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(十三)エーリコの町へ

「皆様、昨日はお疲れ様でしたわ。大変なことがあったばかりで悪いと思いますが、次の行動を起こさなければなりませんわ」


翌日、アークネスト邸に集合した調査隊は、その言葉に一斉に眉をひそめた。個々の尽くした力量はさておき、一番大変だったのはどう考えても失神して運び出されたマグレーテだろう。


「あの……一番大変だったのはお嬢様だったと思いますが……もう、大丈夫なのですか?」


昨日、正式に調査隊に組み入れられたルルが聞くと、マグレーテも眉を下げた。


「ありがとう、ルル。まだ胃がキリキリいたしますが……ここは頑張りどころですわ。一刻も早くルクリスに接触しませんと。アノン少尉、彼女の居場所は分かったそうね?」


「はっ。学院の記録から辿って帝都郊外のエーリコの町で発見いたしました。今はエーリコの代官屋敷に保護していますが、直接確認されますか?」


「流石ですわ。これまでの情報を総合すると、彼女は亡くなったベイグリッド様のことをよく知る友人と見られますが、一方で善意を装い苛めに加担していた可能性もあります。後者であれば事件の次の被害者になりかねませんから、急いで接触しますわよ」


そこに割り込んだのはシンヴァルトである。


「マガリムシの件はいいのかい?」


「シンヴァルト様、お呼びしてはおりませんが、どうしてこちらに?」


それに答えたのは困ったような顔の執事、セバズレンだった。


「どうしてもお嬢様にお話したいことがあると仰るので、仕方なくお通ししました」


シンヴァルトは続ける。


「つれないことを言わないでくれ給えよ。愛しい婚約者候補殿が心配で駆け付けたに決まっているだろう」


「心にもないことを仰らないでくださいまし。貴方もルクリスのことが気になるのでしょう?よろしくてよ、同行いただいて。蟲の詳しいお話は道中で伺いますわ」


「……すまない、ありがとう」



4人乗りの馬車に乗り込んだのはマグレーテ、ルル、イアノーラ、そしてシンヴァルトであった。


「美しい女性3人に囲まれると、何だか気恥ずかしくなるな」


軽口を叩くシンヴァルトを、マグレーテは斬って捨てた。


「冗談は結構。それよりマガリムシの件ですわよ。ルルから聞いていますが、やはり、小瓶の中にあったのは卵で間違いなかったということでよろしくて?」


「ああ、間違いない。あの虫に宿主を水に向かわせる性質があるのではないか、という君たちの推測も正しいよ。研究者の間ではよく知られていることなんだ。虫が魔法薬で巨大化させられたなら、その性質が強まっても不思議はないだろうね」


昨日見た光景を思い出し、隣り合わせで座るマグレーテとイアノーラが身を寄せ合い震えた。


「い、一連の事件は、何者かが被害者に魔法薬で巨大化処理したマガリムシの卵を飲み込ませて、その性質を利用して殺害した殺人事件、と断定してよいのでしょうか。その結果が、あんな気持ち悪い……私、何度も夢に見そうです……」


イアノーラは涙目である。


「そうでしょうね。ところでシンヴァルト様、どうして学院でマガリムシのご研究を?」


マグレーテは疑問に思っていたことを口にする。


「先程の、宿主を水に引き寄せる性質は、魔法だという説があったんだ。魔法を使える生物の死骸を魔力の濃い環境に置くと魔獣化することがあるから、そのメカニズムを調べる対象としてマガリムシのような小さい弱い生き物が適するのでは、という研究をしていたのさ。君が被害者に魔法解析をして何も出なかったから、前提となる説が否定されてしまったわけだけどね」


「そ、それは、何だか悪かったですわね……」


「いや、君のせいじゃないさ」


そんな会話をしつつ、一行はエーリコに向かった。



エーリコの代官屋敷に到着した一行が見たのは、屋敷の前に停められた貴族家のものと思しき馬車であった。


「あの家紋はエイザー家ですわね?ビオジェロ様でしょうか?」


マグレーテは彼女の中で「ナシ」になっている婚約者候補を思い浮かべた。


アノンに様子を見に行かせると、やはり先客はビオジェロで、代官と何やら揉めているという。マグレーテたちはとりあえず、別の客間に案内された。


「ビオジェロ様は誰かの身柄の引き渡しを要求しているようです。かなりの大声で、オブロ、という名前が漏れ聞こえました」


「オブロ……どこかで聞いたような名前ですわね……」


アノンの説明に、マグレーテが思案する。意外にもその名に心当たりがあったのはシンヴァルトだった。


「臨時で屋敷に出入りしていた庭師がそんな名前だったが……」


「アークネスト家にもオブロという庭師が来たことがありますよ、お嬢様。納屋から何か道具を持ち出したとかで、出入り禁止になっていましたが」


ルルまでもがそう言う。どうやら有名な不良庭師らしい。事件の関係者、ビオジェロがその庭師にどんな用があるのか。興味を持ったマグレーテは屋敷の女中に依頼した。


「ビオジェロ様にもご一緒いただくよう、代官にお伝えいただけますこと?」


客間の窓から外を見れば、この季節にはいつもは咲かない赤い花が不気味に咲き乱れていた。

<十三話登場人物>

▼特別調査隊

 マグレーテ:主人公、疲れが取れない今日この頃

 アノン少尉:できる男

 イアノーラ曹長:やっぱりビビり

 ルル:有能につき調査隊に正式編入

▼アークネスト公爵家

 セバズレン:執事の1人(事実上、マグレーテ専属)

▼エライリー侯爵家

 シンヴァルト:婚約者候補筆頭、マガリムシ研究者

▼エイザー伯爵家

 ビオジェロ:婚約者候補から脱落、代官にカチコミ中

▼代官屋敷

 代官:?

▼?

 オブロ:不良庭師らしい

▼?

 ルクリス:ベイグリッドの友人、偽手紙の容疑者?

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