えるものだった。
ソニアは冷静さを保ちながらも、予想外の衝撃で口を押さえていた。きっと今までの流れで叱りつけるつもりが肩すかしを食らったんだ。
「仲間と過ごすようになってから学んだこともあります。お兄様やラドが所属するXクラスしかり、趣味研のフェイもしかり。仲間だからこそ教えられたこと、それはすべからく素直であるべきと。騙したり、ウソをつくのはダメだと」
「うっ…………ウソは、ダメ……いや、まだ…………もしかして、バラされた……?」
「どうしたのですソニア姉様。わたくしは己の行動を認めて謝罪行脚をしますから」
「アリィに…………煽られ……どこまで知って…………誰が、どっちがバラした……」
「姉さん、ソニア姉さん、どうしたんだい!?」
「え、いや、は、ははは。今までにない経験で、思考がまとまらなかっただけですわ」
あれ?
ソニアと目が合ったと思いきや、殺気立っていて睨まれたんだけど。
「姉さん。僕もエスカレアに来てよかったと思うんだ。Xクラスのみんなと出会えたから」
「…………ブラフ……試して……」
「へ? 何か言った?」
「いえいえ。Xクラスといえば先ほど伺いましたよ? あまりに狭くて劣悪で、物置か犬小屋かと思いました」
辛辣な表現だけど、元は本当に物置だったから言い返せない。
でも、いつ来たんだろう?
「私は誰とも会いませんでしたが、ラド君は誰かとお会いになられましたか?」
「いや、誰とも…………」
「ウソはいけませんものね。本当に誰とも?」
「うっ。うーん…………フェイを背負って来たし……アリィも…………」
アリィはアリィでもボクが出会ったのは未来人のアリィ。だからウソではないんだけど、騙しているようで心苦しい。
「……何を聞いているだ私…………でもこの様子…………バラしては……」
ソニアはボクを睨みつけたり目を逸らしたりと、取り乱しているように見えた。
「何じゃ騒がしい……。むむ、つい眠りこけてしまったか……って、ああ、いかぬ!!」
フェイリアは抱かれた腕を振り解くと、アリィとソニアを交互に見て叫んだ。
その表情は青ざめている。
「アリィよ、見てはいかぬ! ドッペルゲンガーじゃ、死んでしまう!!」
「どうしたんですかフェイ、落ち着いてくださいまし!」
再び泣きじゃくるフェイリアを落ち着かせて言葉の真意を尋ねてみる。ソニアの存在を知らなかったフェイリアには、未来人アリィが戻ってきたように見えたんだろう。
「…………というわけなんじゃ、もはや黙ってやり過ごすことなどできぬ。ワシがアリィを狂わせてしまうんじゃ」
過去と未来が巡り合った以上、黙っている必要はないと考えたんだろう。秘密にすべき内容をすべて吐き出してしまった。
「フェイリアや信頼する仲間がいる限り、私利私欲に溺れて国を滅ぼす失態なんてありえませんから」
そもそも皇族は国民の公僕を謳っており、強大な権力なんて持ち合わせていないと笑い飛ばして一蹴した。
「ワシと共に過ごして未来が不幸になるわけではないのじゃな?」
「当たり前です。今ここでフェイとのわだかまりによって引き裂かれる方が、よほど不幸になりますわ」
秘密にすべき内容をバラしてしまって未来人アリィには悪いことをした。だけどアリィにはフェイリアが、ボクたちが、そして姉だと慕うソニアがいる。道を踏み外せば正していけばいいと心に近い、絆も一層強固になった。
これにてめでたしめでたし…………でいいのかな?
「考えてみればタイムスリップなど、やはり存在するわけがあるまい」
「古代より寓話に近いものはありますが、確かめる方法なんてありませんし」
「ラドよ、そなたはどう思う?」
「ボクは…………アリィが暴走しても止められる立場じゃないから」
「それはわたくしが過ちを犯す前提ではありませんか。まったく」
「でもさ、フェイリアさんが泣き疲れるほどショックを受けたわけだし。未来とはいえアリィの不手際で迷惑をかけてごめんよ。それにしても、秘密にする内容をこうしてバラしちゃって不都合ってあるのかな」
「わからぬ。ただ、未来はいつでも変えることができるということじゃ」
未来を変えるために現在にやってきたのだから、フェイリアの言葉は間違いではない。
未来人アリィからは口止めされていたけど、本人に伝わったところで一体誰に不都合があるだろうか。タイムスリップする手段を持たない現在の人たちの誰もが損も得もしないし、問題にすらならないと思う。
とはいえ失格の烙印を押されたアリィにとっては不愉快極まりないこと。やってもいない未来の過ちを持ち出して人格を否定されるのは理不尽だ。
「ふぅん…………ところでソニア姉様。言うべきことはございますか」
「…………やっぱアカンかぁ」
お手上げといった表情でバッグからウィッグを取り出した。頭に着けたその姿はまさに未来人アリィそのものだった。
「つ、つまりそれは……」
「未来から来たアリィじゃなかったの!?」
ソニアからは年上の威厳や皇女たる雰囲気が消え失せていた。何ともバツの悪い表情で苦笑いしているだけ。
「昔から悪戯が過ぎます。少し似ているからと、わたくしに成り済ますのはエレモアの人間ならお見通し。この部屋にある報奨品もわたくしに変装したソニア姉様が持ち出したと言い張ってもいいのですよ?」
「それはそれで肩身が狭くなってしまいます。私も一緒に謝りますから、ね?」
ソニアもアリィと同じでヤンチャするタイプだったりして。血は争えないって言うし。
「僕は知らなかったよ……。もしかして今まででも、アリィだと思っていたらソニア姉さんだったってことが…………」
「ミー君もそれはそれでどうかと思いますが、ウソはダメというのは身に染みます。アリィを矯正するためとはいえ、騙した上に悲しませる結果になってしまいました。ラド君にフェーちゃん、おふたりにお詫びします」
「酷く傷ついたのは確かじゃが、趣味研代表としてアリィを導く立場におる。そもそもワシは立派な大人じゃ、報奨品については管理不行き届きの責任もあるしのう。あとフェーちゃんはやめろ」
元はといえばエレモア城の備品をくすねたアリィから始まったことがきっかけだし、趣味研の責任といえばその通り。
ソニアの行動はアリィにお灸を据えるためとはいえ、真相が有耶無耶のままになっていたらフェイリアは未来の後悔に苛まれ続けるという矛盾めいた感情を引きずることになっただろう。
それは加担したボクの心にもくすぶり続けるはず。
「ところで姉様。わたくしは最初に述べました。わたくし個人の振る舞いで仲間が疑われるのは本意ではないと」
「ええ。仲間と呼べる大切な存在と出会えたことがアリィを大きく成長させたと、私も思います」
「今日の話し合いの途中、ラドを疑っておりましたよね?」
やっぱりそうだったんだ。
目つきがちょっと怖くて、逃げ出したいと思っていたんだ。
「は、ははは……ラド君、気を悪くさせたらごめんなさい。私はそろそろお暇しなければ。公務もありますし、ラド君にフェーちゃん。この件については後日、しかと、埋め合わせさせてください」




