07.スキルで獣人を美少女に進化させてた(無自覚)
俺、ヴィル・クラフトは転移結晶を使って、もともと住んでいた王都から別の場所へと転移した。
森の中で大けがを負っていた狼獣人の少女、ポロを治す。
夜も遅いということで、俺は家をちょいと建てて、野営することにした。
「わぁ! すごいよヴィルお兄ちゃん! このおうち、とっても素敵! それにすごい!」
ポロが俺の建てた家を見て感想を述べてくれる。
「おうちのなか、すっごく温かいの! それに、このふわふわの椅子、すごい!」
ここは木から作ったただのログハウスだ。
しかしちょいと【しかけ】がされている。
「家の壁に断熱の魔法が付与されてるんだ」
「ふよ?」
「そう。俺の物作りスキルの一つ。【付与】」
作ったものに魔法的効果やスキルを付与する、ものづくりスキルだ。
断熱を付与した材質で家を作ったので、家のなかがあったかいわけだ。
「このふわふわは?」
「それはソファ。俺が前に作ったやつを、■から取り出したのさ」
「ふわふわでとってもきもちいー! すごーい! やわらかーい!」
ふふ。やっぱりいいなぁ。
作ったもので、誰かが笑顔になってくれるってのは。
「風呂入るか。汚れてるし」
「おふろ? おふろなんてあるの?」
「おうよ。当たり前だろ。家なんだから」
「な、ないよ。おふろ。あたしの住んでたとこ……」
そうなのか。
王都だと風呂付物件って当たり前にあるけど。
いや、でもそうだな。
王都の外だとこんなもんかもな。
「おいで。お風呂も作っといたから」
俺はポロと一緒に風呂場へ行く。
浴槽とシャワー完備だ。
「この蛇口をひねると熱いお湯がでるぞ」
シャワーの蛇口をひねってみせると、しゃあああ……とちょうどいい温度のお湯が出てくる。
それを見てポロがきょとんとしていた。
「お、お兄ちゃん……この家って、さっきの木から、一瞬で作ったんだよね?」
「ああ、そうだな」
「シャワーつき、ゆぶねつきの、手作りのおうちなんて、聞いたことないよ? そもそもどういう原理でお湯が出るの?」
「うーん……どういう原理って言われても……」
なかなか難しい話だ。
俺はポロちゃんに逆質問する。
「ポロちゃんって、腕の動かし方、人に説明できる? 足の動かし方は?」
「ううん、説明って言われても、当たり前すぎて説明できない……あ」
「そう。俺にとっては、手足を動かすのと同じことなんだよ。何かを作ることは」
こういうものを作りたい、と思うと自然と体が最適な動き、力を使ってくれるのだ。
無論全部が全部じゃあないけどね。
考えて作るときもある。
けど、こうしたほうがいいかなって思うと、それだけで自然と、最適な作り方がイメージできる。
それに俺にはこの黄金の手があるから、イメージを形にしてくれる。
「おにいちゃん、すごい!」
きらきらした目をポロちゃんが向けてくる。
「それって、思い描いた理想を、現実のものとして作り出すってことでしょー! すごいよー!」
「そ、そっか……?」
俺に取っちゃ当たり前にできることなんだが……。
商人のシリカルも、あんまほめてくれなかったし。
ああでも、先代の八宝斎ガンコジーさんも、俺の親父もほめてくれてたっけ。
それに、勇者の女の子たちも。
「忘れてたなぁ、俺のこと、ちゃんと褒めてくれるひとがいるって」
最近はずっと、シリカルに飼い殺しみたいな感じだったし、あいつ全然褒めてくれなかったしで、褒められる機会減ってたからな。
あいつ、職人なら1日に9999本のAランク品作って当然みたいなこと、言ってきてたし。
職人ばかにすんじゃねえよ。
職人がAランク作るのだって結構大変らしいんだぞ。
実感ないけども。
この手の恩恵があるから。
「さ、お風呂入りなさい。着替えも置いとくよ。ご飯も作っておくから」
「ほんと? わーい! おにいちゃんありがとー!」
★
■に入っていた食材を、超錬成を使って一瞬で料理に変える。
この錬成の力、すごい便利だよな。
食材さえあれば、ハンマーこつんで一瞬で温かい料理ができるんだから。
「おふろでたよー! おにいちゃん、このお洋服とっても着心地いいね!」
ポロちゃんがきているのは上下のパジャマだ。
俺の手で作った、着心地のいいパジャマ。
「お兄ちゃんおうちだけじゃなくて、お洋服までつくれるんだ!」
「まあな。いちおう、なんでも作れるよ」
人間以外。
「すごい! お兄ちゃん神様みたいー!」
「神様じゃないよ。ただの鍛冶師。ちょいと特別なね」
あんまり自分が特別って自慢するみたいだから言いたくないけど。
でも俺は、天才である祖父、そして、才能がなかった親父、どちらの職人の技も見てきた。
じーさんは、規格外だった。
いろんなすげえ魔道具を次から次へと開発していた。
親父は、じーさんと比べたら、技量で劣っていた気がする。
いつも彼は言っていた。自分は凡人だって。
でも仕事は丁寧だったし、なにより、俺は親父から職人としての思想を学んだ。
天才と凡人。
どちらの職人も見てきている。
ふたりの職人の生きざまが、今の職人としての俺を作ってる気がする。
「さ、おたべなさい」
「うん!」
あったかいグラタンにシチュー、それにやわらかいパン。
ポロは実においしそうに食べていった。
「おいしい! こんなおいしい料理うまれて初めて食べたよ!」
「そうかい、もっと食べな」
じっ、とポロが俺を見つめてきた。
「どうした?」
「……お兄ちゃん、どうして、あたしにこんなにやさしくしてくれるの? 神様だから?」
「神様じゃあないよ。俺はただ、作ったもので、人を笑顔にしたいだけさ」
これは、親父から学んだマインドだ。
先代の八宝斎であるじいさんは、そりゃあもう頑固者だった。
モノづくりに関してとても意識の高いひとだった。
より良いものを作りたいって気持ちが強くて、作った後のことなんて、あんまり考えていなかった。
神のアイテム、神器を作ることこそ至上命題ってな。
「でも、親父は違った。自分が作ったもので、誰かを幸せにしたい。作ったものを使って、誰かの暮らしが楽になってくれたらいいって」
いつだって親父は、使ってくれる誰かのために物を作っていた。
俺は、どっちかといえば親父の考え方のほうが好きだと思ってる。
もちろん神器つくりは成し遂げたいよ?
でも、ものづくり、職人としてのマインドは、親父のものを持ち続けたいと思ってる。
「って、ちょっと臭かったかな?」
「ううん! とってもすてき! すっごい素敵な考え方! 誰かを笑顔にするための道具作り、すっごい素敵だよ!」
子供だからか、持ってる語彙が少ないのだろう。
でも精いっぱい褒めてくれる。それがとてもうれしかった。
「あんがとな。だから俺は、神様じゃあないよ。俺は職人さ。ただちょいと特別な手を持ってるだけのね」
★
その後ポロはふかふかベッドで眠った。
よっぽど疲れてたんだろう、横になった瞬間眠っていた。
そして、翌日。
「ポロ、朝だぞー……って、え、えええ!?」
ベッドの上には、ものすごく美しい女性が眠っていた。
身に着けているのは、ぴっちぴちのパジャマ。
身長は160くらいか。
背は結構高めだ。
長くつややかな、青い髪。
そして目を引くのは、その大きな胸だ。
なんつーでかさだ。
それに顔も、めちゃくちゃ整ってる。
どこの美少女ですか……?
「ふぁぁ~……おふぁよぉ~……ヴィルお兄ちゃん」
「え? まさか……ぽ、ポロ?」
ぱちくり、とポロがまばたきする。
「なに驚いてるの?」
「いやおまえ、なんか、成長してない? てか美人になってないか?」
ポロが自分の体をぺたぺたとさわる。
目を丸くして、そして納得したようにうなずく。
「ポロ、存在進化したみたい」
「そ、存在進化?」
なんだいそれは?
「魔物に見られる現象だよ。大量の魔力を吸収した魔物は、ワンランク上の種族に進化するの」
「ほ、ほぉ……でも、君は獣人じゃない?」
「獣人って魔物の血がまじってるから、同じ理屈が通用するんだよ」
へ、へえ……。
でも、なんでだ?
大量の魔力なんて、いつポロは体に取り込んだんだ?
「ほら、お兄ちゃんの作った料理! あれだよきっと」
「ああ、食材に俺のスキルを適用したから、魔力を帯びてた、ってこと?」
「そう! すごいよお兄ちゃん! ただ料理作っただけで、獣人であるあたしを一回で進化させちゃうなんて! すごい!」
どうやらこれはすごいことらしかった。
うーん、ものづくり以外のことは、よくわからんな……。