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43.弟は暴走する



 ヴィル・クラフトの弟、セッチンは、謎の職人、七福塵しちふくじんから呪いを受けた。

 その結果、全身が手で構成された……手の化け物へと変貌したのだった。


「な、なんだあの化け物!?」「きしょくわるい!」「冒険者を呼べ! 騎士団に連絡だ!」


 王都の人たちの悲鳴が飛び交う。

 無理もない、今の彼は身長3メートルの巨体に、体全身から腕が触手のように生えている。


 毛玉の化け物のような見た目をしているのだ。

 そして……。


『おらあああ! 壊れろぉおおおお!』


 腕がうぞうぞと移動し、複数の腕がからみあって、1本の巨大な腕へと変わる。

 ぶん! とセッチンが腕を振るうと、大きな破砕音とともに王都の頑丈な建物が壊されていく。


『はははぁ! すげえや! まるで濡れた紙みたいに、建物をぶっ壊せる! あひゃははは! 壊れろ壊れろぉおお!』


 セッチンは巨大な腕を鞭のように動かしながら、建物を破壊して見せた。

 みな、恐怖し、あるものは逃げ、あるものはけがして動けないでいる。


『これは報いだぁ! ぼくを拒んだのがいけないんだぞおぉ! ぎゃはははは!』


 セッチンは移動しながら、周囲の建物を破壊する。


「いたぞ!」「こいつが例の化け物だな!」

『ああん? 冒険者かぁ?』


 武装した冒険者がセッチンの足元に集まる。その数は10人。

 前のセッチンなら、冒険者の剣を見てびびっていただろう。


 だが今は、全然怖くなかった。


「おら! 裂破斬!」


 冒険者の一人が剣スキルを発動させて、切りかかろうとする。

 だが……どう見ても、通常の縦切りでしかなかった。


 刃がセッチンの腕とぶつかり、乾いた音を立ててくだけちる。


「ば、馬鹿な!? 鉄の剣が、あんなあっさり砕けるんなんて!」


 仲間が怯えながら叫ぶ一方で、技を放った剣士もまた、眼をむいて震えている。


「スキルが、でない! 剣士のスキルが! どうなってんだ!?」


 そのほかの冒険者たちも同様に、自らが所有するスキルで攻撃を試みた。

 だが誰一人としてスキルが発動できないでいる。


『うぎゃははは! ばーか! おまえらのさいのうはなぁ、ぼくがいただいんたんだよぉ!』


 セッチンの発言の意味をだれも理解できない。

 ただ、冒険者たちは、自分たちではこの化け物にはかなわないと、痛感させられた。


 と、そのときである。


「おさがりくださいませ!」


 上空から女が下りてきた。

 その女が持っているのは、とげの付いた鞭である。


 鞭が蛇のように素早く動き、セッチンの腕に巻き付いて、切断された。

 見事な鞭さばきにより、腕が切られて、セッチンは不愉快そうに顔をゆがめる。


 一方で、冒険者や町の人たちの表情は明るくなった。


「みろ! Sランク冒険者のエリアルさんだ!」

「あのSランク冒険者ギルド、天与てんよの原石の、エリアルさんがきてくれたんだ!」


 どうやら今降りてきた女は、相当強い冒険者らしい。

 トップギルドに所属する、Sランク……つまり最高位の冒険者なのだ。


 全身にボンテージ服をまとい、鞭を持った怪しい痴女……もとい、女冒険者である。


「リーフさんと黒銀さんが不在のなか、街を守るのはわたくしの使命! かかってきなさい化け物!」

『は! やってみろ三下がぁ!』


 無数の手を伸ばし、Sランク冒険者エリアルをつかもうとする。

 だが彼女は蝶のように優雅に身をひるがえし、鞭をふるって腕を切断して見せた。


『馬鹿な! スキルは使えないはず! 素の身体能力で戦ってるとでもいうのか!?』

「はぁあああああああああああああああ!」


 裂帛(れっぱく)の気合とともに、エリアルが空中で鞭を振る。

 鋭くしなる鞭が、セッチンの腕をバシバシバシとはじいて、ちぎっていく。


「おお! いける!」「いけるぞ!」「さすがトップギルドのSランク冒険者!」


 セッチンは焦っていた。

 このままやられてたまるものかと。


 自分を否定した、王都のやつらを全員ぶっ潰す。

 そして、才能をひけらかすやつらに、復讐してやるんだ!


 エリアルは腕をはじいて、はじいて、はじきまくる。

 その結果、腕の鎧の隙間から、セッチンの顔がのぞく。


「もらいましたわ!」


 エリアルは空中で身をひるがえして、弱点であるセッチンの顔面目掛けて、鞭を振る。

 先ほどよりも早く鋭く鞭が……。


 届く前に、空中で勢いを失い、地面に堕ちたのだ。


「!? いったいなにが……! !? う、腕が!?」


 そう、Sランク冒険者エリアルの利き腕が、消えていたのである。


「ひゃははは! その腕を食わせてもらったぜぇえ!」


 セッチンは周囲にいる人間のスキルを、奪う力がある。

 しかしそれだけでなく、手で触れた相手の腕を、物理的に奪う力まで備わっているようだ。


 エリアルは右肩から先、つまり右腕が完全に消滅している。

 セッチンの体の一部から、エリアルの腕が生えて、その腕自体が鞭をひろう。


 異常を察して撤退しようとするエリアル。

 強者が、恐れをなして逃げていく。


 その姿に快感を覚えながら、セッチンは鞭をふるった。


「きゃああああ!」

「「「エリアルさん!!!!」」」


 エリアルが放った鞭の一撃を、完全にトレースしていた。

 彼女は自らの鞭の一撃を、自分で受けてしまったのである。


 強烈な一撃を受けたエリアルはその場に崩れ落ちる。

 嗜虐的な笑みを浮かべたセッチンは、何度もエリアルに鞭を打った。


「あ! う! あああああ!」

『ぎゃはははは! どーだぁ! 所詮才能がなきゃ、Sランクもこの程度よぉ!』


 何度も何度も鞭を打たれ、エリアルが全身血だらけになる。


『どうだどうだぁ! ぎゃははは! どうしたぼくを倒してみろぉ! ええ? 才能があるんだろ? ぼくを才能がないって馬鹿にしやがってたやつらだって! 才能がなきゃ無能のぼくに勝てないんだょお! ぎゃーーーーはっはっはぁ!』


 セッチンは大変気分がよかった。

 バカにしてきたやつらを、虫のように蹴散らすことができているからだ。


 すでにエリアルは虫の息で、地面に転がっている。


『やはり才能! 才能こそがこの世に絶対必要なものだったんだ! そうだよ、ぼくはたまたま才能がなかっただけ! 才能っていう武器さえあれば! ぼくだってSランクを圧倒するほどの力を発揮できるんだ! ざまぁみろ天才どもぉ!』


 他者から才能(ぶき)を奪い、才能を得たことで、セッチンは全能感を覚えていた。

 完全に動けなくなったエリアル。


『さぁ見ろおまえらぁ! おまえらが否定した無能さいのうが、おまえらを蹂躙してやるぅうううう!』


 エリアルがやられて完全に恐怖する王都の人たち。

 セッチンは無数に腕を伸ばして家を、そして町の人たちを壊していく。


『ぎゃっははあ! 気分爽快! 物を壊すのってたぁああああのしぃいいいいいいいいいいいいいいいい!』


 がしっ、と誰かがセッチンの腕の一本をつかんだ。


『ああん……?』


 せっかく気分よく破壊していたところを、邪魔されて、とても不愉快に思うセッチン。

 腕をつかんでいたのは、動けなくなっているはずの、Sランク冒険者エリアルだ。


「おやめ……なさい……」


 ボロボロになり、それでも町を守ろうとする姿は、まさしく最高位冒険者といえた。

 しかしそんなのセッチンには関係ない。


『ぼくに命令するな、この無能のくずが。才能のないごみは、才能のある人間〈このぼく〉を、邪魔すんじゃねえよ!』


 しかしエリアルは、憐みの目を向けてきた。


「なにが……人間ですの。そんな……化け物みたいな見た目、してるくせに」

『!』

「あなたは……人の才能を食うことでしかイキられない、哀れで……愚かな……無能ですわ」


 ……図星をつかれ、セッチンの怒りは頂点を迎えた。

 殺す、100%殺す。


 腕が空中で無数に折り重なり、1つの槌へと変形させる。

 圧倒的な質量をもったハンマーが、エリアルに振り下ろされる。


『死ね!』


 ぐしゃぁ……!

 肉がつぶれる音が確かにした……しかし。


『うぎやぁあああああああああああああああああ!』


 つぶれたのは、セッチンの腕のほうだった。

 エリアルの前に、見知った顔が立っている。


「あなたは……?」

『ヴィル……ヴィル……ヴぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいる!!』


 憎き相手、自分の兄……ヴィル・クラフトが王都に到着したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんか過去作で似たような話やってなかった? アレは主人公丸コピーだったけど。 話似ちゃうのは仕方ないにしても、どうせ主人公がなんとかすんでしょ?って察してしまうような話の作りはなんとか…
2023/02/15 08:00 退会済み
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[気になる点] どうせ簡単に勝っちゃうのが解るから面白くないんだよな……それにしてもリーフってリーフ・ケミスト?本当に自分の他作品のキャラ出すの好きですね
2023/02/14 12:21 退会済み
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