37.死者すら蘇生させる
 
俺たちは帝都カーターに滞在してる。
帝都へ向かう魔法列車が横転事故を引き起こした。
 
その原因を調べていたところ、座席の一画に黒いモヤを発見。
よからぬものの気配を感じた俺は、その発生源へと向かうのだった。
 
「つきました! 帝都です!」
「お、おう! ポロ!」
「はい!」
「おろしてくれ、はずい!」
 
俺はここまで、ポロにお姫様抱っこされてきた。
俺の足よりも、獣人であるポロのほうが速く走れるから。
 
「緊急事態ゆえ、このままで! 決してヴィル様を抱っこしたいからではなく!」
 
た、確かにそうだな。
よし、今はこの態勢のままでいこう。
 
黒いモヤは帝都の大通りの奥へと続いていた。
 
「この先には……たしか帝都病院があったな」
 
ポロの足はものすごい速さで、病院まで到着する。
全然息を切らしていなかった。さすが獣人、体力おばけだ。
 
「!? これは……」
「ヴィル様、ど、どうかしたのですか? 何かあるのですか?」
 
やっぱりポロにはわかってないようだ。
病院全体から漂う、黒いモヤを。
 
病院を出入りする人たちも気づいてる様子がない。
これは俺にしか見えないのだろう。
 
「ポロ、いこう」
 
俺は黒いモヤの発生源へと向かう。
何かはわからないが、嫌な予感がしてならない。
 
黒いモヤは階段を上り、とある病室の前まで伸びていた。
ドアを開けると、むわりと大量のモヤが襲い掛かった。
 
「なんだ……これ。前が見えない……」
「! 大丈夫ですか!?」
 
ポロがモヤの中に飛び込んでいく。
ドアを開けたことで多少視界がましになった。
 
病室には、母親らしき人物と、そして女の子がいた。
女の子はベッドに座って怯えてる。
 
母親はベッドのそばにぐったりと倒れて、動かないでいた。
ポロが体をゆすり、心臓のあたりに耳を当てる。
 
「!」
 
ポロの顔色が青くなる。
俺を見て、ふるふると首をふるった。なんて、ことだ。
 
「おねえちゃん……ままは? ままはどうしたの? 急に動かなくなったの……」
 
女の子が不安げに、ポロに尋ねてくる。
彼女は何も言えずに、救いを求めるように俺を見てきた。
 
俺はすぐさま神槌を取り出して、母親へと近づく。
全修復を使えば、今なら間に合う……いや、待てよ。
 
「お嬢ちゃん、その人形どうしたんだい?」
 
女の子の胸には人形が握られていた。
髪の毛はぼさぼさで、凶悪な顔つきの人形。
顔全体に入れ墨が走っている。
そして、黒いモヤはその人形からあふれ出てていた。
 
……今、眼でそれを見て、はっきりと理解した。
女の子が持っているのは、呪いのアイテムだ。
 
しかも、獅子の神にかけられていたのと、同種の呪い。
あれは呪いをかけられた本人に害をなしていた。
 
今度の呪いは、自分以外に災いをもたらしてるようだ。
 
「りかたん人形……壊れて、なおしてもらったの……」
「……そうか」
 
おそらくその直した奴が、呪いをかけた元凶だろう。
単なる人形を、呪いのアイテムに変えやがったんだ。ちくしょう、なんてひでえことしやがる。
 
「お嬢ちゃん」
 
……これを破壊するのはたやすい。
しかし、女の子は母親がピンチだというのに、人形をつかんだまま放さない。
 
たぶんそれほどまでに、大切な人形なのだろう。
ならば、壊すのではなく、別の方向で考える。
 
「ちょっと人形、貸してくれないかな?」
 
ぎゅ、と女の子が人形を抱きしめ、かばうようなそぶりを見せる。
やっぱりそうだ。大事なもんなのだろう。
 
人が大切にしているものを壊す気は全くない。
……逆に、そんな大事なものを悪用した、そのくそ野郎もまた許せんが。
 
「安心してくれ。俺は人形のお医者さんなんだ」
「! あなたもぉ」
「……ああ。だから、ちょっと貸してくれないか? 人形さん、今のままじゃ苦しそうなんだ」
 
やっぱり彼女から人形を借りて、呪いのアイテムにした誰かがいる。
そいつのかけた呪いを、俺は利用させてもらおう。
 
女の子は戸惑いながらも、俺の目を見て、うなずいた。
おずおずと人形を差し出してくる。
 
ありがとう。
俺はりかたん人形を受け取って、魔法陣を展開する。
 
……呪いのアイテムの設計図を見て、理解した。
思った通りこの人形は周囲に災いをもたらす呪いだ。
 
ならば、この呪いを反転させる。
 
「壊して、再構成!」
 
俺はハンマーをつかって魔法陣をぶっ壊す。
そして新たなる、神器に作り替えた。
 
周りに災いをもたらすんじゃなくて、祝福をもたらすように。
するとモヤが晴れて、きらきらと温かな光を発するようになる。
 
「! ヴィル様、その人形……髪の毛が光って……?」
「ああ。名付けて、すーぱーりかたん人形だ」
 
どうやらこの光、ポロには見えているらしい。
すると……倒れていた、母親がゆっくりと目を覚ました。
 
「うう、は! わ、わたしは一体……」
「ママ! ままぁ!」
 
女の子が人形を抱いたまま、母親に抱き着く。
母親は何のことかわからいでいるようだ。
 
呪いの影響で、母親が死んでいたってこと、理解してない様子。
 
「体に異常はないかい?」
「あ、は、はい……その、あなたが治してくれたのですか?」
「そうだよ! このお兄ちゃんが、りかたんを治してくれたの!」
 
さっきまでの凶悪な見た目の人形から一転、すーぱーりかたんはまるで天使のように美しく、かわいらしい姿になっている。
 
「おにいちゃんも、お人形のお医者さんなんだって!」
「は、はぁ……?」
 
困惑している母親。
まあ、呪いとかうんぬんは、言わないでおいていいだろう。
 
それより、聞いておかないといけない。
 
「お母さん。この人形、誰かいじったりしてなかったかい?」
「は、はい。魔法列車の中で、人形の首が取れてしまい、なおしてもらいました」
 
やっぱり。
そいつが人形を呪いに変えたんだ。
 
……許せない。物にそんな余計なもんつけやがって、人を不幸にしやがって。
 
一目あって、ぶっとばしてやんなきゃ、気が済まない!
 
「そいつの特徴は?」
「顔も体も布で隠してたので、わかりません」
「……そうかい」
「ごめんなさい、力になれなくて。あ、でも男の人でした。声がそんな感じで」
 
……結局、男ってこと以外に特徴はわからずじまい、か。
いやまあ、でも悪いやつってことだけはわかった。
 
「ありがとう、参考になったよ」
「いえ……お礼を言うのはこちらです。胸の苦しみが治ったの、あなたのおかげなのですよね?」
「いーや、俺のおかげじゃないよ。すーぱーりかたんのおかげさ」
 
この人形は災いを振りまく呪いの人形から、周りに幸福をもたらす人形に変わった。
 
「病気が治ったのは、こいつのおかげさ」
 
ぽんぽん、と人形の頭をなでる。
すると、くるっと人形が、俺を見て言う。
 
「あら、あなたのおかげでしょう? 人形のお医者さん」
「「「…………は?」」」
 
俺も、母親も、そしてポロも、驚きのあまりにフリーズしてしまう。
一方で、女の子だけが、眼をキラキラさせる。
 
「りかたんが、しゃべったー!」
 
い、いやいやいや! え、えええ!?
しゃ、しゃべる人形だってええ!?
 
「どうなってんの!?」
「作ったあなたがそれを言うの? おかしな人ね」
 
いやおかしいのはこの人形だろ……。
え、ええ? しゃべる人形に、変えちまったってこと?
 
「さすがですヴィル様! 人形に命を吹き込むなんて!」
「ありがとう、人形のお医者さん!」
 
いやまあ、なんというか、なんだろうなこれ……。
俺は単に呪いを祝福に変えただけなんだが。
 
するとりかたん人形が、俺に深々と頭を下げる。
 
「感謝するわ。あのままじゃ、あたしは周りに不幸を振りまくだけの凶器になるところだった。それを救ってくれたのは、あなた。本当に、心から、感謝してます」
 
ま、まあ……なにはともあれだ。
みんな助かって、良かったよかった。
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