死神様は私を死なせたくないようです?
こんにちは(^^)美甘です!
「あー、疲れたな」
いつもの帰り道、星空を眺めながらそう言うと隣でクスッと笑う声がした。
「茉莉花はいつもそれ、言ってるね?」
少し目を細めながらそう言う彼は、玲紫。私の幼馴染なんだ。
「だって、疲れたんだもーん!」
今日は満員電車に乗ってしまい、くたくただった。私は、人がたくさんいるところ、苦手なの。
しかも満員電車って、あまり良くない事が起こるじゃない?
一度、満員電車でそういう事があってから、余計に苦手になった。それを同じ高校に通っている玲紫に話したら、一緒に登下校してくれるようになったんだけど……。
「もう着くから頑張って歩こう?今日は一緒に寝てあげようか?」
「それは大丈夫!子どもじゃないんだし、一人で寝れるよ」
「そう?家隣だし、話聞いて欲しかったら、いつでも呼んで良いんだからね?」
一人暮らしだし、心配だからと同じマンションに引っ越してきて、しかも隣の部屋に住んでくれている幼馴染は過保護過ぎると思う。
「ありがとう」
ドクンッ。
そう言っていると背後に気配がした。
すごく体が重くなる。
この感覚は初めてじゃない。
「あー。そろそろその時間だったけ?」
震えていると、玲紫が私の頭を撫でた。
「大丈夫。俺がアイツを殺してあげるからね?」
いつもよりも嬉しそうな声色だった。
キイイイイイッ。
玲紫が私から離れたその瞬間、耳がつんざくような悲鳴が後ろから聞こえた。
「もう大丈夫だからね?茉莉花」
後ろを振り向くと目玉が飛び出て、血がポタポタと落ちている漆黒の大きな鳥を玲紫は踏みつけていた。
その鳥の首は綺麗に真っ二つになっている。
「うん。ありがとう、玲紫」
そう言うと、玲紫は微笑んだ。
「ん、行こ」
震えている私の肩抱いて玲紫は何事もなかったかのように私の横を歩いてくれた。
本当、これは何年続いていくのだろう。
思わずため息をついてしまう。
なんで、こんなことになっているかというと……。
実は玲紫、死神なんだって。
人間と同じように生きているけれど、実際の精神年齢は千歳を超えているとかいないとか。
死神だから、人間の死ぬ時が分かって、死ぬ人を手にかけないといけないらしい。
私は本当だったら、もうとっくに死んでいる人らしいのだけど、死ぬって時に死神である玲紫が私を他の死神から守ってくれたみたいで、なんとか生きているの。
でも、死神たちのトップである死神様はそれに怒っているみたいで、一日に一度、私を殺そうと使者を送ってくるの。
玲紫がいつも倒してくれるんだけど……。
私、玲紫がいないと死んじゃうんだよね……あはは。
笑い事じゃないけど。
「玲紫は死神様に従わなくていいの?」
「大事な茉莉花に死んでほしくないからね」
また、そんなこと言う。
彼がそっと微笑むと私の胸が少しドキドキしている気がする。実は私、守ってもらっているうちに私は玲紫のことが好きになってしまった。
「着いた。じゃあ、また明日ね。茉莉花」
家に着くと玲紫は私に手を振ってくれる。
「うん。また明日。玲紫」
これが私のいつもの日常。
普通の人よりちょっと死の可能性が高いけれど。
「いつか玲紫に好きって言いたいな」
私はベットに寝転がり、そうぽつりと呟いた。
♡♡♡
カチカチカチカチ。
真っ暗な部屋のなか時計の音が響く。
「本当、死神様は茉莉花様のこと好きですね」
俺がスマホで今日一日の茉莉花の行動を確認していると、真っ黒な鳥に話しかけられた。
この鳥の目は飛び出していて、少し血のような赤い液体が垂れている。
「茉莉花は大事な大事な俺の茉莉花だからね」
「理由になってないですよ」
それにしても……と鳥はバサバサと飛びながら言う。
「茉莉花様をはやく殺しちゃったらどうです?死神様の力で生きていらっしゃるようなものであって、寿命は過ぎていらっしゃいますし……死神様なら茉莉花様を死神にして一緒にいることもできますし……キイイイッ」
俺が鳥の嘴を掴むと鳥は少し涙目になった。
「今は死神様じゃなくて、玲紫」
「そうですね!!玲紫様」
「ん、良い子」
嘴から手を離すと鳥は安心したようにまたバサバサと飛んだ。
「茉莉花を殺しちゃったら、死神にしたら、茉莉花は俺のこと好きじゃなくなっちゃうでしょう?そんなことも分からない?」
「分かります!!」
俺の問いに鳥は必死に答える。
「俺が守ってあげることで、茉莉花は俺の事見てくれるんだから。ーーこれからも茉莉花のこと襲って、俺にやられてね?俺の鳥さん」
「死神様っーー!!」
鳥は半泣きだったが頑張ってうなづく。
「良い子にしたら、お前の好きな命のかけらをやるから頑張ってよね」
付け足してそう言うと鳥は少し嬉しそうにして、どこかへバサバサと飛んで行った。
「死神様」それは俺のもう一つの名前。
鳥は茉莉花に好いてもらうために作った俺の従者。
そっと手をかざし、茉莉花の今の状況を映像にする。
魔法のようなことも、千年も生きていたら容易いことになった。
まあ、今の世界は魔法が存在しないから家でしかできないんだけど……。
ああ、かわいい。
映像に映る茉莉花を見て、俺はうっとりする。
今は俺のこと考えてくれてるの?
スマホで俺とのツーショットなんか見ちゃって。
嬉しいな。
ーーはやく俺の好意に気づいてくれないかな。
♡♡♡
「茉莉花」
ドキッ。
今日も玲紫が私に微笑んでくれた。
それだけで私は嬉しくなる。
満員電車に乗ってるときも、さりげなく壁に私を寄せて、よくないことから守ってくれてるし。
「玲紫って好きな人とかいないの?」
いつもの帰り道、ふと疑問に思い聞いてみた。
そりゃあ、私とか言ってくれたら嬉しいけどね。
まあ、玲紫って美形だから、私が知らないだけで彼女いたりするのかも……。
ちょっとそれは嫌だなあ。
いろいろ考えていると玲紫は私を見つめた。
「茉莉花が好きだよ」
……
「えっ!?」
……
「私!?」
「うん」
名前を呼ばれて返事をするくらいの速さで玲紫はそう言う。
「恋愛的に好きな人だよ?」
「うん。恋愛的に好きだよ」
私があたふたしていると玲紫は「知らなかったの?」と微笑んだ。
「俺は死神だからね、茉莉花だから守ってるんだよ?茉莉花じゃなきゃとっくに殺してるよ?」
私の頬に手を添えて玲紫は言った。
少し目に影を落としながら。
「今まで言えてなかったから、驚かせちゃった?」
「う……うん」
ドギマギしていると玲紫はふふっと笑った。
ああ、好きだな。
「私も玲紫の事、好きだよ」
そう言うと玲紫は少し驚いたように目を開いた。
「本当?」
「本当だよ」
「……嬉しい。好きだよ茉莉花」
玲紫は私を抱きしめる。
あたたかい。
ーー私、生きているんだな。
玲紫の……おかげで。
私は玲紫の腕の中でそう思う。
多分、きっとこれからも。
ーー私は死んでいるはずの身だから。
♡♡♡
「死神様、ご機嫌ですね」
俺が頬を緩めていると鳥がそう言った。
「ああ。着々と俺の思い通りになっているからね」
映像に映した茉莉花を見てそう言う。
「ーー私も玲紫の事、好きだよ。」
そう言った彼女を思い出して。
「これから、俺がいないと生きていけないようにしてあげるから、待っててね、茉莉花」
俺は死なせたくないんだ。
ーー茉莉花が大好きだから。
茉莉花はきっと俺がそう思っていると思ってくれてるよね?
でもそんなの嘘。
俺の事を好きでいてほしいんだ。
だから、死神様の使者から守っているふりをしている。
……俺が「死神様」なんだけどね。
明日はどうしようかな。
「玲紫、好きだよ」
茉莉花に、そう言ってもらうために。
ーー俺はなんだってするから。
……俺が茉莉花を守るために鳥にやられそうにフリでもしようかな。
でもその前に鳥にあげる「命のかけら」をとりに寿命が尽きる人間の魂を狩らないと。
今日は満員電車で茉莉花を狙ってたおじさんもついでに狩らないとね。
ーー茉莉花に触れていいのは俺だけなんだから。
「死神様」も結構大変なんだよ?
まあ、茉莉花のためならなんでもするけど。
死神様は「仕事」へ出かけた。
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よろしくお願いします(ペコリ)
♡補足
玲紫は死を司る「死神様」です。
本編には詳しく書いてありませんが、実は自分が望んだ相手も死神にできます。
鳥が「茉莉花様をはやく殺しちゃったらどうです?死神様の力で生きていらっしゃるようなものであって、寿命は過ぎていらっしゃいますし……死神様なら茉莉花様を死神にして一緒にいることもできますし……キイイイッ」って言ったのもそういうことです。
また、その鳥は玲紫(死神様)が作り出した鳥なので、何をしても死にません。
茉莉花が「本当なら死んでいるはずの人」なのは本当です。死神様である玲紫が権力を使って、茉莉花は生きています。他の死神に狙われたのも本当です。
ーー死神界にも権力は存在するみたいです。
やっぱり「死神」なので玲紫は魂を狩る「仕事」をしています。