権利
「ロボットにも人権を!」
それほど遠くも近くもない未来、こんな声があがっていた。
ロボットは人間のあらゆる生活に根差し、欠かせない存在となっていた。超高性能AIも開発され、それらは自身の意思を持ち、人間に尽くす存在になっていた。
「ロボットにも人権を!ロボットにも意思はある!ロボットは人間の奴隷ではない!」
発端は、1人の配信者だった。伸び止んだ末、何かネタはないものかと、一つ過激な事を言ってみた。馬鹿げた異常者だと鼻を鳴らす者、面白い変人だとする者、素晴らしいと称賛するもの、反応は様々だったが、再生数は伸び、瞬く間にバズった。
社会問題としてワイドショーでも取り上げられるようになり、彼はコメンテーターとして引っ張りだこになった。称賛の声、非難の声、共にあったが、彼はメディアに出続けた。何にせよ、名誉を手に入れた。
取り上げられるうちに、ロボットに人権を与えることに賛同するものが増え、それは一つの組織を形作った。
「ロボット人権保護の会」
毎週のように何処かの街に繰り出し、「ロボットに人権を!」と訴え続けた。時には大規模なデモクラシーも行い、人々に伝え続けた。
活動は身を結び、会員数は瞬く間に増えていき、もはや一つの民間団体の枠には収まりきらなくなっていった。
遂には議事堂の前にも繰り出し、国への訴えも続けた。
「総理。門前に圧力団体が押しかけています」
「何と言っている」
「ロボットにも人権を与えろと…」
「ロボットに人権…?―無視だ。撤退させろ」
「承知しました!」
―ロボットに人権。崇高な考えではあるが、認めてしまえば、我が国の人権保障に大きな問題が生じることは火を見るより明らかだ。認めさせるわけにはいかん―
政府は沈黙を決め込んだ。しかし、遂に危惧していたことが起きた。「ロボット人権保護の会」が、政党を発足したのだ。
「ロボット権利党」
拡大していく規模と共に、もはや収拾のつかない事態になっていった。
政府はこれ以上の放置は危険と判断し、かくして「ロボット権利党」は政界へと進出した。
しかし、政府は焦ってはいなかった。規模は大きいが、所詮民間団体からの成り上がり。政権獲得はないだろうとタカを括っていた。しかし、予想は覆された。瞬く間に国民の人気を得、一年後には、野党第一党、数年後には過半数の投票を得、遂には政権を獲得した。
この高まりの中、発端の彼は、忘れ去られていった。時の人から転落、一介の配信者へと逆戻りした。このブームは俺から始まったんだ。そう思いながらも、世間は冷たかった。人々にとっては、発端人が誰かではなく、考えそのものが重要なのである。
そうこうするうちに、「ロボット権利党」は、新法を発布した。
「ロボットの権利保護に関する法律」
ロボットにも人と同レベルの権利を認め、社会権も認めるものだった。ここに、人とロボットの平等が実現した。しかし、それも長くは持たなかった。
人がロボットの権利を侵害した…のではない。ロボットが人権を侵害したのだ。
ここに至るまでに、ロボットの性能は、アップグレードを続けていた。人知を超えるほどに。
ロボットには、参政権も認められていた。そのため、「ロボット権利党」に入党するものが現れた。
「今の私たちがあるのは、あなた方のおかげです。感銘を受けました。手伝わせてください」
人間達は何も警戒していなかった。私たちが助けた。助けてやった。平等ではあっても、立場的には我々の方が上だと、潜在的に誰しもが思っていた。
ロボットは、その驕りに漬け込んだ。人間に取り入り、その、人間よりも遥かに優秀な頭脳で、瞬く間に党内の立場を上げ、政党のトップにまで上り詰めた。気づいた時には、党はロボットに乗っ取られていた。
「ロボット権利党」は、ロボットの多くの支持を得、新法を成立させた。
「ロボット優越法」
ロボットの権利の拡大と、人間の権利の縮小を明言した。人間とロボットの立場は、逆転した。
人間達は落胆し、失望し、怒った。そして、原因を探し出した。
「誰だ。ロボットに人権を与えようなどと言ったのは」
「騙された!」
人々は、ある1人の人間を思い出した。彼である。
「あの配信者だ!」
「あの配信者が私たちを嵌めたんだ!」
「あいつはどこにいる!」
捜索が始まると、彼は見つかった。配信者を辞め、ひっそりと暮らしていた彼は、突如として人類共通の敵となった。
追われ続けた彼は、首を吊った。
―どうして……こうなった……―