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ダムと魔脈と巨大魔獣 1

 マジェニア学園の土曜日は隔週でお休みになる。ギルド活動はあくまで自由参加となるけど出席率はすこぶる悪いらしい。

 夜間調査明けのレナはもともと休むつもりだったし、顧問のクリス先生は充実した週末を過ごすと息巻いていた。

 こんな日は自由気ままに街に繰り出すのもいい。足を伸ばしてアクアトリノ王国を散歩がてら観光するのも楽しいだろう。

 でも今、一番やりたいことは決まっている。

 昼までとはいわず夕方でも夜でも、何なら翌朝までも。自己記録を更新するくらい存分に寝続けたい。

 何の予定もないんだから、たまにはこんな週末があってもいいと思うんだ。

 今のボクは目を閉じているだけで、浅い眠りから一気に底まで堕ちていける。


「ちょっと、起きなさい。ふたりとも…………ねぇったら!!」


 昨夜の帰宅は遅かった。遅くなるとも伝えていた。

 予定していた時間より早かったのと関係があるとは思えないけど、晩酌をしていたクリス先生は居間で酔いつぶれて寝転がっていた。

 ベッドに運んで寝かしつけた時に起こしたことを根に持っているとしても、腹いせにボクの快眠を妨げるのはお門違い。

 …………ふたりとも?


「だーっ、来客だから起きろっての!!」


 頭から布団に包まって身を守っていたところを引き剥がされた次の瞬間、硬いものに頭をぶつけて一気に目が覚めた。

 その後すぐに、あまりの痛みに悶えて目を閉じる。


「いったぁ……」


「ううう……どうして、レナ…………」


「ラドくん、もっと優しく起こしてよぉ……」


 ぶつけた目眩で起床どころじゃないけど、どうしてレナと頭突きをしたのかが問題だ。


「あたしはもっと早くに起きてたもん。でもラドくんはスヤスヤだったし、居間って風が抜けて気持ちよくて。真似してみたらさぁ……」


「だからってボクの布団に潜り込まなくても」


「ふたりとも寝ぼけてないで、いい加減起きろっての。ジュディアが来てるわよ!!」


 一連のやり取りはすべてジュディアに見られていた。縁側に腰掛けて言葉を発することはないけど、まるで弱みを握ったかのようにほくそ笑んでいる。


「ねーさま、いつもは違うんだよ。レナと一緒に寝てなんか…………」


 ない。寝てなんかない、かな?

 思い返せばふかふかのベッドで目覚めたミーシャの家。魔獣騒動後のXクラスで目覚めた時。あとは何かあったかな。

 気付いたらレナが添い寝していたし、何ならクリス先生もいた。


「…………ダメだ、寝てた」


「あはははは、これじゃミーシャがうらやむのも納得だねー。黙っておいてあげるから、急いでもらっていい?」


「え、何を?」


「馬車を待たせてるの。急で悪いんだけれど、これからエレモアに行くから」


 クリス先生はボクたちが寝ている間に事情を聞いたらしく、反対するどころか身支度を急ぐよう迫ってきた。


「詳しい事情は帰ってきてから聞くから早くしなさい。心配なさそうだけれど」


 寝起きでまだ頭が働いていない状態で連れ出されたら街道に馬車が止まっているし、出迎えた人物でさらに驚かされた。


「急な話で申し訳ない。クリス君、いやクリス先生。ふたりの力を貸してもらうよ」


「おはようございます、学園長。このチビッコたちでよければ何なりと」


 フェイラー学園長が直々に出てきたらクリス先生だって借りてきた猫のように従順で大人しくなってしまう。実際に駆り出されるのはボクとレナなのに。


「遅いですわよ。早く乗ってくださいまし」


「アリィちゃん!? わーい、なんでなんで?」


 アリィに促されて車内に入るとフェイリアまで揃い踏み。まさかこれから、やらかしの説教大会でも始まるのかといった状況。

 心当たりが多すぎるし。


「休みのところ悪いの。なぁに、取って喰おうってわけじゃない。まず最初に……」


「……最初に?」


「この集まりではワシを盟主と呼べ」


 フェイリアにはそんな設定があるけど自称しているだけ。誰ひとり反応していないから黙って頷いておく。


「コホン。わしは学園長の立場があるのでエレモアには行かぬが、急を要する事態の上、人員を割くことが難しくなっておる。代わりに君たちに白羽の矢を立てたんじゃ」


 ジュディアは昨夜のうちに魔獣被害の件をフェイリアに報告していた。話を又聞きしていたフェイラー学園長は、確認と対応のために直接乗り出してきたというわけだ。


「改めて問うがジュディア君、森に出現したものは魔物ではなく魔獣だったと」


「はい、学園長。魔獣化したイノシシで間違いないと思われます。わたしたちがベースに戻った時は討伐された後で姿形は戻ってましたが、応戦した人によると筋骨隆々で角が生えていたと言ってます」


 ハンターギルドはマジェニア学園直轄のため、生態調査と同時に魔物騒動後の動向を探らせていた。魔物の存在は確認されずに済んでいたけど魔獣となれば問題は違ってくる。


「特徴を聞く限り、迷宮探索ゲームで遭遇したものと同じだと思うんです。ね、ラド」


「うん。あの時はタヌキやキツネもいたけど」


「魔物騒動は収束したと見ていいじゃろう。別件で新たに、魔獣騒動が起きてしまったというワケじゃ」


 迷宮探索ゲームでは敵役として創り出したゴーレムたちに一斉命令をした結果、消息不明で忘れ去られていたマッドゴーレム、イーノを呼び覚ますことになった。

 自我を持ったイーノを倒して魔脈を復旧させたまではよかったけど、ハッピーエンドの結末には至っていなかったというわけだ。


「魔獣化したイノシシの献体については調査終了後、エスカレアの研究所に運び込んだんだけれど…………」


 経緯と状況を説明していたジュディアの歯切れが急に悪くなった。突発的な事故に見せかけるためにジェムストーンを埋め込むという行動。検査結果を意図的に変える小細工は信用を失墜させる重大な責任問題だからだ。


「この場の者どもは誰にもバラすことのできぬ秘密を共有する集まり。小娘よ、気兼ねなく話せ」


 マジェニア学園が多少の不正や悪事をしてまでも、差し迫った問題を秘密裏に握りつぶしたいという空気は誰もが感じ取っていた。

 ジュディアの行為を叱責するために呼び出されたわけではない。


「研究所は独立した機関、マジェニア学園とて易々と介入はできぬ。なあフェイラーよ、小娘の機転で命拾いしたのう?」


「ハンターギルドにおいてジュディア君の勤勉さは話にも聞いておる。そこまでさせてしまったのは学園長であるわしと、姉であるフェイリアの不徳の致すところ。騒動の発端となった姉弟の立場から礼を言わせて欲しい」


「カッカッカ。フェイラーに失脚してもらっては困るからの。よくやった小娘よ」


 生態調査での不正行為は不問に付すことを約束したフェイラー学園長は、自身のマジェクタルからジェムストーンを取り外してジュディアに手渡した。


「よかったね、ねーさま」


「ひとまず安堵したけれど、また秘密が増えたわね。それよりも……」


 調査結果をねじ曲げたところで一時しのぎでしかなく、魔獣騒動の根本的な解決には至らない。


「現場は国境付近。できれば人目に触れず解決したいのじゃ。エスカレアで発生した魔獣が越境してテレスタ共和国に流れ込んだら国際問題になってしまう」


 原因を究明して対策するまでの間、少しでも魔獣を掃討しろというなら理解できる。

 ボクたちがエレモアに行く理由ってなんだろう?


「ここからはアリィに説明してもらおう。あとワシは盟主と呼べ」


 魔獣騒動の原因は趣味研にあるが、あくまでサークル活動での事故なのでアリィが責任を感じる必要はない。しかし深く関わっているため放っておけないんだろう。

 それでも昨日の今日……というより昨夜の今朝って、行動が早すぎる。


「偶然だったんですわ。趣味研の部室を明け渡すために荷物を搬出するつもりでしたの。緊急事態ですからこのような御料車になりましたが我慢してくださいな」


 御料車は六名が対面で乗れる荷馬車のようなもので、木製の座席は硬く質素な造り。お世辞にも乗り心地がいいとは言えないけど早期解決のためにはわがままなんて言えない。


「エレモアの役所には動植物の管理や魔獣に対処する部署がありまして。単刀直入に申し上げると、その力を借りようという算段なのです」


 エスカレア特別区は周辺国からの出資や支援でなりたっている。

 特別区として独立性が保たれているのは公平で公正な運用がされているからだ。特定の国に肩入れしたり借りを作れば、面倒な問題に発展するのはボクでも考えつく。


「趣味研、つまりエレモア帝国第四皇女のわたくしが関わっていること。そして内密に処理したいマジェニア学園。両者の思惑は一致しているのです」


 今、大きな権力が動き出す瞬間を目の当たりにしているんだ。国家とか学園って、健全なものだと信じていたい気持ちもあるのに。


「綺麗事だけでは国も組織も円滑に回らないのですよ。ラドは素直で正直な子ですから、巻き込むのは心苦しくありますが」


 第四皇女の個人的な失態だけで国家が動いてくれるものだろうか。秘密にするなら話を大きくするよりも、マジェニア学園だけで対処すべきだろう。


「確かにエレモアにとってはデメリットしかない厄介な話。本来ならば何の権力もない第四皇女の尻拭いなどしないでしょう。だからこそ、ラドとフェイが必要なのです」


「ボクとフェイリアが?」


「話をつけようと考えている環境緑地課にはわたくしの従姉にあたる人物がおります。ふたりは面識がございますよね、第二皇女のソニアです」


「あぁ……なるほど確かに貸しがある。あとワシは盟主と呼べ」


 売れる恩とアテが第二皇女というのはフェイラー学園長も初耳だったらしく驚きを隠せない様子。当初から蚊帳の外だったレナはボクの背中を突ついて抓って引っ張って、不満を露にしている。


「学園に到着したようじゃな。わしはここで失礼させてもらうが何卒よろしく頼む。清廉潔白を曲げてまで行動に移してくれたジュディア君に報いるためにも、どうか」


 Xクラスの仲間のためと言われたら奮起するしかない。それがマジェニア学園のためにもなるのだから、フェイラー学園長も狡猾だ。


「フェイラーは誤魔化そうとしておるが、ここにおる連中と同じく隠し通さねばならぬ秘密を共有することになったんじゃ。これもまた一蓮托生、是非ともこのクエストを成功させようじゃないか、カッカッカ」

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