41.弟は伝説の武器を作りまくるが、全然売れなし捕まる
さて、元婚約者シリカル・ハッサーンが、改心した一方その頃……。
ヴィル・クラフトの弟……セッチンはというと。
王都のマーケットにて。
たくさんの露天が立ち並ぶなか、セッチンはひとり、リュックを背負って参上。
「いひ! いひひひぃ! いるいる、客がいっぱいいるぅう!」
セッチンは血走った目で、マーケットを訪れている、王都の人たちを見渡す。
彼らは食料品や武器などをもとめている。
「ぼくの作った武器にぃ! 驚愕しろよおまえらぁ! うひゃ! ひゃひゃひゃ!」
通行人たちはセッチンの姿に気色悪さを覚えて、彼を避けていく。
彼の見た目は……以前とは変化していた。
かつては優男然とした、整った見た目をしていた。
いかし今は、浮浪者と思われても致し方ないくらい、ボロボロである。
無精ひげに、血走った目。
大きなリュックをせおい、そして……。
そして、右手。
彼の右手には、スタンプが握られている。
これはかつて、謎の男からもらった品物。
スタンプを押すだけで、見た目だけを変化させる、呪いのアイテム。
……そう、この呪いのアイテムをセッチンに渡したのも、七福塵だ。
セッチンの右手には、七福塵のつくりしアイテムのひとつ、【偽装のスタンプ】が握られている。
……よく見ると、スタンプが右手に、根を張ってるのがわかった。
握っているのではない、くっついているのだ。
セッチンはそのことに気づいていない。
その強いつながりは、転じて、この偽装のスタンプへの強い執着心といえる。
武器作りの練習よりも、スタンプひとつで、伝説の武器(の見た目だけ)を作れる、この呪いのアイテムしか……。
セッチンには、ほかによりどころがなかったのだ。
「さぁて! 売りますかぁ! いひひ! みんなびっくりするぞぉ!」
セッチンは勝手に、敷物を敷いて、そこに作った武器を並べる。
「さぁ! よってらっしゃいみてらっしゃい! ハッサーン商会、出張支部だよぉ!」
ハッサーン商会。
シリカルの商会の名前を、勝手に使って、彼は商売を始めたのだ。
売り物はもちろん……。
「エクスカリバーに、イージス、ゲイ・ボウ! 伝説の武器がなんとすべて一〇〇〇ゴールド! 安いよ安いよぉ!」
その言葉を聞いた通行人達が、みな足を止める。
ぞろぞろと、大量の人たちがセッチンのもとへやってきた。
(いひひひ! 馬鹿な客どもがあつまってきたぞぉ! 待っててシリカルぅう! ぼくが、たくさん偽物をこいつらに売りつけて、金儲けしてあげるからねぇ!)
……追い詰められたセッチンは、改心するどころか、むしろ精神状態を悪化させていた。
どんなに屑商品でも、売れればいい。
たとえ偽物だったとしても、売れればいい。
……ヴィルとは真逆の方向に、突き抜けてしまっていた。
「本当に一〇〇〇ゴールド……? エクスカリバーが?」
集まってきた客の一人が、いぶかしげな目を向けながら、聞いてくる。
(きたきた! 馬鹿な客が!)
「ええ、そうですよぉ。一〇〇〇ゴールド! お安いでしょ? 伝説の剣がこの値段なんて、ありえないでしょー!」
くくく、とセッチンは笑う。
(さぁ買え、どんどん買え! いひひぃ! 一〇〇〇ゴールドでももとは、路傍の石! それを見た目だけ変えたんだ、一〇〇〇ゴールド丸々もうけられるぜぇ!)
セッチンはギラついた目を、エクスカリバーを買い求めてきた客に向ける。
(どーせてめえら消費者はよぉ、安けりゃ買ってくれるんだろぉ? クオリティとか二の次で、ただ安けりゃ買う! 客なんて馬鹿なんだからよぉ!)
しかし……。
「やめとくわ」
「はぁ!? な、なんでだよぉ!」
完全に買ってくれるものだと思っていたから、驚愕するセッチン。
客はため息をつく。
「いくらなんでも、怪しすぎる」
「は、はぁ!? あ、あやしい!? どういうことだよ!?」
詰め寄るセッチンに、不気味なものを見る目を向けるも、客が説明する。
「エクスカリバーが、一〇〇〇ゴールドぽっちで買えるわけないじゃん」
「だ、だから! だから安く売ってるんだろ! 通常ならてめえら一般庶民じゃ手が出ないところを、破格の価格で! 売ってやってるんだろぉ!?」
なのに、なんで手に取ってくれないのか?
セッチンには、理解できない。
しかし客はこう言った。
「安すぎるのが、逆に不安になるよ」
「は? はぁ? い、い、意味がわからん!!!!!!」
「だってそうでしょ? もし本物のエクスカリバーなら、こんな安い値段で、売られるわけがない。安さが、逆にチープさを際立たせてるんだよ」
なんて……ことだ。
そんな……。
「な、なんで、なんでだよ! おまえら客は、安いものがほしいんじゃ無いのかよ! 高い品物が、安く買えたら、ラッキーって喜ぶんじゃないのかよぉ!?」
完全に、セッチンは消費者をなめくさっていた。
安ければ、クオリティなんて二の次で、売れるだろうって。
「客を馬鹿にしすぎだろ、あんた。物づくりの才能、ゼロだね」
「ぜ……!?」
ゼロ……物づくりの才能が、ゼロ。
それは……一番言われたくない言葉。
かつて父が存命だった頃に、言われた……呪いの言葉。
『おまえには才能が無い』
……その言葉は、父の戯れ言だと思っていた。
でも、何年も経ったいまも、同じ言葉を、違う人から言われた。
「こんな値段で売ってるんだ、どーせ贋作だろ?」
「そうだよな」「ふざけんな!」「ハッサーン商会って偽物を売りつけるの!?」
「おい騎士呼んでこい!」
客からの大ブーイング。
そんな声は、セッチンには届かない。
「才能が……ない。才能……ゼロ……う、うそ、うそだ、うそだうそだうそだぁ!」
セッチンの体から、黒い靄があふれ出る。
彼の持つスタンプから、さらに根っこが生えて、セッチンと同化していく……。
「おい何の騒ぎだ!」
騎士が騒ぎを聞きつけて、セッチンたちのもとへやってくる。
「露店を出す許可はもっているのか? どこのものだ?」
「うそだ……うそだ……ぼくは、さいのうがあるんだ……さいのうがぁ……」
話にならなかった。
騎士は周りの人たちから事情聴取。
詐欺かもしれないが、しかしまだ証拠がない。
しかし一つ、セッチンは明確なルール違反を犯している。
「外で物を売るときは、許可が必要なんだ。無許可営業で、おまえを連行する! こい!」
セッチンの手に、騎士が縄をくくりつける。
「い、いやだ! 離せ! 離せよぉ! ぼ、ぼくは天下の、ハッサーン商会のお抱え職人なんだぞぉ! すごいんだぞぉ! すごい才能のある、職人なんだぞぉぉ!」
ここでも、ハッサーンの名前を出してしまう、セッチン。
個人でやってることならまだしも、商会の名前を出してしまった。
商会の名前に、泥を塗ることになる。
「ハッサーンってまじか」「あそこやばい噂聞いてたけどここまでなんて」「おれもうハッサーンで買い物しないわ」「あたしも~……」
客からの信頼がた落ち。
これも、セッチンのせいだ。
彼は怯えた。
愛する妻から……失望されてしまうことを。
「とにかくこい!」
「いやだぁ! 離せぇ! ぼくを誰だと思ってるんだぁああああああああ!」
……そんな哀れなセッチンに、先ほどエクスカリバーを買おうとした客が、言う。
「物作りの才能ゼロで、客を舐め腐ってる……クリエイター気取りのパクリ野郎が…」
……パクリ野郎。
たしかにそうだ、エクスカリバーをはじめとしたアイテムは、誰かが作った物。
セッチンはそれを、ずるして、偽物を作った。
つまりは……パクリ行為。
にせ者。
本物とは違う……偽物。
決して本物にはなれない、偽物。それが……セッチン・クラフトという男の本質だった。
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