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あの日、海が見ていた  作者: 北見剛介


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6/9

本音

5分ほど走っただろうか、4人はやがて住宅もなく、人気もない場所にいた。航と翔太は息を切らしながらも、してやったりといった顔をして、ハイタッチをしている。まさか、この二人がここまで仲良くなっていたとは美南は思わなかった。今でも目の前に広がっている光景が信じられないぐらいだ。

「久しぶりだよなあ、ここに来るのも」航が感慨深い様子でつぶやく

「中学生以来じゃないかな。」

美南も涙の後をぬぐいながらつぶやいた。先ほど泣きすぎたからか、頭がよく回っていない。

「思いを吐き出す場ならここが一番ってわけだ」

ここは島の海岸のわきにあるちょっとした洞穴だ。藪で隠されているため、そこに洞穴があるとわからないと見つけることはほぼ不可能だろう。小学生の航が見つけそれ以来ずっと4人の秘密の場所になった。昔は、当時子供たちの間ではやっていたゲームで対戦をしたり、学校の先生の愚痴を言い合ったりしていた。家でもできることだが、当時の自分たちにとっては、大人が入ってこない秘密の場所というのがあまりにも魅力的で新鮮だったのだ。反抗期を迎えたころには、全員で親の愚痴を語り合い、盛り上がったりもした。しかし成長するにつれて、忙しくなっていき、高校生に上がるころには洞穴のことを誰も口にしなくなっていった。洞穴の中に入ると、昔4人が持ち込んだ私物がそのまま置いてあった。ボロボロになった漫画雑誌、色あせたカチューシャ、壁に飾った黄色くなった4人の写真、古くなってはいるが、すべてが残っていた。

「で、みんなで集まって何をするの?」

待ちきれない様子で美南は聞いた。なぜ、4人でこの場所に集まる必要があったのか、何をしたいのか、まだ美南には分らなかった。

「じゃあ、そろそろ始めるか」翔太が言った。航が続ける。

「この2か月俺らは4人で一緒にいたことはなかったよな、生まれてからずっと一緒にいたのに」

「ごめん、私が図書館であんなこと言ったから」

「違う、違う。別に美南を責めたいわけじゃねえんだ。むしろ俺は美南に感謝してる。」

「え、なんで」

信じられなかった。この2か月みんなを引き裂いたのは間違いなく自分の一言だという自覚がある。それなのに、感謝している?なぜ?

「美南はあの時俺たち全員が感じていたことを口に出してくれた。あの一言がなければ俺たちは完全にバラバラになってただろうよ」

ひょうひょうと、どこまでも航らしい、優しい言葉だった。続けて

「みんなそれぞれ自分のやりたいことをやるために島を出るって決断をした。それぞれの道を歩むって決断をした。でもやっぱ離れ離れになるのは寂しい、みんなと一緒に島で暮らしたいって思いが残ってた。俺は自分のその気持ちが怖かったんだよ」

航が自分の感情を必死に、丁寧に自分の言葉の限りを尽くして伝えようとしていることがわかる。美南は航との間にいつも見えない壁を感じていた。普段笑ってばかりで、自分の感情を素直に言葉に出すかと思いきや、奥底の本心は見せない。それは幼馴染である自分達にも同様だった。ひょっとしたら壁を感じているのはは自分だけかもしれない、しかし美南には航が築く心の壁が確実に見えていた。壁が見え隠れするたびに、なんで本心で話してくれないのか、幼馴染で気を遣う必要もないのに、次から次へと疑問が口から出そうになり、苦しかった。しかし今の航からは、そういった壁を一切感じない。ということは今の航は本心を話している。心を開いてくれている、それが何よりも嬉しかった。

「私もみんなと離れたくなかった」恵が涙声で口にする。

「私さ、ドジで頼りないし失敗もするから、いっつも皆に助けてもらってた。そんな私を美南も翔太も航も笑いながら助けてくれた。でも4月からは助けてくれるみんなはもういないじゃない。失敗もできないし、ドジもできなくなる。自分一人でやっていける自信が私にはないの」

「自分一人で、やろうなんて考えなくていいんじゃないか」翔太がひょうひょうと口に出す。

「確かに恵は失敗することはあるけど、いつも一生懸命だ。幼馴染ってだけで助けてたんじゃなくて、必死に頑張ってるから助けたくなるんだよ。恵のそういう部分を見てくれてる人がきっといる。だから恵らしく頑張ればいいと俺は思うぞ」

「そっか・・・そうだよね。ありがとう翔太!!」

「人それぞれ悩みがあるもんなんだなあ」航がうんうんとうなずきながら、恵の肩をたたいている。

「そうだよ、みんなからしたらなんでって思うようなことでも、私にとっては深刻な悩みだったんだから」

「人の悩みなんて案外そんなもんかもしれないな」翔太がぼそっと口にする。

「だからこそ、人に話せば楽になるし、抱え込めば抱え込むほどつらくなる」

航が真剣な口ぶりで言った。その言葉は美南の心にまっすぐ飛び込んできて、一筋の勇気を呼び起こし、美南の重い口を開かせた。

「私も話さなきゃな」美南はぽつりとつぶやく。自分からこの話題を口にするのは生まれて初めてだ。ただ、航も美南も勇気を出して自分の悩みと向き合ったのだ、私も向き合わなくては。

「どうしたんだ?美南」航が不思議そうな様子で尋ねる。

「知ってるんじゃない?私がどういう経緯で生まれたか」

そう言うと、全員が何とも言えない表情を浮かべ、下を向き、気まずそうに目を合わせた。


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