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Lightning in the blue sky

Lightning in the blue sky{9・10}

作者: はらけつ


なんにせよ、


青い空に、稲妻は、よく似合う。



稲妻が、走る。

稲妻が、落ちる。


青天から、落ちる。

青天に、走る。


空から地へ。

いや、正確には、宙から地へ。


気象衛星は、観測する。

大気の動き等を観測し、地上に、伝える。

地上では、それを元にして、気象予測を、する。


気象衛星は、落とす。

人工的な稲妻を、地上に、落とす。

地上では、気象予測した結果を元に、気象制御の為の稲妻を、落とす。


未だ、人工的には、微々たる稲妻しか、起こせない。

そんな稲妻では、気象制御に、使えない。


稲妻の威力を、増幅する必要が、ある。

気象制御に使える稲妻にする、必要が、ある。


それには、増幅装置が、必要。

増幅装置と云うか、そう云うものが、必需。


色々、試した。

無機物から、有機物まで。

鉱石・薬品から、昆虫・動物まで。


結果、一つのものに、落ち着く。

人間に、落ち着く。

それも、濃い記憶を所有している人間、に。


濃い記憶を持っている人間ほど、役に立つ。

気象制御の為の、稲妻増幅に、役に立つ。

記憶が濃い程、稲妻は、増幅される。


が、身体に、電気(稲妻)が走る訳なので、無事には、済まない。

人間の神経や脳には、電気信号が走っている訳なので、無事には、済まない。


代償として、増幅装置になった人間からは、失われる。

増幅装置として使われる度、記憶は、失われる。

新しい記憶から、最近の記憶から。


法律が、制定される。

その法律の為、気象制御を名目に、人が、強制的に招集される。

体のいい、祭の人身御供、戦時の赤紙招集。


招集する人間は、その資格から、高齢者が、多くなる。

が、『濃い記憶を持っている』資格さえあれば、若年者も、招集される。


表立っては、苦情を、言えない。

災害を防ぐこと、多くの人の利便に関わること。


そうやって、善意の犠牲者を出し、日々は、続いてゆく。


{case 9}


今年は、多い。

今年も、多い。

ここ十年程、間違い無く、多くなっている。


大雨の被害が、多い。

洪水の被害が、多い。

それに関連する被害も、多い。


台風も、直撃する。

日本列島、端から端まで、直撃する。

大体、年にして、三~四個は、直撃する。


気象衛星の気象制御の【稲妻落とし】が無ければ、もっと被害は、甚大なものになっているだろう。

その意味では、気象衛星の気象制御の【稲妻落とし】は、不可欠なものと、なっている。

尤も、その恩恵は、眼に見えにくいものなので、いつでも費用削減の対象になってはいるが。



「やばい」

「何がや?」

「これです」


レムコは、画面を、指差す。

ヤンは、画面を、覗く。


PCの画面は、数十分後の気象予測図を、映し出している。

全世界規模の気象予測図、だ。

世界一の精度と速度を誇る、スーパーコンピューターの気象予測図、だ。


気象予測図は、予測している。

数十分後の、全世界的な気象災害を、予測している。


アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア。

北米、南米、北半球、南半球。

大陸、島国、関係無い。


今はまだ、ちょっと強い目の雨と風。

それが、ここ数十分で、破壊的に強まる様、だ。

下手をすれば、数十年は回復できない傷が、世界に、残る。


「早急に、いや今直ぐ、稲妻を落とさなあかんやろ」


ヤンが、慌てて、言う。


「落としますか」


レムコは、すぐさま、答える。


気象制御の為の【稲妻落とし】は、すぐさま、落とせる。

上役への事前報告とか検印とかその他諸々、必要無い。


一刻一秒を争うことが多いので、いやそれがほとんどなので、気象制御官(ここでは、レムコとヤン)に、実行可・不可が、一任されている。

【稲妻落とし】については、事後報告で、了承される。


気象衛星から稲妻を落とすには、小さい稲妻を増幅する。

その増幅の際、気象衛星に乗っている人間(稲妻増幅要員)には、電気信号が、走る。

その副作用で、その人間から、記憶が、失われる。


「何処に?」


ヤンが、訊く。


「何処って ・・ 」


レムコは、画面を分割して、地図を、表示させる。


 ・・ !


ヤンは、地図画面を見て、愕然と、する。


通常、稲妻を落とす地域は、規定されている。

稲妻を落としても、大きな被害が出ないであろう地域に、規定されている。

その地域とは、周りに何も無い海原や平野や山地、避雷針が充実しているところ等。

災害を出さない為の【稲妻落とし】が、災害を招いてしまったら、本末転倒も甚だしい。


が、今回は落とす場所が、無い。

落とす場所を探す時間が、無い。

一刻も、無駄に出来ない。


今回は、事後了承でOKとは云え、責任問題になるかもしれんな


ヤンは、思う。


なんせ、少なくない被害が出る覚悟の、落とす地域を検討しない、【稲妻落とし】。

しかし、今落とした方が、相対的に、被害は抑えられる。

オールで見たら、今落とした方が、絶対的に、被害は少ない。


ヤンは、レムコと、アイ・コンタクト。

レムコは、大きく、頷く。

ヤンも、大きく、頷く。


レムコは、指示を、出す。

気象衛星に、指示を、出す。


「稲妻を、落とせ」、と。

「気象制御の為の【稲妻落とし】を、決行せよ」、と。



ローザ1号は、指示を、受け取る。

すぐさま、機内で、小さな小さな稲妻を、作る。


稲妻が出来ると同時、電気信号が、走る。

ローザ一号に乗る、稲妻増幅要員の人間に、電気信号が、走る。


その人間を走り抜けた電気信号は、稲妻に辿り着く。

見る見る、稲妻を、増幅させる。


その代わり、稲妻増幅要員の人間からは、記憶が失われる。

稲妻増幅電気信号に、記憶を、持って行かれる。


 ・・ ・・ !!!


稲妻は、落とされる。

何処かに、落とされる。



それは、こっちの、知ったこっちゃない


レムコは、思う。


何処かで被害が出ようが、俺は、俺の、やるべきことをやったまでや


レムコは、思い込もうと、する。


「レムコ」

「はい?」

「これ、見て」


ヤンが、自分のPCの画面を、いち早く、指し示す。

レムコが思いに浸っている間、ヤンは、稲妻を落とした地域を、チェックしていた。


幸い、都市部では、無さそうだ。

住宅等密集地でも、無さそうだ。

人口密集地でも、無さそうだ。


郊外で、

自然の多い土地で、

住民もまばらな、

そう云うところに、落ちたらしい。


まさに、不幸中の幸い。

気象制御面からも、【稲妻落とし】面からも、大きな被害を出さずに、済んだ。


が、


少数とは云え、被害を受けた人は、必ず、いる。

個人レベルでは、心が折れるぐらいの被害を受けた人は、必ず、いる。


そして、気象衛星では、


一人の人間が、記憶を、失っている。

その人間が、記憶を失うことで、その人間の家族・親族、友達・先輩・後輩等の知り合いが、少なからず、悲しむ。


それは、被害に、入らへんのか?


レムコは、考える。


物理的被害は、眼に見えるので、認識し易い、され易い。

人的なフォローも、経済的なフォローも、受け易い。


対して、


「記憶を失う」等、抽象的被害は、眼に見えないので、認識し難い、され難い。

人的なフォローも、経済的なフォローも、受け難い。


ある意味、『ダメージ的には、同程度のもん』やと思うんやけど


レムコは、なんか、釈然としない。


「ヤンさん」

「ん?」

「僕、思うですけど ・・ 」


レムコは、ヤンに、説明する。

思い考えたことを、説明する。


「 ・・ それは ・・ 」


ヤンは、口を、開く。

開いて、続ける。


「被害の個々的バランスと被害のオール的バランスを対比した、

 捉え方やな」

「 ・・ 個々的とオール的 ・・ ?」

「残念ながら、そこに、質的なものは、考慮されていない」


ヤンは、言い切る。


「 ・・ 考慮されていない ・・ 」


レムコは、呟く。


「そう。

 考慮されていない」

「 ・・ されていない ・・ 」

「残念だが、その通りだ」


ヤンは、吹っ切るように、言い切る。

言い切って、続ける。


「ここで、稲妻を落とすと、被害が出る」

「はい」

「稲妻を落とさなくても、被害が出る」

「はい」

「どちらにしても被害は出るが、どちらの方が大きい?」

「稲妻を落とさない方、です」

「そう。

 落とさない方。

 しかも、落とした方と比べて、甚大な被害が出る」

「はい」

「だから」

「だから」

「被害の個々的なバランスの観点からと、

 被害のオール的なバランスの観点からを対比すれば、

 稲妻を落とした方がいいに、決まってる」

「 ・・ そうですよね ・・ 」


レムコは、下を向き、頷く。


頭では、分かっている。

そちらの方が全然いいことは、分かっている。


が、


被害を、地域レベル、親族レベル、個人レベルに落として行くと、被害の大小の話は、薄まって来る。

相対的に存在感が大きくなって来るのは、被害の有無の話、だ。


それは、記憶の喪失にも、云える。

いや、それは、『薄まる』と云う段階が、無い。

最初から、有無問題、だ。


レムコは、何か、釈然としない。


それは、皺寄せやないんか

力の弱いもんとか、そう云うもんへの、皺寄せやないんか


レムコは、下を向いて、黙り込んで、思いに浸る。



ヤンは、そんなレムコの様子を見て、思う。


やれやれ


ヤンは、レムコに見えない様、こっそり、肩を竦める。


今の時期は、理想に燃えているから、そんな風にも、考えるわな


ヤンは、後輩を、微笑ましく、見つめる。


ヤンは、気付いている。

既に、気付いている。


稲妻を落とした処と、稲妻増幅要員として気象衛星に乗っている人間(記憶を失くしている人間)の住所が、同じことに。


謂わば、その人間・周りの人々には、災害が重なったわけだ。

世の中、上手く行かない。

重なる処には、重なる。


が、こちらには、好都合。


災害への対処で、済む。

災害への対処のみ、すればいい。


記憶を失くした人間のフォローを、必要以上に、しなくてよくなった。

記憶を失くした人間の、周りの人々へのフォローを、しなくてよくなった。


これで、時間的にも金銭的にも、精神的にも肉体的にも、プレッシャーは、かなり減じた。


今、気象衛星に乗っている、稲妻増幅要員は、キープしておこう。

周りの人間がそうなった以上、面倒なことは、とかく少なくなった。

後は本人だけの問題だが、記憶を失くしている以上、本人は、訳分からなくなっているはず。


ヤンは、(心の中で)ほくそ笑む。


ヤンのダークサイド、開陳か。

いや、リアルなだけだろう。

誰でも、自分に関わらないことでは、こんな風に考えるに、違いない。

リアルに、クールに、シビアに考えるに、違いない。


ヤンは、レムコの肩に、手を、置く。


「せめて、被害が少なく終わることを、祈ろう」


ヤンは、レムコに、言う。


レムコは、潤ませた瞳でヤンを見て、頷く。


「 ・・ はい ・・ 」


 ・・ ・・

 ・・ ・・


二人は、黙祷を、捧げる。

同床異夢、だが。

二人の思いは、違い過ぎるが。


ローザ1号は、あと何ヶ月も、飛び続ける。


{case 9 終}


{case 10}


キャンキャン!

ニャーニャー


キャンキャン!

ニャーニャー


 ・・ ・・ !

 ・・ ・・


アンキ2号の構内に、鳴き声が、響く。


「うん。

 うるさい」


モニターで、アンキ2号の構内を観察していたジャイは、言う。


「まあ、仕方が無いな」


ジャイの言葉を受けて、ヨナスは、答える。

答えて、続ける。


「お上の方針やし。

 上手く行ったら、人間の負担、減るし」

「そやな」

「ほんで、今までのところ、テスト結果上々、らしいし」

「ホンマか」



気象衛星は、稲妻を、落とす。

気象制御の為に、稲妻を、落とす。


気象制御の為には、それなりの大きさの稲妻を、作らなければならない。

が、現代の科学力では、小さい稲妻しか、作れない。

稲妻を増幅する必要が、ある。


今現在は、稲妻増幅に、人間を使っている。

人間が、犠牲に、なっている。


その増幅の役割を、動物に、担わせる。

今回は、そのテストを、行なっている。



「なら、これから、人間の代わりに、動物使こたら、ええやん」

「そう簡単には、行かんらしい」

「何で?」



稲妻を増幅する時、稲妻増幅要員の人間には、電気信号が、走る。

その電気信号のせいか、その人間からは、記憶が、失われる。


稲妻を増幅する時、稲妻増幅要員の動物にも、電気信号が、走る。

その電気信号のせいか、その動物からも、記憶が、失われる。


先行実験で、それは、確認済み。

あれやこれや、飼い主との記憶も、失われる。


実験結果で、分かったことが、ある。

量質共に、いい記憶を持つ動物ほど、稲妻増幅の効果が、大きい。

稲妻増幅要員に、適している。

飼い主との記憶が多く、幸せな記憶が高い動物ほど、稲妻増幅要員に、適している。



「つまり」


ジャイは、ヨナスの説明を聞いて、口を、開く。


「うん」

「可愛がられてる動物ほど」

「うん」

「【稲妻落とし】に」

「うん」

「適してるってこと、かいな?」

「そやな」


それ、あかんやん

絶対、飼い主、反対するやん


ジャイは、思う。


「実際に」

「うん」

「動物を、稲妻増幅要員に動員しようとしたら」

「うん」

「反対しまくりやろな」

「そやろな」

「動物愛護協会とか、出て来るやろ」

「そやろな。

 でも ・・ 」

「 ・・ でも?」

「法律制定されたら、一発やろな。

 現に、人間向けの強制法律は、あるわけやから」


 ・・ ・・

 ・・ ・・


ジャイも、ヨナスも、口を、塞ぐ。



ピーピー


PCから、警告音が、響く。

ジャイとヨナスは、PCの画面を、覗き込む。


「あー」

「赤なってんな」


ある地域が、赤く囲まれている。

災害発生極高確率地域、だ。

【稲妻落とし】を行なわないと、ほぼ確実に、災害が発生する地域、だ。


「ここって ・・ 」


ジャイが、問う。


「そやな」


ヨナスが、答える。



ブノワは、TV画面を、見つめる。

TVは、至急の避難を、警告している。


間違い無い

ウチの地域、だ


ブノワは、避難の準備を、始めようとする。

するも、フリーズする。


 ・・ やーめた ・・


ブノワは、避難の準備を止め、TVの前に、再び、腰を据える。


ブノワは、一人暮らし。


結婚は、していない。

自然、配偶者も、子供も、いない。

彼女も、十何年も、いない。


親・兄弟とは、疎遠。

友達とも、疎遠。

先輩・後輩とも、疎遠。


つまり、人的交流は、ほとんど無い。

唯一の交流は、犬、ペットの犬。

心の支えでも、あった。


でも、それも、もういない。

もう、失ってしまった。

よしんば帰って来ても、ブノワのことは、忘れているだろう。


そんな状況にあるので、ブノワは、投げ遣りになっている。

自暴自棄に、なっている。


今頃、飼い犬 ・・ スパンクは、気象衛星に、乗っているはず。

気象制御の為に、稲妻を、増幅しているはず。


何の因果か、稲妻増幅のテストに、スパンクが、選ばれてしまった。

こちら側に、有無を云わせず、スパンクは、連れて行かれてしまった。


TVに、速報が、入る。

テロップが、速やかに、流れる。


ブノワの住む地域の近隣に、稲妻が落とされる、らしい。

ブノワの住む地域の気象を制御する為、【稲妻落とし】が遂行される、らしい。


このタイミングやと ・・


ブノワは、思い至る。


スパンクかもしれんな ・・

 ・・ いや、それは無いか ・・



「今、稲妻増幅要員を勤めている犬の、住んでたところやな」


ヨナスは、答える。


「と云うことは ・・ 」

「飼い主の住所、やろな」


『飼い犬が、飼い主の為に、記憶を失くしてまで、気象制御に尽くす』

ってか

泣かせる話、ようできた話やな


ヨナスの返答を受けて、ジャイは、思う。


「うん。

 メディア受けしそうな話、やな」

「そやな」

「丁度ええやん。

 半強制で万人受けが悪い、

 気象制御の【稲妻落とし】のイメージ良好化の為、

 その話、使ったらどや?」


ジャイは、ヨナスに、問う。


「あかんやろな」


ヨナスの答えは、素っ気無い。


「あかんか」

「あかんな。

 動物を気象制御に使うのは、あくまでテスト段階やから、

 公にできひんし」

「そうか」

「よしんば、公にできても」

「できても」

「『こっそり、動物実験してたんか!』って、

 噛み付くやつがいてるやろから、余計、イメージが、悪くなりかねん」

「なるほど」


ジャイは、得心して、頷く。


「だから」

「だから」

「変に考え巡らすこと無く」

「こと無く」

「いつも通りで」

「うん」

「稲妻、落とそ」

「賛成」


ジャイは、ヨナスに、同意する。


まあ、俺らには、思い入れも無いし


ジャイは、【稲妻落とし】の準備をしながら、こうも思う。


 ・・ ・・


「準備、OK」

「ほな、いこか」


ヨナスが、ジャイの言葉に、返答する。


座標を指定して、落とす位置を、定める。

定めると、一呼吸置き、ボタンを押す。


押すと同時、スパンクには、電気信号が、走る。

スパンクの身体が、何度か、ビクンと、微動する。



稲妻は、落とされる。

気象制御の為の、【稲妻落とし】が、遂行される。


お陰で、ブノワが住む地域には、大きな被害は、出なかった。

いや、大陸的に見ても、全世界的に見ても、今回の運用では、大きな被害は、出なかった。


今回の、気象衛星の運用では。

動物を、稲妻増幅要員にした、今回のテスト運用では。

動物を使った、【稲妻落とし】では。


今後、人間の代わりに、動物が使用される、だろう。

動物愛護等の問題に、落しどころが付けば、即実行される、だろう。

流れは、決まった。


法律的にも、利点が、ある。

人は、人として、法律上も、取り扱わなくては、ならない。


対して、


動物ペット等は、物として取り扱う。

その分、法律的にも、取り扱い易い。

飼い主の思いは、別として。


後は、


記憶の問題だけ、だろう。

ペットは、記憶を失っている。

それは、確実。


が、多分、本人ならぬ本動物達は、それを、認識していない。

ペットが記憶を失くして困るのは、その飼い主達。

謂わば、本人達が、全く関わらないところで、問題が発生する。



アンキ2号が、帰って来る。

気象センターに、帰って来る。


ペットを、返してもらいに、受け取りに来たのは、ブノワ一人。

それも、ありなん。


今回の運行は、あくまでテスト。

動物に、稲妻増幅が担えるか、テストするもの。


飼い犬は、スパンクのみ。

いや、犬以外であっても、ペットは、スパンクのみ。

後は、殺処分を待つだけ等、飼い主のいない動物だった。


 ・・ ・・

 ・・ ・・ ガチャ


待ち合い室のドアが、開かれる。


気象センターの職員に抱き抱えられ、スパンクが、入って来る。

スパンクに向かって、ベノワは、手を腕を、広げる。


スパンクは、驚いた眼をして、職員に、身体をすり寄せる。

すり寄せて、そっと、覗き見する。

ベノワを、そっと、覗き見する。


これは、キツい。


ベノワは、一瞬にして、フリーズする。


なにくそ


ベノワは、気を取り直して、スパンクに、微笑みかける。

スパンクの眼が、丸くなる。


間を置いて、スパンクの眼が、緩む。

緩んで、微笑みに、なる。


職員は、促す。

抱き抱えた腕を伸ばし、スパンクがブノワの元に戻る様、促す。


スパンクが、おずおずと、動き出す。

おずおずと、身体に、力を溜める。


それは、一瞬、だった。


スパンクは、溜めた力を、一時に、解放する。

スパンクは、飛ぶ、滑空する。


スパンクはブノワの手の中に腕の中に、収まる。

ブノワとスパンクの眼が、合う。


「おかえり、スパンク」


ブノワが、しみじみ、呟く。



「成功」

「成功なんか」

「事後経過も良好」

「むっちゃ、ええやん」


ジャイとヨナスは、テスト結果を、確認する。

結果は良好、経緯も事後経過も良好。


「多分、今後は」

「うん」

「稲妻増幅要員に、動物が活用されるやろな」

「そやろな」


ヨナスの展望に、ジャイは、賛意を、示す。


「何より、ええのは ・・ 」

「ええのは?」


ヨナスの溜めに、ジャイは、問う。


「記憶、のことやな」

「記憶?」

「人間が、記憶失ったら」

「失ったら」

「まる分かり、やん」

「そら、そやな」

「対して、動物とかペットが、記憶失っても」

「失っても」

「外からは、分からへんやん」

「そら、そやな」

「飼い主とか、外見から様子見て、想定判断するしかないやん」

「そうなるわな」

「でも、ペットとか本能的に、餌くれる人に懐くから」

「懐くから」

「記憶失くしてても、飼い主に、可愛い顔や仕草、向けるやん」

「向けるな」

「『ホンマに、記憶、失っているのか?』って、

 飼い主の想定判断、心許なくなるやん」

「そやな」

「だから」

「だから」

「不満とかクレームの矛先、こっちに、来にくくなるやん」

「なるほど」


その通り、だ。

ヨナスの言う通り、だ。


稲妻増幅要員に、動物を用いることは、いいことずくめ、だ。

メリットが、大きい。


「ただ ・・ 」

「ただ ・・ ?」

「一点、デメリットと云うか、気になるとこが ・・ 」

「何や?」


口籠るヨナスを、ジャイは、促す。


「稲妻増幅の成績やけど」

「うん」

「人間と一緒で」

「うん」

「記憶を持っているであろう方が、むっちゃええねん」

「それって、つまり ・・ 」

「うん。

 ペットとして、飼い主に可愛がられているであろう方が、

 適していることになる」

「わちゃー」


ジャイは、額に、手を遣る。

手を元に戻し、続ける。


「それ」

「うん」

「飼い主連とか動物愛護協会とか、とやかく言って来そうやん」

「そやな」

「倫理的にも、何か言われそうやん」

「そやな」

「大概デカい問題、やん」

「そう、思う」


ヨナスは、キッパリ、肯定する。


「と云うことは」

「うん」

「人間の代わりに、動物使うことは」

「うん」

「課題山積、ってことか?」

「そうなるな」


マジかー


ジャイは、顔を曇らす。


「だが」

「だが」

「一発で、課題を解消する手が、ある」


ヨナスは、ドヤ顔で、宣言する。


「そんなん、あるんか?」

「ある」

「何や、それ?」

「人間と同じで」

「うん」

「法律で定めて」

「うん」

「半強制的に、動員したらええねん」

「やっぱ、それしかないか」


薄々は、ジャイも、思い至っていた。

ジャイは、思い付くまま、続ける。


「と云うことは」

「うん」

「法案提出の、国会審議になる、ってことか?」

「そやろな」

「与党と野党とその他ロビー団体との交渉になる、ってことか?」

「そやろな」

「まだ、何年も、掛かりそうやな」

「そうでもないやろ」


ヨナスは、あっさり、返答する。

返答して、続ける。


「与党も野党もロビー団体も、

 『稲妻増幅要員に、人間に変わって動物を使う』方向性は一緒やから、

 落とし処を探って、案外すんなり、合意するんとちゃうか」

「そんなもんかね」


そんなもん、だった。


数ヶ月後、成立した。

『稲妻増幅要員に、今後、動物ペットを動員する』法案は、成立する。


徐々に、動物の割合を多くして、数年後(遅くとも、約十年後)、全て動物に切り替える予定だ。

相変わらず、一般庶民の生活や心情は、考慮されない。



ブノワは、目覚める。

朝の光りが、窓から、差し込む。


トイレに行き、うがいを、する。

戸外に、出る。

そして、朝一番に、挨拶する。


「おはよう、スパンク」


ワン!


今日の朝日は、眼に沁みる。


{case 10 終}


{了}

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