婚約破棄を言い渡されているのですが、誰ですか?
「聞いているのか!ホワイティス。そなたは、いつも人の話も聞かず、自分勝手で、傲慢で、この前も言ったであろう、これ以上酷くなるようなら婚約を無かったことにすると。もう、私には、そなたとのことは無理だ。君とは婚約破棄をする!ライザック侯爵家へは追って婚約破棄の通知を出す。いいな」
えーと、この目の前にいるシルバーの髪で、アイスブルーの瞳。みるからに寒そうな男性は私を睨み、宣言している。私に言っているのかしら?
私は人差し指を私に向けて、わたし?ですかと首を傾げて恐る恐る聞いてみた。
「そなたに言っているのだが」
背後にブリザードがゴーゴー吹いているような錯覚に陥っている。
私たちの周りに人がいた!何かのパーティ。周りの女性たちが扇子を立て、こそこそクスクス笑っていた。
「私は何度もそなたに、このクラバット男爵令嬢とは何ともないと言っていた。生徒会で、一緒いただけだ。それなのに、クラバット男爵令嬢に対して、教科書などを隠し、誹謗中傷し、様々な嫌がらせをした。
もう、うんざりだ。婚約破棄の申し出をさせてもらう」
かちーんときた。なんだ、あなた(お前とかあんたとか言いたい。でも、なんだか言ってはいけないと何かが警告している)
そのなんちゃら男爵令嬢はあなたの腕に絡みついているではないか。仲良しこよしして、なんでもないと、どの口が言っているの。(口の悪さがでてしまう、ダメだと警告されている)
「ちょっと、そこのあなた(人差し指で指してロックオン)、あなたはその男爵令嬢のことが好きなの?だから、いま、腕を絡められても嫌な顔せず、こっちに非があると言っているの?こっちから願い下げだね。あたしゃ(あたしゃと言ってはダメよ)浮気男が大っ嫌いなんだよ。浮気男がね。こんな若いのに、浮気ばかりする男は、年取ってからも浮気ばかりする男だよ。あなたもさ、こんな浮気男でいいの?まぁ、あなたも、婚約者がいて、男に擦り寄っているのなら同類か。お互い似たもの同士でいいんじゃないか。お似合いだよ。じゃ、婚約破棄でいいんじゃないのか。なんちゃら男爵令嬢も良かったな、こいつと結婚できるかもしれないぞ。私は浮気男は願い下げだけどね」
「ホワイティス、な、なにを言っているのだ。私は浮気などしていない。そんな非道なことはしない」
「別に、あなたが浮気しようがなにしようが勝手だけど、婚約破棄受けて立つわよ。あなたみたいなのはムリだ。じゃ、そのなんちゃら男爵令嬢、この男と仲良くね」
「お、おい、ホワイティス。待て、何か勘違いしている」
「うるさい。婚約破棄を受けたんだ。金輪際喋りかけないでちょうだい」
と、啖呵切ってホールを大股で出てきたはいいが、ここはどこ、私は誰?の状態のよ。ホールに戻ろうかしら。
ふと鏡を見ると、ひょぇーー。誰?西洋人がいる。赤い髪に、緑の目。クリスマス配色。いやいや違う。頬に手を添える、頬を引っ張る、変顔する、全てこの鏡に映っている人がしている。なんですって。
これ私なの、私なの?キョロキョロしていると、あの浮気男が離れて見ていた。
「ホワイティス、何しているのだ」
「あっ、さっきの浮気男」
「なにしているのだ?」
「えーと、すみませんがあなたさまは、どちらさまでしょうか?」
「はぁ?だれって?えっ?」
「私は先ほどあなたに婚約破棄宣言されていた時、覚醒したのですが、あなたは誰?私は誰?ホワイティスというのがこの子の名前なのかしらねぇ。困ったわねぇ。そのうち思い出すかしらね?」
と、頬に手を添えて、首を傾げた。
「ホワイティス、大丈夫なのか?記憶がないのか?」
「そのうち思い出すわよ。浮気男さん」
「失礼な、浮気などしていない」
「ふぅん。腕を絡められて,鼻の下を伸ばしてたわよ」
「ち、違う。鼻の下など伸ばしていない。全く、あれは君が、クラバット男爵令嬢の顔を打とうとしていたところを、私が後ろに退避させたのだ」
「はぇ?あれ?あの子を殴ろうとしていた、あー、勘違い?わたしが原因ってこと?あらまー。
まぁ、しょうがない、やってしまったものは。ここはスパッと、なんでも受け入れましょう。では、婚約破棄と私の家に送ってくださらない?寝れば記憶が蘇ってくるかもしれないので」
「はぁ、潔いな。わかったよ。馬車を呼ぶから、こっちに来てくれ」
「ありがとうございます」
浮気男改めて、名前がわからないので、アイスブルーさんは左手を差し出した。私は、手をガン見した。これは和解の握手を求められているのか?ここは左手で握手するか?利き手が左手なの?
真正面に立ち、ニコッと笑い、握手をした。和解の意思だ。これでいい。相手の目を見て1人頷く。
キョトン顔のイケメンも様になるな。
「ふふっ、握手ではなく、エスコートなのだが」
めちゃくちゃ笑っている。笑顔のイケメンは、おかずになるな。ごちそうさまです。
「なぜ拝まれる?」
「笑顔のイケメンでご飯が食べられそうなので」
「あははは、よくわからないことを言うなぁ。あははは」
さっきの雰囲気とは打って変わっての態度だなぁ。
「ところでアイスブルーさん、私を家に送っていただけるのでしょうか?わたしの家はどこですか?」
「あははは、アイスブルーさんって、俺?」
おー、俺だって、俺。愚民がー、と言って欲しい。すみません、私的事項です。
「すみません、名前が全く思い出せないので、見たまんまのアイスブルーさんです。そう言えば、あのなんちゃら男爵令嬢は放っておいて大丈夫ですか」
「もうだめ、あははは、なんちゃら男爵令嬢って。あははは」
大丈夫か、この人は。隠れ笑い上戸かもしれない。みんなの前ではクールを装い、俺かっこいいだろうって人か?もう、笑いを止めないと過呼吸になってしまうよ。
「大丈夫ですかー?過呼吸になってしまいますよ。紙袋でスーハーした方がいいですよ」
「はぁー、はぁー、疲れた。はぁー」
「あのー、わたし、帰りたいのですが」
「そうだね、馬車が来るので待ってくれ。あ、来たぞ。どうぞ、エ、エスコートだからな。握手ではないぞ。あははは」
また、笑い出したよ、この人は。御者がびっくりしているよ。ほんと、この方は、いつもはキリリとした表情で、他者を寄せ付けない雰囲気で、俺に近づくな的な人なのかもしれない。だから、こんな笑っている姿を見てみんなびっくりしているのかもしれない。
エスコートのため、手を重ね、馬車に乗る。
「あのー、馬車にわざわざ乗るのにエスコートなんていらないですよ。自分で乗れますよ。あれは面倒です」
「くくく。じ、女性はエスコートされて馬車に乗るものですよ。あははは」
もう、寝ていいですか?ダメですか、そうですよね。知らない男の人と、同じ馬車に乗っているなんて、はっ!身の危険!
「キョロキョロしてどうしたのですか」
「知らない男性の車に乗ってはいけないとおじいちゃんに常日頃から言われていたので、身の危険を感じ、逃げ方を考えていたのです」
「クハッ、お、おじいちゃんに言われているのですか?」
「そうですよ、おじいちゃんはそんじょそこらの人より腕っぷしが強く、神輿も担げる人なんですよ、強いおじいちゃんが知らない男とは、絶対同じ車に一対一で乗るなと約束させられていたのに、乗ってしまったわ。おじいちゃんの遺言に背いてしまった。おじいちゃんが化けて出てくるわ」
「お、おじいちゃんが化けて出てくるのですか?クハッ、わ、私たちは婚約者なので大丈夫かと思いますよ」
「いえ、婚約破棄を受け入れたので、赤の他人です。ですが、どこの誰だかわからないので。
ところで、すみませんが、私が誰なのかだけでも教えていただけないでしょうか?お願いします」