57.光の聖剣ルクスのすごさ
ポロは光の聖剣、ルクス、そして獣人姫のラグドールとともに、村へと帰ってきた。
「ちーちー!」
腕の中にすっぽり収まっていた幼女が、ヴィルに向かって、空を飛んでいく。
「おー。ルクスじゃねえか」
「ちーち! ちちー!」
きゃっきゃ、と戯れるルクスとヴィル。
ポロは驚きを禁じ得なかった。
「う゛ぃ、ヴィル様……その子が、ルクスだって、よくわかりましたね」
美しい金髪に、橙色の瞳。
ちょっと尖った耳をしてるが、どう見ても人間だ。
「え、わかるだろ? ルクスだって。なあ?」
「うい!」
……そう言われてもわからない。
しかし職人のヴィルならわかるのだろう。
人間なのか、剣精なのか。
「すごい……やっぱり……ヴィル様は凄い……」
ヴィルはルクスを抱っこしながら尋ねる。
「そうだルクス。ちょっとお手伝いお願いできるか?」
「てつだい? ちち手伝いする!」
「おう、さんきゅー」
ルクスを抱っこした状態で、ヴィルが村へと移動する。
あらかた村は復興の様子を見せている。
村は樹木でできた防壁で囲まれている。 さらに壊れた建物はすっかり元通りだ。
「だがみんなちょっと病気しててな」
「病気……ですか?」
ポロが尋ねると、ヴィルがうなずく。
「どうにもそこらに生えてる植物を食って、食あたりを起こしてるらしくてよ」
ヴィルは全修復といって、壊れたものをたちどころに治すスキルを持っている。
「ヴィル様のスキルで治せるのではありませんか? 確か皇帝のご病気を治していたような」
「そうなんだがいかんせん数が多くてな」
村の集会場へやとやってきた。
老若男女、幅広い層の獣人達がお腹を押さえて、倒れている。
「死ぬほどじゃないけど、痛そうなんだ。治してやりたいがひとりひとりじゃ時間かかる。そこで……」
「るぅの、でばんです!!!!」
るぅ……というのはルクスの一人称なのだろう。
ヴィルがルクスを使えば、食あたりなんて一発で治る。
光の聖剣の効果は、破壊の否定。
あらゆる破壊行為を、そもそも無かったことにできる。
「るぅ、やる! まーまと!」
「え……!?」
ぱぁ……とルクスが輝くと、ポロの手のひらに、ナイフが収まる。
ポロは驚きを隠せなかった。
どうして……自分と?
『まーま!』
「…………」
ポロは聖剣を手に……しかし……。
「ヴィル様……やっぱり、ヴィル様が……」
「いいや、ポロ。おまえがやりなさい」
「でも……」
「剣がおまえを選んだんだ」
ルクスが、ポロを選んだ……?
どうしてだろう……。
わからない。
なぜ気に入られてるのかも。
尻尾がもふもふだからだろうか。
「使い方がわかりません」
「それは俺じゃ無くて、ルクスに聞くんだな」
「光の聖剣に……?」
ヴィルのアドバイスで、ポロはルクスに顔を近づける。
「光の……聖剣さん?」
『のー!』
「え?」
『るぅは、るぅ……!』
どうやら名前で呼んでみて欲しいようだ。
本当に、ただの子供のようだ。
「…………」
剣では無く、ただの子供……いや。
人間……だ。
「……ルゥちゃん」
『うぃ!』
「この人達、治して」
『や!』
拒否られた……?
『なおす! いっしょ!』
「え……?」
『るぅにお願いじゃない、いっしょ!』
……わ、訳がわからない。
何が言いたいのかもさっぱりだ。
『いっしょ! いっしょー!』
「力を合わせてってこと……?」
『そー! いこいこー!』
かたかたかた……とルクスが震える。
一緒……力を合わせるとはどうすればいいんだろう。
ヴィルがポロの肩に手を置いて、揉んでくる。
「ひゃっ」
「リラックスリラックス。あとはルクスの声に、耳を傾けて」
ヴィルに言われて、ポロはうなずく。
自分は正直まだ、このルクスという聖剣を信じられない。
でもこの剣は、他でもない、凄い職人であるヴィルが作ったのだ。
ルクスを作った、ヴィルを信じる。
『いっくよー! ぜんかーい!』
「え、ちょ……!」
ぐんっ、と体から力が抜ける。
強く、ナイフが輝く。
すると光は、倒れている村人達を包み込んで……。
「おお、すごい!」「お腹が痛いのなおったー!」
あちこちで歓声があがる。
「やるじゃないか、ポロ。成功だ……ってポロ?」
成功を、喜ぶことはできなかった。
今ので力を使い果たしてしまった。
……獣人は、人間より遥かに魔力量が少ない。
ゆえに、ルクスに全ての魔力を吸い取られてしまったのだ。
「ポロ! ポロ!」
ポロは目を閉じる。
ただ、ヴィルの顔に、泥を塗らないですんだことだけが、うれしかった。
 




