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(三)呪い

中庭から引上げ、応接室にエイザー伯爵とビオジェロを招いたマグレーテは、まず、父公爵を呼び出した。


「この度はシェゾナ嬢のこと、お悔やみ申し上げる。また、当家主催の舞踏会中に、当家敷地内で起きたこと、管理の不行き届きをお詫び申し上げる。この事件、解決のために我がアークネスト家が全力を尽くすと約束しよう」


その態度に伯爵は大いに慌てた。公爵が一伯爵にそのように頭を下げるなど、考えられないことだ。


「頭をお上げ下さい、閣下!悪いのは娘を殺害した犯人で、公爵家に責任などございません!私ども……それに娘も過分な扱いをいただいております!」


公爵は伯爵に向き合い眉を下げた。


「私も最近まで娘が幽閉されていたから、愛娘を喪った気持ちが少しは分かるつもりなのだ」


皇子から婚約破棄されたマグレーテは、皇子の浮気相手を苛めたという言われなき罪で貴賓牢に入れられていたのだ。そして、公爵の目がギラリと光る。


「それに……このアークネスト公爵家の舞踏会で殺人事件だなどと……既に許されざる失態だ。犯人は必ず見つけ出す。これは我が家の沽券に関わる問題でもあるのだ。


マグレーテよ、この度のことはそなたも被害者だ。アークネスト公爵家の者として、そなたが自ら犯人を探し出し鉄槌を下すのだ!手段は選ばんでよい!」


「はい、お父様!必ずや犯人を明らかにして見せましょう!」


正義感の強い彼女の性格がそれを言わせたが、後になって安請け合いだったと後悔した。



次に彼女は伯爵を別室で休ませ、ビオジェロに向かい合った。


「単刀直入に伺いますわ。ベイグリッドの呪いとは、何ですの?」


問われたビオジェロは肩をビクリと跳ねさせた。


「マグレーテ様、お話はしよう。だが、どうかこのことは内密にしていただきたい」


「お約束できかねますわ。この件に関しては、お父様がわたくしに一任なさったのをご覧になったでしょう。証言に条件をつけようと仰るなら、アークネスト公爵家への挑戦と受け取らざるを得ませんことよ?」


ビオジェロは俯き、肩を震わせたがやがてガクリと項垂れて涙を零した。


「お願いだ……妹の、名誉だけは……」


「わたくしとて、みだりに亡くなった方の名誉を汚すようなことは致しませんわ」


(お可哀想ですが……このような姿をさらされた以上、この方は婚約者候補から降りてしまわれるでしょうね……)


そう、少し場違いなことを考えるマグレーテに、ビオジェロが説明を始める。


「妹の、罪を告白する。妹は、他の令嬢と結託してベイグリッドという娘を苛めていたのだ」


「苛め、ですか?」


「……そうだ。ベイグリッドは騎士爵の娘、平民だそうだ。それが、シンヴァルト様と恋仲を噂されているのが耐えられなかったらしい」


マグレーテは舞踏会で最後に踊った男を思い出していた。


婚約者が決まっていない若い貴族の中で最も位が高いシンヴァルト。その婚約者が未定なのは、身分違いの騎士爵の娘に懸想するがため、というのはいかにも世間が好みそうな話である。


(実際にシンヴァルト様がその娘に恋心があったかは、怪しいですわね)


「それで?」


「妹は、先日亡くなったフィセル嬢と共に、ベイグリッドに相当辛く当たったらしい。それで、ベイハイム家の事件以来、彼女が亡くなったのは呪いのせいだと……次は自分の番なのではと怯えていたのだ」


「呪い……そのベイグリッドという娘は一体どうしたのですか?」


「苛めを苦に、湖に身を投げたと」


「なるほど。それで、フィセル様が亡くなったので次はご自分の番かも知れないと……ビオジェロ様、他にベイグリッドを苛めていた方はいらっしゃるのですか?」


「……マグレーテ様は、他にも犠牲者が出ることを懸念しておられるのか……苛めの詳細は分からないが、妹が懇意にしていた令嬢なら大体は把握している」


マグレーテはシェゾナと交友関係にある令嬢を聞き出し、その数の多さに絶望した。


「一人一人調べるより、ベイグリッドとフィセル様の関係者からお話を聞く方が早そうですわね。ご紹介いただくことはできませんこと?」


以前、マグレーテはフィセルの遺体を検分しているが、それ以上の関わりはなかった。事件の報告書などは手に入るだろうが、直接話を聞いた方がよいだろう。


「フィセル嬢のベイハイム家は私の親戚筋だから、早速手紙を書こう。ベイグリッドのことはよく知らないが、父親が国軍で教官をされていると」


「では、フィセル様のご親族についてはお願いしますわ。ベイグリッドのお父上は、こちらで何とかしましょう」


こうして父より事件の調査を命じられたマグレーテは、伯爵家令嬢フィセル、そしてベイグリッドの調査をする算段を立てた。


<三話登場人物>

▼アークネスト公爵家

 マグレーテ:主人公、婚活中

 公爵:厳格だが娘を愛している

 セバズレン:執事の1人(事実上、マグレーテ専属)

▼エイザー伯爵家

 †シェゾナ:水中で変死(2)、いじめ加害者

 伯爵:典型的な貴族

 ビオジェロ:泣いて懇願する姿をさらし、婚約者候補から脱落

▼ベイハイム伯爵家

 †フィセル:水中で変死(1)、いじめ加害者

▼エライリー侯爵家

 シンヴァルト:婚約者候補筆頭

▼騎士爵家

 †ベイグリッド:いじめの果てに水中で変死(0)


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