僕の護衛騎士は学園で有名なカップル。(僕、もしかして二人の邪魔?)
僕は≪サリア・メトリー・クラシス≫。この国、クラシス王国の王子だ。と言っても四男だから継承権は兄弟の中でも一番低い。
そんな僕は今、高位貴族が通うこの国一の学校であるリスリア学園に通っている。
僕は王家の人間と言うワケで基本常に護衛騎士を連れている。
ただ、王子といえども大人の騎士を学園内まで連れ回すワケにはいかない。
だから僕の常からの護衛騎士は僕と同じ学生の、僕の幼馴染でもある騎士二人組だ。
今日も今日とてその二人は僕の後ろにピッタリとくっついている。
今は朝。まだ学園での登校時間で生徒達が続々と登校してくる。僕もその中の一人だ。
「見て、サリア殿下よ!」「まあ! 今日も目麗しゅうございますわねっ」「うっとりしちゃうわぁ」
僕を遠巻きに令嬢達が見ている。それに気づき、微笑みを向けるとその子達は「キャー」と言って顔を赤くした。
それを見て僕は思わず微笑む。なんて初心な反応なのだろうか。可愛い。
そんなことをしていると、後ろに控えていた騎士の内の一人が少し、呆れたような声をかけてきた。
「どうかされましたか? 殿下」
彼は≪カルス・ルイヴィトン≫公爵令息。クラシス王国でも有数の、権力を持つ公爵家の長男で、次期近衛団団長も狙えるなんて言われている、将来有望の実力のある令息だ。
茶髪に金の瞳で背が高く、騎士らしく身も引き締まっている。柔和な微笑みと紳士的な対応で誰をも魅了する好青年で、令嬢達が彼を見て「キャーキャー」言っているのを聞く。
「いや、可愛い子達だなと思って」
「なんですかそれは……ご令嬢を可愛いとは思うのに、婚約者はお作りになられないのですね?」
「イヤ、それとこれとは違うと言うか、さぁ」
アハハ、と作り笑顔を返すとカルの隣に並んでいたもう一人の騎士が「ふふっ」と笑うのが聞えた。
「どうしたの? リズ」
彼女は≪リズナ・エルメス≫公爵令嬢。ルイヴィトン家同様、権力の強い公爵家の次女。令嬢にしては珍しい、女騎士でその実力は男どもに引けを取らない。
綺麗な水色の髪にピンクの瞳の美しい令嬢。騎士とは思えないくらい華奢なのだが、人は見た目で判断してはいけない。この学園で一、二位を争えるくらいの実力者だ。こちらもよく令息達から熱い視線を送られているのを目にする。
「いえ、殿下。ただ珍しいな、と思って」
「ああ、そうだね………あまりあんな令嬢たちとは関わりはないから」
普段僕と関わりがある令嬢はここに居るリズか、もしくは夜会などで出会う自己アピールが猛烈な者達。
僕にはまだ婚約者が居ない。第四王子と言えども、王家の人間である僕との婚約を狙って近づいてくる令嬢達は沢山居る。あと、自分で言うのも何だけど、父上から受け継いだこの長身に金髪と母上から受け継いだ凛々しい顔立に碧眼が結構人の目を引くようだ。なので実は「キャーキャー」言っていても、あんな風に遠くから眺めてくれていた方が嬉しかったりする。
「大変ですね、王子殿下は」
「そう言うなよ、カル。助けてくれよ、最近母上がいい加減婚約を作れとうるさいんだ。何とかしてくれ。僕の護衛騎士だろう」
「嫌ですよ。作ればいいじゃないですか、婚約者」
「そんな厳しいこと言わないでくれ……」
カルは僕に対して当たりが強いなぁ。普段はあんな優しそうに微笑んでいるのに。王子殿下は悲しいよ。
「まあまあ、落ち着いてカル。殿下、最近夜会が多くて疲れていらっしゃるのよ」
リズがカルを宥める。「ですよね殿下?」と言ってくれる。優しい。カルがムチならリズがアメだ。これが女神か__とうっとりと彼女を見つめているとカルにギロリ、と睨まれた。ひぇっ。
「いや、カル。これは違うんだ! 誤解だ!」
「殿下? 急にどうなされたのですか?」
当然謝りだした僕に戸惑っているリズ。リズ、それは隣に居る、人を殺せそうな冷めた笑みを浮かべる君の婚約者の顔を見てから言ってくれ!!
__________そう。カルスとリズナ、二人は僕の護衛騎士にして、婚約者同士なのである。
「殿下、人の婚約者をなんて目で見ているのですか」
カルがそれはそれはとても低い声で僕に向けて呟く。
ひえっ、頼むからその目止めてっ。いつもは優しい人が怒った時ってめっちゃ怖いんだよ!
僕は冷や汗を浮かべながら頼みのリズを見やる。こうなっては彼を止められるのはリズしか居ない。カルは彼女に甘々だから、リズが窘めてくれたら少しは落ち着くだろう。
そんな彼女は僕が急に謝り出した理由に思い至ったようで「あぁ」と一人で納得していた。
そうして、どこかくすぐったそうに嬉しそうにしている。
あ、コレ、僕のこと庇ってくれそうにない…………(遠い目)。
「だから勘違いだって、僕はリズに対して恋愛感情はこれっぽっちも! 微塵もないから!! ホント異性としてなんて見たこと無いし!!」
「えっ。殿下、その言い方は、なんだか傷つきます………」
リズが口元に手を当て塩らしい表情を作った。
「殿下、いくら殿下といえども、リズを傷つけるのであれば容赦はしません」
カルから放たれる殺気が強まった。もうっ! じゃあどうするのが正解なんだよっ!!
「リ、リズ! なんでそんなことを言うんだっ余計にカルが怒ったじゃないか!」
「ごめんなさい殿下、つい」
ついってなんだついって。仮にも(いや仮じゃないけど!)王家の人間をそんな軽く扱っていいの!? 彼女をジト目で見る。
ひとしきり僕をからかうことが出来て満足したリズは隣のカルと話をしだした。
「カル落ち着いて、あまり殿下を攻めては駄目よ。私、ちょっとからかっちゃったの。貴方を不快にさせたならごめんなさい」
「リズ」
カルが自然な手つきでリズの頬に触れて、彼女も嬉しそうに頬を緩める。良かった。カルにいつもの微笑みが戻っ………………イヤ、いつも以上に甘ぁい微笑みだ。なんかその、見ているこちら側が恥ずかしくなっちゃうような、分かる?
「不快になる訳がないじゃないか、僕の方こそ、ごめん」
「うん」
……………………………………………………………………クッ。
た、耐えろ、僕ッ!!!!!
と、兎に角! 二人ともなんとも嬉しそうやら嬉しそうやらで見ているこちらは小っ恥ずかしいやらなんやらな空気に成っちゃった。
はぁ、ここが人目の少ない渡り廊下で良かったよホント。
しかしまあ、この友人らしいやり取りができるのもこの二人だけだ。
僕らは昔から仲が良かった。
王族と公爵家とで親同士も交流があり、二人の親はよく城に出入りしていた。その時に付いてきた二人はよく僕の話相手になってくれた。
僕がこの学園生活を楽しめているのも二重の意味でこの護衛騎士二人のお陰だ。
+++
「殿下、お疲れ様です。休憩に入りましょう」
そう言ってリズが僕の机の上に紅茶を用意してくれた。
今は放課後。僕ら生徒三人と用事で学園に着ていた僕の執事兼護衛の一人とで生徒会室で事務作業をしている。
僕たちはこの学園の生徒会に所属している。会長が僕、副会長がカル、書記がリズ、といった割り当てで。他にも生徒会メンバーは居るが、今日は別の作業をしてもらっていた。
特にこの二人は事務作業面でも非常に優秀で、作業がスラスラととどこおりなく進む。お陰で生徒会は特に問題もなく活動できている。
「ありがとうリズ」
リズの淹れてくれた紅茶を一口含む。相変わらず美味しい。これには僕の執事も感嘆の溜息を漏らした。
リズは紅茶を淹れるのが上手いなぁ。まぁ彼女は紅茶どころか、外国で嗜まれている他の種類のお茶を淹れることが可能なのだが、それがまた美味なのだ。
集中していたからか疲れが溜まっていたようで、疲れた身体に染み渡るのを感じる。僕は椅子の背もたれに身体を預けて、ふと気がついた。
「あぁそうだ、資料室から生徒資料を取ってこないといけないんだった……」
「そうだったのですか?」
リズがキョトンと首を傾げた。
「ああ、すっかり忘れていたよ」
どうするかなぁ、まだ仕事残ってるし、資料室遠いんだよね。
「自分が取ってきましょうか?」
そこで頼れる護衛騎士ことカルが名乗りを上げてくれた。
「助かるよカル、そうしてくれるかい?」
「もちろんです。資料の詳細を教えてくだされば」
そう言ってカルが今やっている作業を一旦止めて僕の机の方に来る。
「えーっとね、各騎士クラスの成績上位者の生徒資料を頼みたいんだけどいいかい?」
分かりました、と頷いてくれたカルにお礼を言うと、リズが「それでしたら、私も一緒に行きます。騎士クラスは三つありますし、二人で運んだ方が効率が良いでしょう。それに今はディールさんもいらっしゃるので殿下の護衛も心配無いかと」とカルの隣に並んだ。因みにディールは僕の執事兼護衛ね。もうね、超強いの。
うーん、確かに生徒資料は種類が豊富だし、上位者と言っても人数は多い。次期団長最優良候補とは言えカル一人に任せるのは申し訳無いな。それにリズはもう作業ノルマを達成しているみたいだし。
「ああ、助かるよ」
素っ気なく言っているけど、優しく彼女に微笑んでるとこからして、実は満更でもないんだろ? カル。
まあ、言わないけど。
「うん、じゃあ頼もうかな。宜しくね二人共」
「「お任せください」」
声をそろえてそう言ってくれた頼もしい護衛達は仲良く肩をそろえて部屋から出て行った。
部屋を出た瞬間カルがリズの手を取り彼女がピクリと可愛らしく反応していたのがチラリと見えたことについては何も言わないでおこう。全くもう。
騎士クラスはこの学園に設置されたクラスの一つで、三クラスある。名前の通り、騎士を育てるために作られたクラスだ。ちなみに二人は騎士クラス所属ではない。僕と同じ通常クラスだ。騎士の修行は実際に騎士団で行っている。
全く。本当に頼りになる二人だ。僕の手伝いを率先してしてくれる。
まあ、そんな二人が僕の頼み事を請け負った理由には二つ意味があることを僕は知っているのだけれど。
一つ目は普通に僕の手伝いとして。
二つ目は_____ただ単に二人きりになりたかったのだろう。
さっきの部屋を出た瞬間のカルの行動から見て取れる。
カルとリズは婚約者同士。政略婚約なのだが、お互いがお互いのことを大切に思い合っており、カルに至ってはリズが初恋で一目惚れだったのだといつか教えてくれた。
仲睦まじい二人は学園でも有名で容姿も良し、騎士としても格好良いといたるところで話題に上がっては騒がれているらしい。
正直、王子の僕よりも騒がれている気がしてならないが、僕としても友達の良い噂は嬉しいのでまあ良しとする。嘘じゃないよ?
二人は僕の護衛だからほとんど僕の近くを離れることがない。
つまりは二人きりになれる時間が少ない、というワケだ。僕が必ず居るから。
うん? 僕、もしかして二人の邪魔?
えっ、絶対そうだよね。
「ねぇディール」
「何ですか殿下」
「もしかしてさぁ、僕、あの二人の邪魔だったりするかな?」
「………」
うん、別に悲しいワケじゃあないけどさ、ちょっと複雑だよね、うん。
「そうだよね邪魔だよね僕が居なければあの二人はいつでもイチャイチャできるもんね邪魔だよね僕は」
「いえいえ、そのようなことは無いと思います」
「うん、いいよ気休めなんか要らない」
「そんな据わった目をなさらないで下さい。少なくともあのお二人は殿下を邪魔だなんて思って無いと思いますよ」
「うん、それは僕も思うよ。優しいからね二人とも」
二人は僕を邪魔だなんて思っていない。これだけは確実だと言える。
ただ、ね? やはり申し訳が無いと思ってしまうな。今度王家必見のデートスポットでも教えてやるか! そんなのが有るか知らないけれど。
今頃二人仲良く手をつないで話でもしながら資料室に向かっているのだろう。そんな友人二人を想像して、僕は気づいたら笑っていたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
是非、誤字報告や感想、評価にブクマ等よろしくお願い致します。
その他短編達も是非。