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未来人アリィ 2

 十年後の未来からやってきた大人のアリィ。



 この時代のフェイリアに伝えるべきことがあり、禁忌の魔法タイムスリップを開発して発動させたという。


「まさかそのような魔法が…………いや、アリィならば将来的に実現可能やもしれぬ。しかし……いやいや、だからこそ現にこうして目の前に、うーむ」


 タイムスリップの魔法は古来より伝承レベルで存在はしているらしい。しかし誰ひとりとして明確な証明ができておらず、空想の産物とさえ言われている。

 魔法研究の環境が整っているエスカレア特別区はもちろん、フェイリアでさえ手掛かりすら掴めていないけど、そもそも本気で研究している人もいないそうだ。

 時間軸を自由に飛び回れたら、世界の秩序はとっくに崩壊している。


「びっくりだよアリィ。こんな美人のお姉さんになってるなんて」


「えっと、こちらの女の子がフェイリアで…………失礼ですが、貴方は?」


「ボクがわからないの!?」


 タイムスリップの魔法は元の世界に戻ることを前提としているため、未来からは最低限の記憶しか持ってこれないという。

 歴史改変や将来のネタバラシを防ぐためであり、過去や未来に起きたことや人の名前、顔などの記憶は忘れてしまうらしい。


「貴方はラドというのですね、覚えておきます。とはいえ未来ではすでに存じ上げているのでしょうけれど」


「まあよい。して、そこまでしてワシに伝えたい最低限の記憶とは何じゃ?」


「今のままアリィが成長すると、よくない未来になるのです」


「ん、アリィはそなたじゃろうに」


「そうでした。それで未来ですが、未熟さゆえに国が滅んでしまうのです」


「なんと!?」



──十年後のエレモア帝国。

 人々は疲弊して田畑は荒廃し、国力の低下による内紛と混乱につけ込まれ領土を失う。そのすべての元凶が、アリィにある。



「私の弱さと至らなさのせいなのです。周囲からは甘やかされ、学業にうつつを抜かして遊び回ってばかり。好き嫌いが激しくワガママを押し通し、権力を盾に他人をアゴで使って図に乗って、調子に乗って私利私欲のまま国政に口を挟んだばかりに……」


 辛辣!

 むしろ悪口そのものって感じだけど、これは本人だからいいのか。


「む、むむ。アリィ本人が原因とな。具体的に何をしでかしたんじゃ」


「それはもう色々と。思い出せないほど数多き失態で、記憶できないほどに」


 確かにアリィはワガママかもしれないけど、それを突き通して周囲に迷惑をかけるほどではない…………と言い切れないのが痛い。

 盲目事件とか魔獣事件とか。

 根は素直で優しい、大切な友だちなんだから否定したいのはやまやまなんだけどね。


「わずか十年で国のあり方がそこまで激変するとは。エスカレアとて他人事では済まぬのだろう、ここには多くの子供たちが集まってきておる。罪なき無垢な存在を危険に晒すことは言語道断じゃ」


「フェイリアは子供なのに、他人を思いやる優しさをお持ちなのですね」


「本当に、本当にワシを覚えておらぬのか。複雑な気持ちじゃのう……」


 ゆくゆくはマジェニア学園の学園長の座を狙っているフェイリア。幼い見た目の小さな女の子だけど、真面目で子供想いの常識人だ。


「私のような人間は存在してはいけないのです。しかし本日の忠告によって過ちが正されたとすれば、帰るべき未来は幸せに満ち溢れたものになるでしょう」


「そのような悲しいことは言わんでくれぬか。生きていてはいけない者などひとりもおらぬし、アリィは大切な友人じゃ。しかし……」


「しかし?」


「しかし。今を変えれば未来が変わる、そういう仕組みなのじゃな」


「仕組み?」


「うむ。おそらくという前置きをしつつの推論じゃが…………」



──未来が変わるとは、その過程の行動や記憶が違うものになるということ。

 物を壊した、罪を犯した、人を殺めた、彼女を決めた、結婚を決めた。

 今この瞬間の選択を変えれば未来も変わる。未来人アリィの記憶が消えているのは改変した過去の記憶がすり替えられるからだ。未来に戻った瞬間に新しい記憶が詰め込まれることにより、記憶の重複を防ぐ。



「この理論でなければ、起きなかった過去と変えてしまった過去の記憶が混ざり合ってしまう。そうじゃろう、アリィよ!?」


「え、ま、ま……まぁ、そういうところです」


 勝手に熱弁して勝手に納得しているフェイリアと、迫力に押されて気圧される未来人アリィ。話し合いの本質とは遠く離れているのに。


「そこでフェイリアには、未来を変えるためにお願いがあるのです」


「いやいやまてまて。だからとて、安易に未来を変えてしまっていいものじゃろうか」


「未来はこれからの話です。無限の可能性を秘めているのです」


「うむ、うーむ……ワシ自らが歴史改変に手を染めるのは心苦しいが、アリィの師匠として正しく導くのも務めであろう」


「フェイリアが師匠? アリィの?」


「だからアリィはそなたじゃろう。記憶が混乱しておるのか」


「そ、そう、そうでした。あはは……」


「して、願いとは。争いをなくすため、未来の子供たちと平和のためならば可能な限り善処しよう。ワシにできることとは、いったい」



「アリィには厳しく指導して、真面目に学業に打ち込ませて欲しいのです」



 ……………………はい?


「公明正大、謹厳実直、頭脳明晰、質実剛健、義理人情。未来の失態はすべて学生時代の過ちによるもの」


「いやいやいやまてまてまて。つまり勉学に打ち込ませるだけでよい、と!?」


「はい。その上で日々の生活に緊張感を持たせ、皇族に相応しい振る舞いができるように厳しく指導して欲しいのです」


「勉学だけでなく、普段の生活から改善せねばならぬとは」


 エクリル女学院の勉強や生活に加えて、趣味研の活動もアリィの人格を形成する大きな要因である。

 何をどこまで、どのように変えればいいのかわからない。

 今のままを過ごした結果が破滅の未来につながるというならば、今、何かを大きく変えるべきだ。


「ふむ。悪行に手を染め、脅威になる芽を摘むという業と十字架を背負うと覚悟したが」


「いや、そこまでは」


「趣味研の活動すら過ちの要因になるというのか。アリィの自主性に任せて自由にやらせてしまった因果が未来での報いか」


「いやいや、そのですね」


「もはや部室うんぬんの問題ではない。潔く廃部にするしか」


「いやいやいや、そうではなくて」


「魔法工学に秀でたアリィの知識、能力、素質。楽しく正しく導くべきと思って趣味研に誘ってみたのじゃが、未来のワシはとんだ愚か者らしい」


「いやいやいやいや、それは無関係で」


「生半可な小手先の対応では簡単に未来の変化は起きぬじゃろう。腹は決めた。このままではアリィどころかエレモアの民に申し訳がたたぬ」


「いやいやいやいやいや、ですから些細なことでよいのです。ゲームの賞品というか景品というか報奨というか、ワガママで自分勝手な行動を」


「国が滅ぶのじゃぞ!? 人の上に立つに相応しい人間にならねばいかんじゃろうが。エレモア帝国の皇女殿下と縁で繋がった因果はワシの責任でもある…………ん、報奨?」


「フェイリアがそこまで考えてくださっているとは。それでは尚更お願いです。その、趣味研というのは廃部にせず存続させてください。貴方の導きでアリィを清く正しく成長させてください」


「何度も言うがアリィはそなたじゃろう」


「いけない。そろそろお時間、未来に帰らねばなりません。私については現在のアリィに決して話さぬよう。そ、それではー…………」


 そそくさと教室を出て行った未来人アリィは、あるべき時代に帰っていった。

 十年後のアリィはちょっと背が伸びてちょっと活動的な雰囲気で、ちょっとくだけた大人の魅力が備わっていた。

 なんてことは置いといて。

 未来を変える対策が『勉学に勤しむ』だけで本当にいいんだろうか。

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