47.一章エピローグ
【★おしらせ】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
《セッチンSide》
ヴィル・クラフトの作りし聖なる剣のおかげで、王都での騒動が収束した。
数日後。
ヴィルの弟セッチンは、牢屋の中にいた。
とても静かな心持ちであった。
そこへ、シリカルがやってくる。
「セッチン……あなたって人は……」
「すまない……シリカル……ぼくが愚かだった」
セッチンは鉄格子の前で、シリカルに頭を下げた。
彼女はセッチンのいきなりの謝罪に、目を丸くしていた。
「すべて、ぼくが間違いだった。ぼくは……駄目な男だ。凡人だってことを認められず、周りに迷惑をかけた……大馬鹿野郎だ……」
「セッチン……」
彼は、兄によって目を覚まさせてもらった。
もう彼は自分が、特別では無いことを受け入れていた。
「ごめんね、シリカル。ぼくは……罰を受ける。君とその子供にも、迷惑をかける。ごめん……」
「…………」
シリカルがぎゅっ、と唇をかみしめたあとに叫ぶ。
「今更遅すぎるのよ! ばかっ! ばかっ!」
「シリカル……」
彼女は鉄格子越しに涙を流す。
「どうして! どうしておとなしくしててっていったのに! あんな……あんな馬鹿なことをするの!? 才能がそんなに大事だったの!? 呪いのアイテムなんかに手を出して……!」
「ごめん……本当に……ごめんよ……」
シリカルの罵倒を、素直に受け入れる。
反論できないほど、自分は馬鹿なことをしてしまったのだ。
「たくさんの人を傷つけて、たくさんの物を壊して! ヴィルがいたからなんとかなったものを!」
「ごめん……すまなかった……でも、聞いてくれ。この罪は、ぼくひとりが一人で背負い込むから」
「!?」
セッチンは、言う。
「君とぼくは、まだ正式な婚姻関係に無い。君は……悪い男にだまされていた。君とぼくとは無関係だ。だから……ハッサーンを潰したことも、王都を壊滅に追い込んだことも、王都の人たちを虐殺未遂したことも……全部ぼくひとりの罪だ」
もしも婚姻関係にあったら、シリカルとその娘にまで、被害が及ぶ。
犯罪者の嫁ということで、一生後ろ指指される。
だから、全てを自分ひとりで背負って、彼はひとりで地獄に落ちると決めたのだ。
「セッチン……いや、いやよ! 何言ってるのよ! ばかっ!」
「シリカル……?」
涙を流しながら、シリカルが訴える。
「あなたは! ばか、グズで、どうしようもない愚か者よ!!! けど……」
鉄格子ごしに、シリカルが手を伸ばしてくる。
「それでも……あなたは、家族なの。あの子の父で……私の夫……」
「シリカル……!」
彼女は、セッチンを見捨てない選択をしたのだ。
「たとえ犯罪者の家族って言われて、色々迷惑かかっても、いいの。家族なんだから」
「う、うう、うああああああああああああああああああああ!」
涙を流すセッチン。
だが……。
「ごめん……シリカル……でも、ぼくの罪は重い。多分……死罪だ……。死んじゃうんだよ……?」
「……だとしても、私はあなたの妻でいる」
「……う、うう……」
そこへ……。
「時間だ。出ろ」
騎士がやってきて、セッチンを牢屋から出す。
シリカル、そしてセッチンも、罪を受け入れていた。
夫が死ぬ。
殺さないで……! と何度も国王に嘆願した。
でも……受け入れてもらえなかった。
ふたりは、もう諦めていた。
セッチンの死刑は、もう確定してる。
処刑台へむかう夫を、ただ、見送ることしかできないシリカル。
彼女は……静かに涙を流していた。
……だが。
「セッチン・クラフト。およびその妻シリカル・ハッサーン。両名を、財産全没収のうえ、国外追放処分とする」
「「!?」」
国王から言い渡されたのは、そんな……。
あり得ないほどに、軽い罰であった。
「な、なんで……ですか? あり得ないですよ!」
セッチンは国王に訴える。
「ぼ、ぼくは……人を何人も殺しました! 商会を潰してしまったし、王都を壊滅に追い込んだ! それで……国外追放? そんな……軽くて良いわけがない!」
国王はうなずく。
「その通り。しかし、王都民は結果的に全員無事なうえ、王都も壊れたところは一つも無い」
「! い、いや……確かに……それは……でも……それは……」
国王は告げる。
「英雄に感謝するのだな」
「! ま、まさか……まさか……ヴィル兄が……?」
そうとしか、考えられない。
そうだ。兄が……ヴィル・クラフトが、自分の助命を申し出てくれたのだ。
兄は王都の危機を救った、英雄。
その功績を、そのまま弟の処分を帳消しにするのに、使ったとしたら……?
「あのものは、本当に素晴らしい御仁だ。今回の功績を一切受け取ろうとしなかっった」
「あ、ああ……ああああああああ!」
セッチンも、そしてシリカルも、その場で大泣きする。
「ヴィル……ヴィル兄ぃ……!」
「ヴィル……あなたは、なんて……慈悲深い人なの……!!!」
……そんな最高の職人に、酷いことをしてしまった。
自分たちはなんて愚かなことをしたのだと、心から悔いる。
「う゛ぃ、ヴィル兄はどこに!?」
「そうです、ヴィルは!?」
国王はため息をついて言う。
「もう旅立たれてしまわれた」
「「!?」」
「何も受け取らず、ただおぬしらを許してやってくれと。……本当に、素晴らしい御仁だ。惜しい人材を、失った……はぁ……」
ひらひら、と国王は手を振る。
すると騎士達がやってきて、セッチンらを連れて、部屋から追い出す。
そのまま王都の外へと、放り出されるセッチン、シリカル、そして……その子供。
だが門番に……。
「あー、あんたらちょいと待ちな。このあと来る馬車乗ってけ」
「「は……?」」
門番がため息交じりに言う。
「あんたらが来たら、馬車に乗せてくれってよ、ヴィル・クラフトに頼まれてんだわ」
「「!?」」
……あり得ない。
なんだ、それは……。
兄は……。
兄は……。
「どこまで……慈悲深いんだ……あの人は……!」
「ヴィル……ううう……ヴィルぅうう……ごめんなさい……」
ぽりぽり、門番は頭を搔く。
「あー……その、頭あげな二人とも。伝言預かってるから」
「「伝言……?」」
門番の男が言う。
「【おまえらを助けたのは、おまえらのためじゃない。残された子供のためだ。その子も、いちおうは俺の遠い親戚ってことになるからな】」
「「…………」」
「【子供に感謝するんだな。じゃあな。達者でな】」
……あまりの、心の広さに、ふたりは涙を流す。
子供をぎゅっと抱きしめながら、ふたりはヴィルに感謝、そして謝罪する。
「ごめんよぉ……ヴィル兄……」
「私たち……この子を大切に育てるわ……」
門番の男は……いつの間にか消えていた。
そこへ、馬車がやってくる。
ふたりは馬車に乗り込んで、この国をあとにする。
……その姿を、さっきの門番の男が見送った。
ハンマーを取り出し、こつん、と自分の顔を軽く叩く。
すると、門番だった男の顔が変わって……。
そこには、ヴィル・クラフトがいた。
そう、彼はスキルで顔の作りを変えていたのだ。
「ったく、俺も甘いかな」
「そんなことはありません、ヴィル様」
振り返るとそこには、獣人のポロがたたずんでいた。
「自分に酷いことをした悪人を、自分の手柄を譲ってまで助ける。その尊い心に、感服いたしました」
「いや……別にあいつら助けたわけじゃないよ。ただ……」
「作られたものに、罪は無い……ですか?」
ヴィルはうなずく。
そう、結局のところ、作られたものに罪は無く、それを使う人次第なのだ。
「あんなに酷いことをされたのに、許してあげられる。そんなの、普通ではできません。本当に……あなた様は素晴らしい人ですわ、ヴィル様」
ヴィルは笑って、ポロの肩を叩く。
「さ、行こうぜ。俺の旅は、まだ始まったばかりだ」
「? しかし神器をゼロから作ったから、目的は達成したのでは?」
「まだだよ。まだ神器は未完成だ。それに……創りたいものは、まだまだ、山ほどある」
そう、彼はまだ野望をかなえていない。
まだまだ、旅を続ける。
「わかりました。では、お供させていただきます」
「おう、んじゃま、出発しますか」
「はいっ!」
彼らは新しい土地へ向かって旅立つ。
その先で何が待っているのかは未だわからない。
けれどこれだけは確かである。
伝説の鍛冶師は、これからも、伝説とともに、たくさんの道具を作っていくのだと。
★
《???Side》
「くひっ! ひひひっ! 素晴らしいじゃあねえか……!」
旅立つヴィル達を、遠く離れた場所から見やる人物がいた。
全身に布を巻き付けた男が、王都の時計台の上に立っている。
「やっと見つけたぜぇ! 【器】が!」
強風が吹いて、布が吹き飛んでいく。
そこにいたのは、20歳くらいの美丈夫だ。
長い髪に、美しいかんばせ。
作務衣を来たその人物こそ……。
呪いのアイテムを各地に配って回っている、七福塵。
「ヴィル・クラフト……。ガンコジーの孫があそこまでの器とは思わなかったぜ」
にちゃあ……と邪悪な笑みを浮かべる。
「ヴィル。おまえこそが、おれの願いを叶えてくれる存在。何世紀もこのときを待った。けれどやっと完成する。おれの悲願……八宝斎の完成を!」
……七福塵は実に楽しそうに笑う。
果たして彼はナニモノなのか。
八宝斎の完成とは……?
それが明らかになるのは、まだまだ、先の話である。
【★読者の皆様へ】
これにて一章完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
ヴィルの物語はまだ続きますが、一旦ここで区切らせていただきます。
二章開始は少々お待ちくださいませ。
ここまでで
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「二章も期待!」
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