ぼくの記憶
これは、なんだろう。
ボクの中に、知らない記憶が流れ込んでくる。
いや、知っている。知っているのに、知らない。
これは…なんだろうか?
ああ、なるほど、わかった。
これは、ぼくの記憶だ。
確証はないけど、多分あってる。
そんな気がした。
それにしても、ぼくはまあ、随分と、
………
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「強くなれ。それがお前らができる唯一の親孝行だ。」
これが、母の口癖だった。
ぼくがが住むネヴィル家の治める領土は、
魔物が多く出るヴォグの森にとても近く、
魔物からランカスタ王国を守る盾の役割を果たしている。
ネヴィル家の先先代の領主は、街を歩けば知らない人がいないほど、有名な冒険者だったそうだ。その名残か、領主やその血縁者が直接戦場に出て、魔物退治の指揮を取る。
そのためネヴィル家の子供は貴族の中でも珍しく「強さ」が求められた。それゆえの母の口癖だろう。
父は書類仕事や魔物退治で忙しくしており、あまり子供達のことを見ていなかったように思う。実際、父と最後に会話したのは一月以上前だ。母に気に入られようとしたのは自然なことだったのかもしれない。
ぼくは、強くなりたかった。
この身一つで魔物を蹴散らせるような、そんな強さが欲しかった。
母に喜んでもらうために。
母に褒めてもらうために。
ボクには3つ上の兄が1人いたが、兄はあまり真面目に訓練に参加しておらず、端的に言えば弱かった。
おそらく母は、兄を見限ってボクに期待をかけていたのだろう。
訓練は母のつきっきりで行われた。訓練は厳しく、そして長かった。勉強と食事、そして睡眠の時間以外はずっと訓練をしていたように思う。
今思えば、あの時ぼくを支えていたのは、母に褒められたいという思いだけだったのだ。だが、どれだけ訓練を必死に行おうとも、剣の訓練で手に豆ができ、それが潰れるまで剣を振ろうとも、ぼくは母に褒められることはなかった。
まだ、足りない。
もっと強くならないと。
いつからか、寝る間を惜しんで自主トレーニングを行うようになっていた。これが、その時のぼくが思いついた、1番強くなれる方法だったから。
この世界で強くなるためには、体を鍛えたり、
武術を極めたりする以外にステータスを上げる必要がある。
そして、そのためにはレベルを上げなければならない。
しかし、レベルを上げるためには、魔物を倒さないといけない。
当然、小さな子供にそんなことはできないし、
親も普通はそんなことをさせようとはしないだろう。
戦闘においては貴族の中で常軌を逸しているネヴィル家でも、わずか7才だったぼくに魔物の戦う許可は出さないだろう。
ボクもそう思ったから自主トレーニングをしたのだ。
そんな生活を続けていたある日、転機が訪れた。
兄が10歳になったのだ。
この家では、10歳で初めて魔物を討伐する決まりになっている。それは、子供が持つ「スキル」を確認して、さらに子供のステータスの伸び幅を知るためだ。魔物を一体討伐すれば、「レベル0」となり、本人が持つスキルがわかる。そのまま何体かの魔物を倒し、「レベル1」まであげればステータスの伸び幅もわかる。
そんな大事だ、普段忙しそうにしている父も、兄と一緒に魔物を討伐する。そこでぼくは、意を決して言った。
「ぼくも連れていってください!!」
ノアと兄は3歳差ですが、誕生日が違うので、兄が10歳の時ノアは8歳です。