ハンターギルドの生態調査 5
ピィー、ピィーピィー、ピィー! ピィー、ピィーピィー、ピィー!!
「緊急合図!?」
どこか遠く離れた場所から高く鋭い音が響く。聞き慣れない規則的なリズムは鳥などの野生動物ではない。
「魔獣出現の警笛よ!」
「助けにいかないと!」
「ダメ。ベースに戻るわ」
警笛にも種類があるといい、助けや援軍を求めるものではないそうだ。闇雲に近づいても二次災害を引き起こす可能性を高めてしまう。
「すぐに駆けつけなきゃいけない状況だったら……」
「生態調査って滑落や大怪我で命を落とすリスクもあるし、覚悟は必要なの」
そこまでの覚悟とリスクを背負っているんだから、ボクだって今すべきことを全力でやるしかない。いつも以上に神経を集中させた警戒モードで、すべての危険からふたりを守りながらベースキャンプに戻る。幸いにも魔獣どころかリスの一匹すら出現しなかった。
「そこまで気負わなくてもいいし、腕組みする姿にほのぼのだし、そもそもあの警笛、危険度で言えばかなり低いんだけれど…………黙っとこ」
ボクたちが到着した時には全員揃っており、横たわったイノシシを囲んで話し合いをしていた。こと切れた状態からは魔獣であることは確認できないけど、以前ボクたちが戦った魔獣と同じものだろう。
「見た目で言えば二倍近くはあったと思う。筋骨隆々として、頭にはサイのような角も生えていたんだ。絶命と同時に消えてしまったんだが」
応戦したナイトは軽傷を負っていたが、それは足元がおぼつかない闇夜で転倒した擦り傷と捻挫。魔獣化したイノシシ自体はそれほど強くなかったらしい。
「護衛がいて本当に助かった。本来イノシシは臆病だから人間を見つけると逃げていくはずなんだ。しかしどれだけ剣で斬りつけても、絶命するまで襲いかかってきたんだ」
「子育ての時期は過ぎてるし、縄張りってわけじゃなさそう」
魔物や魔獣は魔法が存在する限り必ず存在するもの。
だから各地で定期的に討伐隊を組んで駆除を行ったりしている。エスカレア特別区ではソードシステムの制御のおかげで魔物や魔獣の発生は抑制されているとはいうけど、完全ではないという話を聞いた。
現にこうして、魔獣が確認されている。
「中心部で魔物騒動が起きたのは一ヵ月以上前か。以降、頻繁に追跡調査を行ってきたが魔物や魔獣は確認されていない。この個体が突発的なものか残党なのかの判断は今ここで下すのは早計だな」
「言えることとすれば、規則に従いこれ以上の調査は危険であるとして本日はこれを持って終了とする。次回以降は各担当と検討するように、以上!」
予定していた時間の半分ほどしか経っていなかったが、各々が致し方なしといった表情で片付けを始めた。
「報酬は全額出るから心配しないで。それよりラドにお願いがあるの」
討伐したイノシシは検査のために学園近くの研究所に運ばれることになる。すでに手際よく血抜きされているものの臭いはキツいし汚いし、重い。
文字通り汚れ作業になる。
「なっ、なんと、誰が運ぶかで揉めるところなのに、わざわざ立候補してくれるのか?」
「この子たち、今日が初めての現場だからいろいろ経験してみたいって」
「それはとても助かる。未来の一流ハンターたち、よろしくな」
可能性は無限大だったとしてもボクだったら護衛役が適任だろう。動植物の名前を何百も覚えられないだろうし。
「みんなおつかれー。わたしたちはゆっくり帰りまーす」
イノシシを素手で触るのはマダニや寄生虫の危険性があるからと、丸太に脚を括り付けて運びやすいように準備してくれた。これで汚れずに済むし、負担も軽減される。
「あたしが後ろを持つから、ラドくんは前をよろしく」
ふたりで持てば早く歩いて終えられそうなのに、わざとゆっくり歩けという。ジュディアには何か考えがあるらしい。
暗い帰り道を半分くらい進んだところで周囲に誰もいないことを確認すると、道を外れて茂みに隠れた。
「ちょっと見張ってて」
ロープで縛られた脚を解いてナイフで腹を刺す。胃袋を確認すると持っていた小さなジェムストーンを押し込んだ。
「マジェクタルで使ってるものよ。これだけ剣の裂傷があるから怪しまれないっしょ」
「何のために?」
「あたしはわかったかも。ジェムストーンを飲み込んで魔獣化したってことにするんじゃないかなぁ?」
「正解。こんなことは言語道断、本当はやりたくないんだけれど」
手心を加えて調査結果を意図的に変えたり惑わす行為は御法度。当然ながらジュディアも弁えているが、これは魔獣騒動を大きくしないための苦肉の策だった。
つまりはマジェニア学園、エスカレア特別区のためでもある。
「あーあ。今日の報酬、石代で消えちゃいそう」




