65.VS水の勇者
《ヴィルSide》
俺は獣人国ネログーマへとやってきている。
怪我人の治療、避難誘導は、ポロに任せた。
あいつならできる。
光の聖剣を握ってすぐに、使いこなすほど、あいつは勇者としての才能がある。
そんな凄いポロになら、きっと怪我人を全員、瞬く間に治してくれる。
今ちょっと迷いがあるようだけど、大丈夫。
ポロなら大丈夫だ。
きっと立ち直る。
「よし……俺は俺の仕事するぜ」
現状を整理しよう。
水の聖剣の力によって、勇者にして女王ペルシャは、巨大な樹の化け物に変えられている。
巨神兵。
おおきな樹の、魔導人形とでもいえばいいのか。
遠目にはマネキンのように見える。
手には長槍の形をした聖剣、アクア・テールが握られている。
アクア・テールは攻撃、防御、回復、支援と、何でもできるのが強みだ。
雷の聖剣サンダー・ソーンが攻撃特化型だとしたら、万能型とでもいえばいいか。
ゆえに……一人で戦うのは、非常に厳しいものがある。
「でも……俺はやるぜ。まってなペルシャ。直ぐに元通りにしてやるからな」
誰もいない王都を舞台に、俺と巨神兵との戦いが始まる。
『HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』
巨神兵が人間とも思えない咆哮をあげる。
ビリビリ……と空気が鳴動する。
すると地面から無数の、樹の化け物が生えてきた。
トレントだな。
「なら……いけ! 丸鋸マン!」
■から魔導人形を取り出す。
丸鋸のついた巨大な魔導人形がトレントどもをなぎ倒していく。
あっちはアレに任せよう。
俺は肉体改造で体を強化し、飛び上がる。
「HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
アクア・テールが槍先を俺に向ける。
先端に水が集中し、俺めがけて、凄まじい早さの水のビームが発射された。
なるほど、空中の俺を打ち落とすつもりだな。
確かに足場のないここで、避けることは難しいだろう。
しかし、だ。
「せいっ!」
「HOA!?」
俺は、何もない空間を蹴って、方向を変える。
驚いてる巨神兵に向かって特攻し……。
「でりゃ……!」
神鎚ミョルニルで、巨神兵の顔をぶん殴った。
「OOOOOOHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
ずずぅううん……と大きな音を立てて、巨神兵が倒れ伏す。
手から、一瞬だけアクア・テールが離れる。
『ヴィルさーーーーーーーーーーん!』
そのとき上空から、白い竜が舞い降りてくる。
「ロウリィちゃん! なーいすタイミング!」
あの白い竜はロウリィちゃん。
帝国の領地、ディ・ロウリィの守護神様で、俺の仲間のひとりだ。
俺は彼女の背中の上に乗っかる。
さっきまで俺が居た場所に、ものすごい水ビームが通り過ぎていった。
『良かった! やっと入れたっす!』
「呼びかけに参上してくれて、ありがとな」
通信の魔道具を使って、ロウリィちゃんには救援要請を送っていたのだ。
しかし……。
『今獣人国は、雨雲の結界で覆われてたっす。外部からの侵入ができない状態っすね』
なるほど……国を覆うほどの結界が張ってあったのだ。
だから、転移結晶で、目的地にピンポイントでいけなかったのだな。
アクア・テールが勇者の手から離れて、その結界の力が一瞬薄れたそのすきに、ロウリィちゃんが結界ぶち破ってたのである。
『つーか、さっきのなんだったんすか!?』
「さっきのって?」
『ヴィルさん空中で方向転換してなかったすか!?』
「ああ、あれ? 別に難しいことじゃないよ」
巨神兵が起き上がって、また水ビーム撃ってきた。
「そい!」
俺は何もない空中に向かって、神鎚ミョルニルを振る。
すると水ビームが何かにぶつかって、逸れていった。
「濡れてるから一瞬見えるかな?」
『! なんか……空中に、ブロックがあるっす!』
透明な立方体がロウリィちゃんの前に出現してるのだ。
『なんすかあれ! あの凄い水圧のビームを弾き飛ばすなんて!』
「空気だよ」
『空気ぃ!?』
「ああ。正確には、空気を錬成で圧縮して作られた、空気の塊さ」
超錬成はあらゆるものの形を変え、新しいものを作ることができる。
空気を超圧縮して、固めたものを、さっき俺は足場にした。
『なんつーもん作ってるんすか……やばすぎっすよ!』
「そう?」
『そーっすよ! 普通は空気は、加工できないの!!!!!』
まあできるんだが。
それはまあ、俺が黄金の手を持つからんだが。




