ハンターギルドの生態調査 3
翌日の天気は大雨から一転、朝から晴天が広がる蒸し暑い日になった。
昼食を終えて教室に戻り、夜間調査に備えるため夕方まで仮眠を取ることにする。
「陽が沈んでから、日付が変わるくらいまでたくさん歩くから休んでおくのよ」
「眠れるかなぁ。ねぇねーさま、今まで魔物の他に危険な動物が出たことってある?」
「そういうのもないわ。でも調査現場は迷宮探索ゲームの近くだから、今回は魔獣が残ってると思うんだよね。その時はラドに任せるからよろしく」
魔物騒動の時はソードシステムを強制停止させたため、今に至るまで新たに魔物の発生は確認されていない。代償として、魔法や導魔器を封じられた当時は便利さに慣れた人たちに不自由な生活を強いることになった。
直近の魔獣騒動では特別な対応を取っていないので、ジュディアが杞憂するのもわかる。
「本当は他のメンバーにも伝えておきたいけれど、魔獣騒動は隠蔽しなきゃだからね。ホント、問題なく終わってほしいわ」
眠りも浅いまま時間だけが過ぎ、気怠く感じるままベースキャンプに向かう頃には陽が傾き始めていた。
既にメンバーは集まっていたが、半数は昼の調査を終えた人たちだ。
確認事項として簡単な説明をされたけど、大まかにルートAからルートDまでの四箇所を手分けして調べるという。
「どうして昼と夜で同じ場所を調べるの?」
「自然環境って昼と夜じゃまったく違うからね。調べる内容も若干違うし、明るい時は目視できても、夜行性の動物は隠れてるっしょ」
リーダーらしき人たちから漏れ聞こえる話によると、交代の時間が迫っているのにルートAのメンバーが戻っていないらしい。
事故の可能性も視野に入れて対応すべきか迷っているようだけど、その間にジュディアの取りなしで挨拶を済ませた。そして昼の調査を終えたメンバーたちの話を聞く。
「昨日の雨でぬかるんでいるから、滑落に注意すること」
「希少種が点在しているから荒らさないように」
「中型動物の食痕や糞などの痕跡は、普段通りでした」
幸いにも魔物や魔獣の出没報告は挙がっていない。しかしボクたちが戦ったのは夜だったから、遭遇するならばこれからの時間帯になる。
諸々の引き継ぎを終えたところでようやくルートAのメンバーが戻ってきた。ケガや異常はなしとのことでひと安心だが、浮かない顔をしている。
「ルートAの北西の湖ですが……たくさんの流木でダムが詰まってました」
「ああ、メガネ池か。委細については報告書にまとめておいてください」
「それに伴い、南側の水量が枯渇して干上がってしまいそうです」
メガネ池とは、北側と南側のふたつの湖がダムによって繋がっている様子から名付けられたそうだ。今は片メガネ状態だけど、すぐに決壊しそうな前兆は見当たらないらしい。
でも、湖なのにメガネ池って。
「とはいえ、今後も安全とは言い切れないな。ルートAの夜担当は安全第一で行動してください。状況によってはスキップしても構いません」
「南側ですが、大雨のせいでイノシシの足跡も多く、絶好の『ぬた場』になっていました。足元がとても悪いので、夜は近づかない方がいいかも」
昼だから気付きやすいこともあるので情報交換は重要だ。泥に足を取られてケガをするとか、動けない間に襲われたら目も当てられない。
「ねーさま、ぬた場って何?」
「泥浴びする場所よ。この辺りだとイノシシくらいしかやらないと思うんだけれど、身体についた寄生虫を落としてキレイにするためね」
「泥だらけになって汚れるのに、変なの」
調査を終えたみんなはそれぞれ、袋いっぱいの雑草を持ち帰っていた。
「草むしりもするの?」
「あれは薬草。ハンターギルドへの依頼もあるから調査のついでって感じ。でもほとんどは趣味じゃない?」
「趣味?」
それはつまり、野草を食べること。
生活に困窮しているわけではない。植物好きが高じて食べる楽しさに目覚めたりするそうだ。人によっては明らかに毒性のある植物を口にして、舌がしびれるから危険だと身を持って証明するんだとか。
もう、山菜採りの範疇を越えている。
「ルートDの引き継ぎって誰…………ってジュディアじゃん珍し! 一番遠くて疲れる場所っしょ?」
「たまにはいいっしょ。噂のセノーテってのも見ておきたいし」
「そーそー。地盤沈下で急にできたってウケるよね。でも水が澄んでてメチャよかったよ。暗くなるから足元には注意してよね、落ちたら確実に死ぬわアレ」
「今日の護衛は初心者だし、無理しないでおくわ」
「いつものイケメンじゃなくて子供じゃん。大丈夫そ?」
「こう見えて強さは文句ナシ。こっちの子はウィザードだし」
ボクとレナが会釈すると無邪気に微笑んでくれた。
ちょっと気が強そうで大きめの胸元を出しているけど、フィールドワークに適した装備に抜かりはない。調査には高い専門知識の他に経験も求められるため、生半可で不真面目な生徒ではメンバーに加わることすらできないのだ。
胸元以外は負けていないジュディアでさえ、調査には真摯に取り組んでいる。
「ジュディアで見慣れちゃってるから刺激が強すぎたかなー? 胸がすとーんって」
「失礼な。誰がすとーんよ」
「カッチカチに硬いじゃん、ストーンだけに。きゃはははは」
…………ボクが胸元を見てたの、気付かれてた?
「バレバレだったよ、ラドくん」
服装だったり装備品を見てただけなのに。でも怒られなくてよかった。
「ねぇボク。ジュディアから悪さをされたりとかー、してない?」
「この子はそういうのじゃないからやめなー」
「わ、悪さなんてされてないよ。ねーさまはこう見えて、頭はいいし真面目だし、勉強も教えてくれたりして。それに意外と清楚で優しいから」
「こう見えてってどういうことっつーの」
「胸元のボリュームっしょ、やっぱ」
同世代の友だちだからこそ気兼ねなく付き合えるんだろう。Xクラスでは見られないジュディアの一面が新鮮に感じた。




