09.妖刀の呪いを解いて、新たな聖剣を作ってしまう
洪水の被害を受けたデッドエンド村を、俺の生産スキルで直した。
村長の家にて。
「ありがとうございますじゃ、旅のお方。これで村の老人たちも平和に暮らせますじゃ」
「そりゃあよかった」
作った物を、喜んで使ってもらえるのが一番だからなあ。
「村を救ってくださった御礼をしたく思うのじゃが」
「いやいや、御礼なんてそんな。たいしたことしてねーし」
「未曾有の水害の危機から我らを救ってくださったのに。まったく謙虚なお方じゃのう! さすが黄金の手の持ち主ですじゃ」
なんだか気恥ずかしいなぁ。
一方で村長、アーサーじーさんは申し訳なさそうな顔をする。
「恩人に何も返せないのは大変忍びない。なにか、望む物はございませぬか?」
「うーん……望む物……あ、そうだ。なにか変わった武器とか、道具とかってないですかね?」
辺境の村だ。
なにか掘り出し物とかないだろうか。
「俺は神器を生み出すのを目的に旅してまして。そのインスピレーションとなるものを探してるんです」
「なるほど……でしたら、1つ良い物がございます」
そういってじーさんは村を出て近くの森までやってきた。
森にはほこらがあり、そこから下へ続く階段が伸びている。
「このほこらには、1本の妖刀が封印されているのですじゃ」
「ほぅ! 妖刀ですか!」
呪われた剣ってやつだな!
珍しい武器……いいね。神器作りの参考になるかも!
「どうして妖刀がここに封印されているのですか?」
獣人ポロが前を歩く村長に尋ねる。
「かつて、ひとりの英雄と、ひとりの邪神がおりました。その邪神を倒すべく、刀の神様は1振りの妖刀を英雄に託したのです」
邪神を倒すことには成功したが、妖刀の持ち主は暴走してしまったそうだ。
持ち主の死後、妖刀の扱いには大変困った。
「持つ者すべてが狂化、つまり理性を失い戦闘マシーンとなってしまうのです。そこで我らのご先祖様はこの妖刀をほこらに封印した、というわけですじゃ」
「そんな危険な物……刀の神さまはどうして授けたのでしょうね?」
「さあのう……それくらいの力がないと、倒せない相手だったのじゃろう、邪神は」
今の時代と違って、聖剣がなかったのかな。
ややあって、俺たちはほこらの奥へと到達した。
そこには1本の刀が、神棚の上にまつられていた。
鎖でぐるぐる巻きになっており、呪符が貼られている。
「これかぁ……!」
なんとも味わい深い見た目をしている。
普通の剣じゃあないな。
そこにあるだけで、空気が凄いピリピリしている。
「気をつけなされ、ヴィル殿。村の老人たちでも、近づくだけで生命を吸われて……あ、ま、まちなされ!」
俺は早く手に取ってみたくて、妖刀のそばまでやってきた。
おお、紫色でカッコいい。
「信じられぬ……ヴィル殿。平気なのか、そこにいて?」
「ああ。ふたりは?」
アーサーじーさんは辛そうにしてる。
ポロもその場に、膝をついていた。
「ヴィル様は平気なのですか?」
「ああ。ぜんぜん」
「すごいです……ヴィル様! うぅ……」「辛いならあんま無理しない方がいいぞ。なんだったらじーさんと二人で外で待ってなさい」
しかしじーさんもポロも首を横に振る。
「何かあったら大変じゃ」
「そうです! 外に居たのではお守りできません!」
俺のために、辛いのに待っててくれてるってことか。
うれしいなぁ。
「じゃ、手早く検めさせてもらいますかね」
「うむ……しかしヴィル殿よ。その妖刀は、その当時とても力を持った魔女様が施した封印がなされております」
「魔女の封印か」
「はい。魔女神と呼ばれるおかたで、そのお方が絶対に壊れない封印の魔法をかけてくださったのです」
たいそうなひとが、魔法を使って妖刀を封じたらしい。
まあそうか。下手に触って暴走し、人死にが出ても困るもんな。
「まあ大丈夫だよ」
俺は神鎚ミョルニルを取り出して、俺の手と接続する。
この神器は俺の力を引き出す触媒だ。
俺の持つ生産スキルの一つ、【万物破壊】。
「万物破壊……レベル1。分解」
こつん、と俺はハンマーで妖刀の鎖を叩く。
パキィン……!
「なっ!? なんと! 絶対に壊れぬとされた封印を、破壊なされた!?」
「すごいです! さすがヴィル様です!」
さて封印を解いて妖刀を引き抜いてみる。
「おお、かなりさびてるなぁ」
刃がさびまみれだった。
長く封印されていたんだもんな。
そりゃ、こうなっちまうか。
付着した血をそのままにしてたのかな
「きょ、狂化されないのですか、ヴィル様?」
「ああ、たぶん、劣化しちまってるからだろうな。力が弱まってんだろう」
しかし……検めてみると……。
「かわいそうに、苦しかったろう」
刃がこんな、さびまみれじゃな。
『…………、………………テ』
ふと、刃から声が聞こえた気がした。
……いつも道具をメンテするとき、俺は道具の状態を確認する。
比喩表現として、俺は道具の声を聞くと言う。
本当に道具がしゃべるわけじゃない。
道具の気持ちになって、考えると言う意味合いだ。
しかし……今、この妖刀からはハッキリと声が聞こえた気がした。
『……ケテ。……タス、ケテ』
……どうやら妖刀の声のようだ。
助けて、か。
触れた物を狂化すると畏れられ、誰からも構ってもらえず、こんな地下に封印された状態で放置されたんだ。
しかも、こんなボロボロになるまで、誰もメンテしてくれなかったんだ。
かわいそうに。
『……コワ、シテ。モウ……ラクニ、シテ』
「バカ言うんじゃあない。俺は鍛冶師だ。道具を直すのが、俺の仕事だよ」
仕事じゃ無かったとしても、こんなボロボロの状態の子を、ほっとけるかってんだ。
俺は道具を使った人にも笑っててほしいけど、道具にも、幸せな一生を終えてもらいたい。
「待ってろ、すぐに楽にしてやる」
俺は神鎚ミョルニルを手に持って、振り下ろす。
「【全修復】」
かつんっ! とハンマーがぶつかると同時に、さびが取れる。
封印される前の妖刀に戻る。
だが……。
ごぉおおおおお! と俺の中に何かおぞましい力が逆入してくる。
「い、いかん! 妖刀にかかった呪いじゃ! すぐに手を離されよ!」
なるほど、確かに意識が持ってかれそうになる。
凄い力だ。
でも……悪趣味な力だ。
俺は手で触れただけで、その武器のステータスがわかるのだ。
ナンデと言われても、わかるとしか答えられない。
黄金の手のスキルとは、また別の物らしい。
「……わざと、改悪してやがる」
この妖刀を作った刀の神様とやらは、持ち主が暴走するような呪いをわざとかけてやがった。
なんてことしやがるんだ。
「待ってろ……俺がおまえを、完成させてやる!」
俺は超錬成の技術を使って、この妖刀を、完璧な形に作り直す!
かつーん!
すると……。
刀から逆入していた力の奔流が止まった。
体への負担がゼロになる。
妖刀は黒く、しかし強く輝きだした。
そして……俺の目の前には、夜空のように美しい刀身を持った、綺麗な剣ができていた。
「うん。良い感じだ」
さびさびのボロボロ刀から一転して、とても美しい剣へと改造されたのだ。
『礼を言うぞ、天才職人よ』
そのとき俺の脳裏に女性の声が響いてきた。
「おお、声がクリアに聞こえる。これが君の声か」
『うむ。信じられぬことじゃが、我は妖刀から、聖剣に生まれ変わったようじゃ』
「え? 聖剣だって……」
ぱぁ……! と聖剣が光り輝く。
すると剣自体が変化して、ひとりの、美しい女性へとなったのだ。
「お初にお目にかかる、天才職人殿……いや、わが創造主殿よ」
極東のキモノってやつを身につけた、スタイル抜群の姉ちゃんが、俺の前にひざまづく。
「我はこの【闇の聖剣】の剣精じゃ」
「お、おう……って、聖剣って……たしか人間で作ったやついなかったんじゃ?」
すると背後で、アーサーじーさんが仰天している。
「すごいぞヴィル殿! おぬしの言うとおり、聖剣は神の使徒が地上に降りた際に持ち込まれた武器! いまだ、人間で作り上げたものはおらん!」
先代の八宝斎、ガンコジーさんも聖剣を作ることはできなかった、と悔しがっていた。
ということは……。
「え、じゃあ聖剣を作り出せた事例って、人類初?」
「そうですよ! すごい! すごいですヴィル様!」
なんとも、まあ……。
そっか。俺が初めてか。
まあでも、ゼロから作ったわけじゃない。
誰かが完成間際のまま、放置してたものを、完成させただけだから。
あまり凄い物作ったって達成感はない。けど……。
「今は、苦しくないかい?」
きょとん、と闇の剣精が驚いた表情をしていた。
だが、実にうれしそうに笑う。
「ああ。とても心地よい気分じゃ」
「そっか。じゃあ、それでいいや」
凄いこと成し遂げた感はないけど、この子を笑顔にすることができた。
それだけで、ああ、良い仕事したなぁって、そう思ったのだった。