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第27話 正義の鉄槌(6)

 英二は狭い生徒指導室の中で机一つ挟み、男性の生徒指導教員と向き合っていた。その隣には、バットの代わりに竹刀を持った鬼瓦が仁王立ちし、二人そろって自分を睨んでいる――まさに「尋問」だった。窓が南向きにあり、ちょうど正午なのでかなりまぶしい。カーテンを閉めてくれと言いだせる雰囲気でもなく、英二はずっと目を細めているしかなかった。

 用件はもちろん、昨日の元人のことだった。生徒たちの証言により、あの写真を最初に送ったのが、英二の携帯からだと突き止められたのだった。

「いい加減にしろぉっ!早く正直に、『やった』と言え!」

 鬼瓦が誘導尋問のようなことを言う。

「だからっ、ほんとに俺じゃないって!元人に聞けばわかるって!」

 英二は必死で弁明した。

「あの、変なマスクつけた奴に脅されて、携帯貸せって言われて……。」

 マスクの少年は元人の写真を撮って散々笑い飛ばした後、英二の携帯をもってそのまま校舎の方に走っていった。英二は我に返って後を追ったが、見失ってしまった。

 二人の教員は目を合わせて困惑した。鬼瓦は最初、英二が犯人だと決めつけて怒鳴り散らしていたが、どうも今の話は嘘のようには聞こえない。それに実際、おとといの朝――つまり事件の翌日、英二の携帯は二階の男子トイレに放り出されているところを発見・押収されている。だからこそ、メールの発信源も割れたという訳だ。英二が犯人なら、わざわざそんなところに証拠品を放置するはずがない。


 彼が犯人で無いとするならば……事態はかなり面倒なことになる。


 すなわち、学校全体を挙げての犯人探しだ。


 太陽が雲の隙間を通り抜け、窓に映る三人の姿が光って歪む。英二は一瞬、そこに自分ではなく毓がそこに座っているように見えた。


 ――そういえば、あいつ俺のこと、「毓の『お友達』」って……。


「……で、比嘉。お前は犯人に心当たりはないのか?」

 生徒指導の問いに、英二はピクリと肩を震わせる。

「っ……特に、ないです。」

「……そうか。はぁ…………。」

 生徒指導は頭を抱えた。菅野元人は前からやんちゃ坊主だから、誰かから恨みを買っていたとしてもおかしくない。だが、ここまで一方的にやり返すなど、まともな精神の持ち主とは思えない……そんな生徒の存在が世に知れたら、大騒ぎになる。どうせ、学校と教員の責任が問われるのだろう。


 ――そんなの知らねえっつうの。たまたまキチガイ野郎が一人いただけじゃねえか!生徒の人間関係とか性格まで全部管理してられるかよ……!


 それが正直な心境だった。だが、既に警察沙汰になり、地方紙で報道もされてしまっている……もう、穏便には済まない。


 もうこれ以上話すことが無くなってから、ようやく英二は解放された。

 部屋から出る直前、ふと、足を止める――部屋の中に、もう一人誰かがいる気がしたからだ。


 ――気のせいか。


 英二が扉を閉めた直後、鬼瓦はまた怒鳴り始めた。

「……よし、よぉくわかったっ!犯人は我々教師をなめ腐ってるんだ!このまま勝ったと思い上がらせてちゃいけません!必ず捕まえて謝罪させ、相応の罰をくれてやる!」

「……ええ、それはもちろんですけど、どうやって突き止めるかが問題で……。」

「集会を開きましょう!全体でも学年でも!犯人に名乗り出るように、あるいは怪しい奴がいたら報告するように、全生徒に言い聞かせるんです!」

「……それで出てきてくれますかね。むしろビビって引っ込んじゃう気がするんですけど……。」

「こちらの恐ろしさをわからせれば、降参するに決まってます!向こうが折れるまで繰り返せばいいんです!徹底的に追い詰めるんですよ!」

 鬼瓦は竹刀で床をつつきながら息巻く。


 ――だめだ。この人、こういう思考しかできないんだ。


 教員は殺気立った鬼瓦に言い返すこともできず、「ええ、おっしゃる通りですね。」と言いながらも、内心ではほとんど諦めていた。……実際のところ、犯人はビビることすらないかもしれない。なにせ、ここまでのことを堂々としでかした奴なのだから。


 彼が今、願うことはただ一つ。


 ――どうか、クビにはなりませんように……。

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