たいけつ!全裸バーサス全裸ギラー!
【①いつかワタシは皆の敵】
長く伸ばした白ワイン色の、のたくった天然パーマの髪。両耳代わりに左右1つずつ生やした、アングレカムの花。
ぱっちり開いた目を飾る、たっぷりした透き通るまつ毛。可憐であどけない幼い顔。
胸から足の付け根まで……裸の胴体の前方を、巻きついた髪が服のように見せかけ、背中から小さなお尻はマントのように広がったウェーブ髪が隠している。
透明な手足指と、控えめなスリーサイズ。
「格上は信用できない。ワタシより強いことを理由に、ワタシのイヤがることをする」
「格下は信用できない。ワタシより弱いことを理由に、酷いことを平気でするから」
「同格は信用できない。競争を理由に、ワタシを蹴落とすのに躊躇がない」
天然パーマの全裸っ娘は、虚無に染まった瞳で語る。対照的にキラキラした目の殺戮者、全裸ギラーは彼女を睨んだ。
「それで皆を殺したいってワケ?」
「そうする他はありません。ワタシには悪意を持つ人を見分ける自信と能力が足りない……どこに残虐な殺人者が、1人でも混ざったものか分からない」
「話にならないわね。人間不信女」
全裸ギラーは、吐き捨てるようにして言った。
虚無の瞳孔は変わらず、波打つ髪先が眩く照りつく。
【②恐怖の殺りく全裸ギラー!】
全裸ギラーは、名が表す通り、天パー全裸を殺すことを目的に製造された、生体兵器だ。
かつて世界征服を目論んだ悪の天才、マグナフシュタインが復讐のために遺したバイオ暗殺マシーンである。
その姿は天パー全裸をベースに、赤ワイン色の頭髪、赤ワイン色のまつ毛。
耳は普通の人間の形で、透き通ったクリアパーツとかでもない。手足指も普通の人間の肌色。
何より違うのは、服を着ていること。5本ヅノ付きフードを被った、前を開けた袖無しジャケット。
そしてビキニ水着に、ビーチサンダル。まだ露出は激しいとはいえ、着衣の分、全裸より文明的といえるだろう。
全裸より見た目の年齢プラス5さい、身長プラス17センチ。
胸も、ひと周りサイズアップしてるので、はたから見れば姉妹のようにも見えるだろう。
そんなギラーは、憎しみを燃やした目で言った。
「ボクは恥ずかしげもなく肌を晒す、裸族女を殺すために作られた……キサマが皆を殺す者ならば、ボクはキサマを殺す者!」
「ほう。その理由は?」
「決まっている! キサマを殺せば、ボクの存在意義も失われる! 従って……」
ギラーは、1枚の紙を取り出した。見ると、何やら枠が沢山あるが、その全てが空白だ。
代わりに付箋が貼られている。「サリー」、「メグ」、「アン」……どれも何てことのない、普通の名前だ。
「キサマを殺せば、改名してマトモな名前で呼んでもらえるようになる! 服も制限が外れて、着込める。そのためだ!」
「タイヘンですねえ」
「他人事か!」
【③わか草原っぱの決闘!】
ギラーは両手の間に、黒い禍つ星を生み出しながら言う。
「余裕でいられるのも今のうちだ……! ボクはキサマの、今までの技を全てラーニングしたんだ!」
「ふん……その成果が、それですか」
「砕け散れっ。崩壊星収縮終焉!」
禍つ星は超圧縮され、空へと飛び上がる全裸へ向かって、投げ放たれる。
小さな黒い球弾は、触れれば周囲を飲み込む、自滅式破壊ビーム玉だ。全裸は両手を広げて、バリアをはった。
「胎海バーリア!」
「ばかめ! そんな小さなバーリアなど、おまえ諸共のみ込んでしまうわ!」
「胎海バーリア押し出し」
「何!? あっ──」
あろうことか、全裸はバリアの壁を、そっと両手で押し出した。
彼女から離れたバーリアに黒星は命中し、膨れ上がった後にバリアごと消滅する。しかも、膨らんだ禍つ星の一瞬に、全裸の姿が消えている。
「──はっ!」
「後ろです! 胎海肘鉄!」
「ぐうっ!」
背後から、拳に手を当てた神速の肘鉄。胎海の水をまとった一撃を、ギラーは何とか振り向いて防御した。
だが、威力と勢いまでは殺せない。ギラーはブッ飛んで、原っぱに転がった。
「ワタシの考案した技でワタシを殺すのですか……スペシウム光線を返したゼットンのように」
「クッ。おのれ~……!」
余裕に構える全裸を睨む、全裸ギラー。彼女の頭には、些細な疑問が浮かんでいた……。
ゼットンって誰なんだろう……と。
【④ドリルキックに要注意!?】
「ならば! バリアなんて無視してやるっ。"防壁"斬りの宝刃周円盤帯!」
「素直で可愛いですねえ」
「黙れ! 真っ二つにしてやる!」
凄い勢いで投げ放たれる、クソデカ虹色リングの刃。別に避けるのは容易いが、全裸は跳び上がって迎撃の渦をまとった。
「!? ばかめ、空中ではかわせまいっ。死ね~!」
「我が肢体は銃弾。胎海の銃キック!」
「何!? ああっ」
胎海が弾けて王冠を作り、発砲音と共に全裸の体が撃ち出される。
両手と両足を真逆に伸ばした、ドロップキックは渦に巻かれて、高速回転ドリルキックを完成させた。
虹のリングは容易く砕かれ、原っぱをも蹴散らして、全裸は回転を収めて着地する。
追撃をしないのは余裕の現れか。全裸ギラーは歯ぎしりをした。
「目、目目、目が回る~!」
「って、欠陥技かーい!」
「世界が、回って見えます~」
【⑤決着!】
「真面目にやれ~! 水のカード!」
「はらほろひれはれ……」
「仙龍寄譚! "雷電咆哮"!」
ギラーの手にある水のカードが激しくギラつき、泡立って消える。と、同時にカードに描かれていた雷の龍が、彼女の背後から撃ち出された。
辺りを焼き尽くす絶大極太サンダー。未だ足取りのおぼつかない全裸には、避けられるはずもない。
しかし、全裸の胸の前に、ゆらめく色のカードが浮かび上がった。
「胎海カード。あなたの背後にテレポート」
「何!? 後ろに──」
雷の龍は辺り一帯を破壊するが、使い手までをも巻き込まない。
使用者が見える位置なら、むしろ突撃した方が安地なのだ。雷の龍は攻撃を外した。
渦に吸い込まれるように姿を消した全裸は、全裸ギラーの背後に、渦と共に現れる。
そして振り向いたギラーの首めがけて、片手に持った小さな虹のリングが振り下ろされた。
「こういう使い方もあるのです。宝刃周円盤帯!」
「ッ! 渦まといガード!」
ギャギィイイイ……ッ! 渦をまとった腕と、高速回転する虹のリング。ふたつの回転エネルギーは互いの技の耐久力を激しく減らし、このままでは両者ともに技が砕けて、勝負は引き延ばしの憂き目にあう。
「なので、ごめんなさい。貫き手」
「げぼおっ!? ぐえ、首が……っ」
虹のリングを持ってるのは片手。完全にフリーな、もう片手で手刀を作ると、全裸は細く柔らかな喉を突いた。
普通に危険なので、真似しないように。
首に神速の貫き手を撃たれて、あえいだ全裸ギラーは防御の腕が緩んでしまう。
そして、虹のリングは彼女の首に押し当てられた。
「"重力"斬りです。ふっ飛んで……ください!」
「うぎゃががががっ!? どわ~っ……」
一瞬だけ無重力状態となった全裸ギラーは、斬衝撃の爆発で空高くブッ飛ばされる。
空中でもがく彼女へ向けて、全裸は容赦なく手刀を向けた。そして、あいた片手で、伸ばした腕を撫で、引き絞る。
手刀に、胎海の渦が巻かれた。髪先の白ワイン色が、よりいっそう激しくビカる。
「さよならです、可愛い坊や。造られた兵器にリポップがあるか、確かめましょう」
「待っ、やめ──」
「胎海の銃シュート」
放たれた渦は矢となって、哀れな全裸ギラーを飲み込んで、
それから、膨れ上がって爆発した。
【⑥いつかワタシは……】
「お弁当にしましょう、坊や。せっかくの、いいお天気ですもの」
「何さ。拾った食べ物でエラソーに……」
「食べないの?」
「食べる」
破壊痕を治した原っぱの上に、カードから出したピクニック用マクロフの、レジャーシートを広げ敷く。
弁当箱のバスケットを開いて、中身を見ると、多種多様のサンドイッチに果物たち。
結果から言うと、全裸ギラーは普通にリポップした。お弁当のバスケットと同じく、終わった後、どこかにリポップできるようだ。
それが生命にしろ、食べるにしろ。
戦いが終わり、辺りを"再生"と"取り返し"の渦に巻くと、空中に中身の詰まったバスケットが浮いていた。
せっかくなので、帰る前にピクニックに来た家族ごっこをすることにした次第だ。
「見てろよ! いつかボクはアンタを殺して、それから可愛い名前を付け直すんだ」
「それより頬に、ご飯粒が……」
「付くワケねーだろ!?
サンドイッチだぞ──や、やめ」
揃って女の子座りをして、並んでサンドイッチを食べる2人。
細く美しい、透き通った指で、柔らかな頬を突っつかれながら、ギラーは全裸の抹殺を誓った。