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ライルズの街

準備を終えて戻ってきたミリアーナとアレギスとともに、城から出る。アレギスが一緒に行くことに一瞬表情が無くなったものの、なにやら話し合うとすぐさま笑顔に変わり了承してくれた。私には聞こえなかったが、2人にも何かしら譲れないものがあるのだろう。そこは2人で都度落とし所を見つけてもらおう。


そんなこんなもあったが今私はライルズの街の一番大きな通りの直前にいる。城の出入り口からまっすぐ引かれた道は広く、荷車ぐらいならすれ違える広さだ。基本的にこの大通りがメインストリートとなり、果物や肉などナマモノから仕事に使われる小道具まで幅広い店が揃っているらしい。

らしいというのも、10年前はそこまで店が多くなかったからだ。今は人がすれ違い多くの笑顔が溢れ荷車が通るときは注意を促さないと行けないくらいになっている。このメインストリートが大賑わいになっているのが不思議なくらいだった。


「ずいぶんと賑やかだな。」

「この時間帯はどうしても混んでしまいます。荷車で荷物が運ばれてすぐですから。」

「もうすぐ昼時だが、この時間に運び終わるのか?」

「はい。朝早くから動いても、終わるのはどうしてもこの時間になってしまうようです。ですが朝は皆やることが多いですから、この時間からの開店が逆に好評のようでして。」


街のヒトの生活が垣間見れる話を聞きながら、忙しく行き交うヒトビトを眺める。忙しそうにしているものの、誰の表情も明るく輝いている。


「殆どの者がやりたい仕事をできています。たまに喧嘩なども起きますが、命のやり取りが発生するような争いは起きません。皆この街をもっと豊かにできたらと働いておりますから。」

「そうか。自発的に動けるのは良いことだな。」


はじめは街に畑や家畜を育ててそれぞれ自分たちの食べ物を確保させるだけだったが、ここまで自分たちで街を大きくしているならそれは素晴らしいことだろう。


街を観察しながら歩いていると、周囲からチラチラと見られている。声を掛けてくるわけではないので頬っておくが、目立ってしまっては迷惑になるか。だがミリアーナは侍従の服を着ていて目立つし、アレギスもキラキラ輝く金髪は目を引くだろう。

私がどうしようかと思案していると、ミリアーナが笑顔で話し出す。


「周囲のことはお気になさらないでください。お嬢様を直接見られて、感動しているのです。」

「感動するほどの者じゃないが…。」


確かにチラチラと感じる視線は嫌悪感や敵意は感じない。だが私を見た後に頬を染めたり顔を隠したり、派手なヒトはうずくまったり頭を壁にぶつけだしたりしている。私から見れば凶行にしか見えないようなものもあるがミリアーナは予想してたようだ。アレギスは特にヒトには興味がないのか売られている物を観察している。

気になるが、無視するしかないだろう。突き刺さる視線から目をそらし、アレギスが観察している物を見る。そこには赤い果実が並べられている。


「アレギス、食べてみるか?」

「…はんぶんこしてもいいですか」

「ん?1つそのまま食べていいが…。」

「いえ、ますたーとはんぶんこがいいんです!」

「そうか、じゃあ半分にしよう。」


赤い果実をもらおうと店主を探そうとアレギスから目を離すと、ミリアーナがお待ち下さい、と離れていく。どうやら買ってきてくれるようだ。店主だろうヒトに話しかけている姿が見える。

ミリアーナに甘えて私はここで待つとしよう。目立って邪魔になっても悪い。待っている間、周りを見ていると行列ができている店があることに気がついた。


「アレギス、あの店は何の店か知っているか?」

「あれはスープ麺のお店です。ヘイグが、濃い味噌の味と麺が絡まって美味しいって何度も言ってました。」

「…味噌、か。」


前の世界で、大陸の端にあった島国に独特の文化があり、そこではその島国にしかない色々な調味料や料理があった。好き嫌いの分かれる物が多かったが、その中でも味噌や醤油に感動して研究していた男がいたなぁ。

そうか、10年経てば料理も進化しているのか。


「…今度行ってみるとしようか。」

「僕も、一緒に行っていいですか!」

「ふふ、これははんぶんこできないかもだぞ?」

「消化を早くしておきます!」


小さい胃袋に一度に入る量は限られているが、消化を早くすれば問題ないらしい。一体どんな消化液を体内に作り出すつもりなのかわからないが、少し面白いな。


溢れる笑いを噛み殺し、他にも目を向ける。兵士が見回りをしていたり、服屋で新しい服を買ったのか笑顔で親に礼を言う子供がいる。真っ赤な顔で手を繋いぐ男女がいれば、老齢の夫婦がカフェでケーキを食べる姿もある。

本当に色々変わったようだ。そんなことを思っていると、ミリアーナが足早に戻ってきた。


「お嬢様、おまたせしました。」

「時間がかかっていたようだが、なにかあったか?」

「店主がお嬢様がお食べになるということで、一番いいものをと探していただきました。」


そういってミリアーナから赤い果実を受け取る。つやつやと輝き、傷一つない見た目はたしかに良いものだろう。どうやら気を使わせてしまったようだ。

風魔法で果実を半分に切り、アレギスに渡す。にこにこと受け取り、かぶりついたアレギスは満足そうだ。

私も一口かじると、そのみずみずしさと甘さに驚く。切り口やかじったところから果実の汁が滴り、手を濡らすほどだ。その甘さも昔食べた果物と比べ物にならないぐらいだ。


「ずいぶんと甘いな!皮ごと食べているが、苦さなどもない。」

「作り手が聞けば喜びましょう。このライルズの中でも美味しい果実の1つでリーガといいます。他にも美味しい物がいくつもありますので今度お持ちいたしましね。」

「助かる。リーガか、それにしても美味しいな…。」


私もアレギスもあっという間に食べ終わり、また歩き出す。同じように美味しそうなものがあれば手を出し、気になるものがあればミリアーナとアレギスに尋ねる。

下降門を目指しながら、街を楽しむのだった。

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