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ミッション8

 私は湊が行きたいとする場所に言われるがまま導いた。


 各部屋を回って情報収集をするらしい。山崎さんが居たであろう社会科研究室にももちろん行くことになった。

 この部屋は山崎さんが隠密を行うにあたって敵側に情報が漏れないように全ての電波の漏洩が阻止されているらしく隠しカメラはもちろん、私から湊への声も届かなくなっている。


『じゃあ桜、中調べてくるからお前は俺から指示があるまで待機してろ。いいか、余計なことはするなよ』


「うん、気を付けてね」


 湊があの重たいドアを開ける音を最後に、私のイヤホンからは雑音しか聞こえなくなってしまった。


「フゥー」と息を吐き出すと肩の力がドッと抜ける。

 まだ気を抜ける状況じゃないけれど、自分の役目にいったん区切りがついたことにホッとし、またいつ連絡がきてもすぐに答えられるように監視カメラの巡廻を始めることにした。


 マウスを使ってカチカチとモニターをクリックしていけばこの学校の様子がほとんどわかる。もちろん屋上やトイレなど見えない場所もあるが大して困るわけでもない。


 敵の人数は今わかっている時点では1学年8クラスが3つあるので24人と、その他職員室や廊下の見廻りなどを入れて30人。

 教室に居る奴らが出てくる様子は今のところないので3,4人が学校を徘徊していることとなる。

 そう考えると監視カメラを持っているこちらが見つかるなんてことはそうそう無いのだ。


 順調に物事が進んでいることに安心していた私は、急な出来事への判断が鈍くなっていた。


 突然、目の前のモニターに敵の服装ではない人が現れた。

 この化学室の前をフラフラしながら歩いているその人を括目すると、それは紛れもない久坂先生であった。


 何があったのかと思考を巡らせる途中で、画面の中の彼は突然倒れ、床にはじんわりと血が滲んでいった。



「大変!!助けなきゃ!!」


 そう言って化学準備室を飛び出すのにそう時間はかからなかった。

 皆は危険な状況の中にいるのに私だけ安全な所に居るという罪悪感を思い出したからかもしれない。


 急いで化学室のドアを開ければそこにはモニター越しに見たように久坂先生が血を流して倒れていた。

 助けなきゃと思う反面、怖いと思う気持ちも確かにあった。

 おそるおそる肩を叩いて「先生!」と呼べば、うっすらと目を開け「月宮さん?」と反応があった。


「先生!ここは危ないですから早く安全なところに!!」


 私はそう言いつつ先生を担ぎ、先生も残った体力で私に支えられながら化学準備室までなんとか歩いた。


 止血しなければと、ありったけのガーゼを戸棚から引っ張り出し傷口を押さえれば、先生は少し顔を歪め「すまない、大丈夫だ」といってポケットから薬を取り出し服用した。


 何の薬かは分からないが、先ほどよりも顔色もどんどんよくなってきており、出血もおさまり始めた。


「先生、大丈夫ですか!?いったい何があったんですか!」


「あぁ……心配ない。警察に助けを求めに行こうと数学研究室から出た途端に撃たれてしまってね……それより月宮さんこそ……いったいどうして……」


「また後で話します。本当にそんな薬だけで大丈夫なんですか?痛いですよね……何か麻酔作用のある薬剤でもあれば……」


 そう言って私がまた戸棚を漁り始めると、先生は傷口を抑えていたガーゼをおもむろにゴミ箱に投げ入れた。


「大丈夫だ。痛みはもうない。あれは良く効く薬でね……僕の知り合いが発明した世には出回ることのない品さ」


 はっとして後ろに振り向けば、先生は私の真後ろに立ち、妖美に微笑んでいた。


「ちなみに……知ってる?今君が手に持ってるクロロホルムってよくドラマやアニメで睡眠薬として使われることがあるけどさ、ほらっハンカチに染み込ませて口を覆うっていうやつ。実際あれって、あんな短時間で効果がでないし、眠るどころの騒ぎじゃないんだよね。だからさ……」


 何故そんな話をするのか……私は肩をすくめて先生の口が動くのをずっと見つめていた。

 怖い。ギラギラとした目が私を見下ろしてくる……


「僕はいつもこれを使うんだ」


 その言葉を聞いてから私の意識が飛ぶまではすぐのことだった。

 いきなりかけられたスプレーはいとも容易く私を深い眠りへと誘った。



 ****湊side****


 ドアをあけると桜との通信はすぐに途切れた。

 電波妨害を抜け目なく行なっていた山崎はさすが隠密のプロである。

 でも、今はそいつのせいでこのように事態が混乱しているのも否めない事実だ。


 いつも懐に入れている22口径の小型ピストルを取り出し、体制を整えた。

 散らかった部屋は隠れる場所が多く侵入しやすいが、前に進む際の音や、相手が隠れている可能性を考えると今までの教室の中で一番緊張を促す場所だ。

 そろりそろりと本棚にそって奥へと入っていく。

 すると、ガサゴソと、何かが床をこする音が聞こえた。

 深呼吸をするのも躊躇う空気の重さだ。俺は小さく息を吸い込み、勢い良く飛び出して音の原因に向かってピストルを突きつけた。



 だが、突きつけた場所に敵の緑服がいたわけでも、風で本がめくれていたわけでもなかった。


「山崎!?」


 手足を縛られ口を塞がれた山崎が床に転がり、俺の姿をを見た途端に安心したかのようにまたガサゴソと動き出し、フガフガと何かを言い始めた。


 俺は山崎に近づくと、その口を被っていたガムテームを勢い良くはがしてやった。

 もちろん痛がったがそんなことはどうでもいい。


「おい。てめェ何してんだ」


「沖田さん……!!よかった助けに……ぶべらッ」


 とりあえず失態を犯してここまでめんどくさいことにしてくれた山崎を一発殴っておいた。


「携帯とられてんじゃねーよ。つーか何があった」


 緊張がとけて大分めんどくさくなってきた俺は山崎の両手足の拘束を解きながら聞いた。


「ッアイツです!久坂です!!やっぱりアイツが主犯格でした!!桜ちゃんを探してるみたいで……!俺らが探していたものも……」


 俺は山崎が全部言葉を言い切る前に部屋を飛び出してマイクに向かって問いかけた。


「おい!桜!おい!無事か?!桜!!」


 電波のつながったはずのイヤホンからは何も聞こえてこない。ただ雑音が今まで以上にひどく、それなのに学校の中からすべての音が消えたような感覚に陥った。


 **********

 頭がクラクラする。体の機能がうまく働かないようで、呼吸をすることさえも体は怠惰なようだ。それでも状況を把握しようとフル活動する頭は、今の自分の立場をよく心得ているらしい。重たい瞼を持ち上げると、地面に反射した光が眩しく眉間にしわがよる。


「気がついたかい?」


 頭の上から発せられた声は意識を失う前に聞いた声の主と同期した。

 睨みつけるように見上げれば久坂は眼鏡をクイと上げてお手上げのポーズをした。


「そんな怖い顔して睨まないでくれよ。これしか君を連れてくる方法が無かったんだから。まぁ、あの時撃たれてた傷は本当だからさ。催眠スプレーと銃弾喰らうのとだと完璧に俺のが痛いよね。まだ仲間が他にいたなんてね~。俺も調べが足りなかったよ。ねぇ、いったい全員で何人いるの?ねぇ、桜ちゃん。……ってか、あれ?俺って一人称俺であってた?僕って言ってたっけ?ハハッ時々わかんなくなるんだよね。沖田くんとかどうなの?やっぱりスパイとして潜り込むとキャラ変わったりするの?」


 馬鹿にしたように名前を呼ぶこともだが、やけに饒舌なのが気に食わなかった。

 わからない。今私の目の前にいる男は何者なんだ。久坂という男が私の知っている彼とはまったく違う人物のように感じた。


「まぁ、どうでもいいけど。とりあえずあの子達がここにくるまでお話でもしてようよ。一人だった時ものすごく暇でさ~」


 少し顔をあげて周りを窺えば、おそらくここは屋上なのだということがわかった。

 コンクリートの地面に高いフェンス。太陽は雲に隠れているが初夏の温度を肌で感じる。


 視線をもう一度久坂に戻し、私は乾いた喉をゴクンと鳴らせ、勇気を振り絞り声を発した。


「……いったい、何者なの……あなたの目的は何なの……」


 起き上がりたがらない体を無理やり起こした。立つことはできないが少しだけ彼の顔が近くなる。


「俺のことを説明する前に君のお父さんのことを説明する必要があるんだな~」


「お父さん……?」


 何故ここでお父さんの話が出てくるのか。お父さんがこいつと何の関係があるというのだ。そんな疑問を抱えつつも、興味があった。知りたい。私の知らないことをこいつは知っている。


「実は君も沖田くんと一緒でスパイ一家の家系なんだよ。まぁ、詳しくは組織の開発部門だけどね。さっき俺が飲んだ薬も君のお父さんが開発したものさ。いやー本当に皆が認める優秀な人だったね」


 何を言っているのかわからない。

 そんなわけがない。我が家はどこにでもありふれた普通の家庭で、どこにでもありふれた優しくも厳しい普通の父だった。


「そして、そんな君のお父さんが死んだ理由。君は知っているかい?」


 久坂は私と目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。

 挑発するような口調でもなく、単純に会話をするように質問してきたため、私も興味が勝ち、言葉を返した。


「……事故よ」


「事故って事になってるんだ。ふーん」


 そう言って久坂は立ち上がり、私の周りをゆっくりと歩いた。


「本当はね……殺されたんだよ。君のお父さんは優秀すぎた。国を1つ滅ぼしかねない発明品を作ったせいでね」


「嘘よ。私はアンタの言うことなんて信じない」


「別にどっちでもいいけど、現実を見ろよ。これだけの大騒動なのに警察の一つ動けやしない!はははは!!腐った世の中で最も平和ボケしたこの国だもんな!!はははは!!娘も同様に平和ボケしてすくすく育ってるしよ!!笑うしかねーな!!」


 腹を抱えてケラケラと笑うこの男を見ていられなくなった。彼がいう現実から目を背けるとはこのことなんだろうか。


 もう頭はパンク寸前だ。


「まぁ、そんな顔すんなよ。そんで、俺のことが聞きたいんだろ?そして沖田君達が何をしてたのかも知りたいんだろ?」


 その言葉を聞いた私は確かに動揺した。信じられるはずもないこいつの口から出る言葉だが聞きたかった。


「君のお父さんはその兵器であるチップをどこかに隠した。何故なら組織がそれを巡って真っ二つに別れちまったからだ。いや、真っ二つっていうのも可笑しいな。君のお父さんの味方をするものはほとんどいなかったよ。今君の周りにいる人たち以外は皆その兵器が生み出す利益を優先したんだから。組織を裏切るなんて肝のすわった奴だよ。優秀なのか馬鹿なのか分からない人だった」


 悔しい。こいつの言ってることを信じたくないのに涙が出てくる。こんな話を信じるわけない。それなのに……


「黙れ……もういい……喋らないで」


「あれ?聞きたいんじゃなかったの?全部教えてあげるよ。なんで今さらになって君に矛先が向いたのかもぜーんぶ!!」


 必死に耳をふさいでも、私の中の本能が彼の口から出る言葉を全て聞き取ろうとする。信じようとする。


「その兵器を隠す際に君のお父さんは使用期限を設けたんだ。自分が死んだら使えなくなるようにね。もちろん俺らは期限内にそれを手に入れてしまいたいわけだ。必死の捜索は続いたよ。そして今、優秀と言われた君のお父さんもボロが出た!!」


 狂ったように手を広げケタケタと笑う目の前の彼から思わず後ずさった。

 怖い。知ることが怖い。


「君の体から特殊な金属の反応が出たんだよ!!まさか大事な娘の身体に隠すなんてな!もう半日で君のお父さんが定めた時間がくるが……ハハッ!計画通りだよ!今こうして君は俺の手元にある!!」


 高笑いをする彼に言われるがままは嫌だった。

 強く噛んでいた口を緩めせめてもの言葉を吐き出した。


「でも、あなたが言うことが本当なら私の体の中にあるとかって言うそれも使う前に消えちゃうんじゃないですか?」


「それが残念。こっちも数年あればそれくらいの対処はできる。それさえ手にしてしまえば少々期限を延ばすことなんてわけないんだよ」


 そう言って彼は懐から拳銃を取り出し、その銃口を私に向けた。


「でもまぁ……君が言うように早いほうがいいからね……いくら待ってもあの子達来ないしね。あーぁ、おしゃべりが楽しくってついつい長話しちゃったよ。じゃあ、お父さんによろしくね」


 安全バーを親指で下げた彼の目は冷たく、色を持たなかった。

 あぁ、私死ぬんだ。


 強く目を瞑れば、表面に溜まっていた涙がポロリとこぼれ落ちる。

 その時、強くドアが開く音がし、待ちわびた声が聞こえてきた。


「動くなァ!!!」


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