36.壊れた列車・大量の怪我人を一瞬で治す
俺、ヴィル・クラフトは、付喪神とのバトルがあってからしばらく、帝都カーターにとどまっていた。
そこへ、魔法列車の横転事故の知らせを聞く。
「ロウリィちゃん、急いでくれ!」
『了解っす!』
竜の魔神ロウリィちゃんの背に乗って、俺と獣人ポロは現場へと急行する。
列車の横転事故、となればかなりの人たちに被害が及んでいるだろう。
列車の破損だけじゃない、乗っていた人たちもケガしててもおかしくない。
そんなのダメだろ、ほっとけないだろ。
ということで、ロウリィちゃんに乗って現場へと到着した。
『こりゃひでーっす……。完全に、列車が線路から飛び出して、ひっくり返っちゃってるっす……』
上空から、痛ましいものを見る目で、ロウリィちゃんが現場を見下ろす。
列車は180度回転して、草原に広がっていた。
「ううう……」「いたいよぉお!」「おかーさーん! めをさましてぇ!」
あちこちから上がる悲鳴。
聞いてるだけで顔をそむけたくなる。
列車が壊れたことで、中の人たちにも甚大な被害を及ぼしている。
そりゃそうだ、すごい速さで走っていた列車がひっくり返ってしまったのだから。
「ヴィル様、いかがいたしましょう」
『けが人を運び出す感じっすね』
いや、待てよ。
そのとき一つの、インスピレーションが降ってわいてきた。
「ロウリィちゃん、列車の上で滞空できる?」
『できるっすけど……なにするんすか? 急がないと死人がでちゃうっす』
「わかってる、すみやかに、終わらせる」
俺は神槌ミョルニルを手に取って、眼下の事故現場を見やる。
その瞬間、魔法陣がいくつも浮かび上がった。
壊れた列車だけじゃない、列車に乗っていた人たちの故障個所も、わかる。
骨折、折れた骨が内臓に突き刺さている人だけでなく、たった今心肺停止してる人もいる。
俺には、被害状況が手に取るようにわかった。
この設計図は、壊れた物だけでなく、ケガした人の破損個所までわかるんだ。
「全修復!」
俺はハンマーを振り下ろす。
その瞬間、魔法陣が全て壊れて、そして新しいものへと作り替えられた。
『列車が元に戻っていくっす!』
「それに、大量の血も列車の中に戻って……まさか! ヴィル様が全部の修復を!?」
横転した列車が元のレーンに戻る。
それだけじゃない、割れた窓も、流れ出た血も、すべてが元に戻っていくのだ。
「すごい、すごいですヴィル様! 以前は一回につき一つしか直せなかったのに、今はまとめてすべてを直してしまうなんて!」
『いつの間にこんな高等テクみにつけたんすか!?』
俺にもわからん。
だが、わかったのだ。こうすれば、みんな助かるって。
「多分……職人のレベルが、上がったんだと思う」
俺はいくつもの神器を作ってきた。
そのため、経験値がかなり入ってきたのだろう。
その結果、黄金の手に宿る生産スキルのレベルが上がり、今までできなかったことができるようになった、ってところか。
『いやもう……なんでもありっすね! ただ物を直すだけのスキルだったのに。今じゃもうハンマー一振りで悲劇を回避するなんて、ほんとに神みたいっす』
「神、なぁ……」
正直俺もこれはやりすぎだろって思うところはある。
職人の領域を離れてきてるんじゃあないかって。
「でも……ま、みんな笑ってるならそれでいいや」
「さすがです、ヴィル様! 強い力を持つにふさわしい、高潔なる精神の持ち主です!」
その後、俺たちはいったん降りて、けが人の確認をした。
乗客も、乗組員も全員無事だった。
けが人はゼロだとは思う。が、念のため、乗客に帝都病院で精密検査を受けてもらうことにした。
ロウリィちゃんに協力してもらい、けが人を搬送することになったんだけど……。
「ヴぃ、ヴィル……?」
「え?」
乗客確認中に、見知った人物と再会することになる。
そこにいたのは、俺の元婚約者のシリカルだ。
「ヴィル! ヴィルなのね!」
「え、あれ? なんでおまえここに……?」
シリカルは俺のもとまで全力でやってきて、そしてひざまづく。
「ごめんなさい、ヴィル! 本当にごめんなさい!」
「ちょ、ちょっと……何してんだよお前? やめろよ?」
元婚約者のいきなりの土下座。
ま、まじでなんなの?
なんでここにいるのかわからないし、いきなり土下座の意味もわからん。
「私が間違ってました! どうか、どうかお許しください!」
「いやおまえ……まじで急すぎて意味わからん。とにかく、落ち着けって」
俺がそう言っても、シリカルは土下座を辞めない。
困った……。
「と、とにかくシリカル、おまえも乗客だったんだ。検査を受けさせてもらえ。話はあとで聞くからさ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
その後、ロウリィちゃんとともに、シリカルのやつも帝都へと運ばれていった。
何だったんだまじで……。
残った俺は、ポロと一緒に、停車してる魔法列車を調べる。
「どうしたのですか、ヴィル様?」
「いやちょっと気になってよ」
俺はポロと一緒に列車のレーンを調べる。
しかしレーンにはなんにも異常がなかった。また、車輪を調べたけれども、どこにも不具合が生じてるパーツは、ない。
「………じゃあ、なんで事故は起きたんだ?」
「誰かが攻撃したとかでしょうか? 魔法で」
ううん、でもなぁ。
「高速で移動する列車に、一発で魔法を当てるってのは難しいもんだぞ」
止まってる敵ならまだしもな。
しかも、周りの草原には一切、魔法による攻撃の痕跡が見られない。
一発で正確に当てるなんて、神業ができるだろうか。
どうにも、俺にはできない気がしてならない。
「何か別の要因が……む!」
そのとき、俺の眼には妙なものが映った。
列車の窓から黒いモヤがあふれているのだ。
そこへ近づいて、外から車内を見やる。
「! これは……」
4人掛けの座席の一画に、黒いモヤが滞留しているのが見えた。
「どうしたのですか、ヴィル様」
ひょっこり、とポロも車内を見る。
しかし不思議そうな顔は変わらない。どうしてだ、こんな異常なもんがあるのに……まさか。
「ポロ。おまえには黒いモヤがみえないのか?」
「? 何もありませんけど」
……つまりこれが見えているのは俺だけってことになる。
座席にはとどまってるモヤは、窓の外へと続いている。
それは遠く、帝都へと向かって伸びていた。
……これが、何かわからない。だが、嫌な予感がする。
「ポロ、すぐに帝都に戻るぞ」
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