04.生産スキルで奴隷少女を助ける
俺、ヴィル・クラフトは自由に生きることを決めた。
転移の魔道具で王都から離れることに成功。
これから自由に生きようとしたところ、森の中でモンスターに襲われてる女の子を発見。
俺はハンマーの一撃で、モンスターをぶっ倒したのだった。
「さて、お嬢ちゃん。大丈夫かい?」
深い森の中。
目の前には、獣人の女の子がいる。
年齢は、7~8歳くらい。
狼がまじってる、かな?
ピンと尖った耳にホウキっぽい尻尾。
青い色のボサボサの髪、ガリガリの体。
そして……。
「君、怪我してるね」
だいぶ大けがしてる。左足が欠損していた。
傷口が新しい。
たぶんさっきの熊モンスターに食われたのだろう。
右腕がプラン……と垂れ下がってる。
「右腕が動かないのは、生まれつきかい?」
「…………」
女の子が凄い警戒してる。
こっちをじっとにらみつけていた。
まあそうか。
カノジョから見りゃ、急に現れた変な男に見えるだろう。
「大きな怪我はそんなとこか。あとは打撲や打ち身が……おや? 首に……」
ばっ、とオオカミ少女が首もとを隠す。
だが、ハッキリ見えた。
ごつい革の首輪が。
……なるほどな。
「君は商品なんだな。奴隷商の」
よく見れば女の子は整った顔をしてる。
さぞマニアに高く売れるだろう。
しかし商人は……。と思ったら、近くに大きな血だまりがあった。
たぶん、食われてしまったんだな。
「っと、悠長に見てる場合じゃ無かった。嬢ちゃん、怪我なおしてやるよ」
「…………」
狼尻尾が膨らみ、そして垂直に立つ。どう見ても怪しまれてるなぁ。
「警戒しなさんな……つっても、直ぐに信じるのは無理か」
死んじゃった商人を見て、うなずく。
たしか奴隷商が死んだ場合は、拾ったやつの持ち物になるんだったな。
「嬢ちゃん、ちょいと動くなよ」
「え?」
俺は手に持ってる神鎚ミョルニルに、力を流す。
手の甲には太陽の紋章。
黄金の手。それが俺の能力。
これには5つのユニーク生産スキルが宿ってる。
さっきは超錬成を使った。次は、別のスキルを使う。
「【万物破壊】……レベル1【分解】」
日輪の紋章から、俺の中指を通って神鎚ミョルニルに力が付与される。
俺はハンマーを、彼女の首輪に、こつん……と当てる。
すると……パラ……と首輪がほどけて地面に落ちた。
「え!? い、今……なに、したの……?」
あ、やっとしゃべった。
「ハンマーでこつんと、首輪を叩いて、スキルを発動させたんだよ」
「すごい……何も、見えなかった」
目も悪いのかな? まああとでまとめて治すか。
今のは、黄金の手が持つ生産スキルの一つ、【万物破壊】。
文字通り、ハンマーが触れたあらゆるものを、完璧に破壊してしまうスキルだ。
そのまま使うと強すぎるから、パワーを抑えて、【分解】にして使った感じ。
なぜ破壊が生産スキルかって?
破壊は、創造に必要なプロセス。つまりは、作ることに通じる力なんだよね。
「奴隷の首輪……外せば首が吹っ飛ぶって……」
「うん。だから分解した。これで君は死ぬことはない」
もし殺すつもりだったら、分解なんてしなくてよかったんだ。
そうしないのは、君を生かすためだ。
これで、少し警戒を解いてくれればいいんだが……。
「……あり、がと」
おや、意外と素直だな。警戒してたのに。
「どういたしまして。他の痛いところ、治して良いかい?」
「う、うん……治すって、治癒魔法?」
「いーや、生産スキル」
「せいさん……すきる?」
俺はハンマーを、狼ちゃんの太ももへ持っていく。
「!」
ああ、ハンマーで首輪ぶっこわしたから、怯えてるのか。
「だいじょーぶ。殺さないから」
「…………うん」
おびえが見て取れる。でもそれ以上に痛そうだ。
色々欠損してるし、打撲とかあるし、腕は動けなさそうだし。
「スキル発動。【全修復】」
こつん、と狼ちゃんの太ももを叩く。
その瞬間……。
まず、ちぎれた足が生えてきた。
打撲、打ち身がなくなる。
大量に失った血が蒸発して消えて、狼ちゃんの顔色に血の気が戻る。
さらに動いてなかった腕が、動かせるようになった。
「は、え、ええええええええええ!?」
お嬢ちゃんびっくりしてらっしゃる。
「急に足とか生えてきたらびっくりするよなぁ。驚かせてごめんね」
「え、あ、う、うん。い、いや今のなに!?」
「全修復。壊れた箇所を、ハンマーこつんで全部一瞬で治す」
「なにそれぇええええええええええええええええ!?」
おお、出血していた血が治ったからか、元気いっぱいになったな。
超錬成。万物破壊。全修復。
この3つに加えて、あと2つ。
俺には生産チートスキルが備わっているのである。
「とりあえず事情とか聞きたいけど……もう夜だし、野営の準備してからだな」
「あ、いや……いま夜なんじゃなくて、ここは……」
俺は近くにあった木に、ハンマーをコツンと当てる。
「【錬成:木→ログハウス】」
1本の木が光り輝くと、でっかい木の家が完成した。
今のは超錬成。こないだ石を金にしたスキルな。
木を使って、ログハウスを錬成したのである。
ぽっかーん……とする女の子。
「なに……なんなの? お兄ちゃん……いったい?」
「元、鍛冶師だよ」
「か、かじ……? え、か、かじしって……こんなこと、で、できる……の?」
まあ……そうだよな。
鍛冶師っていったら、鉄をかーんかーんして、剣を作るイメージだもんな。
「ちょいと訳ありな鍛冶師なんだ」
「そ、そうなんだ……」
「まあまあ、まずはお入り。中でご飯でも食べながら、お話しようぜ、狼ちゃん」
狼ちゃんはジッ、と俺を見つめた後に言う。
「……ポロ」
「ん?」
「あたしの、名前。ポロ」
「ポロちゃんか。俺はヴィル。ヴィル・クラフト」
「ヴィル……お兄ちゃん」
お兄ちゃんか。なんか気恥ずかしいな。むずがゆい。
ポロちゃんは俺を見て、ぺこりと頭を下げた。
「たすけてくれて、ありがとう!」
……ありがとう、か。物を作る以外で、ありがとうって言われたの、ひさしぶりな気がする。
悪くない気分だ。うん。悪くない。
「おう、どういたしまして」




