32.女皇帝から大変感謝される
俺は付喪神を撃破した。
その後、帝都の病院にいた。
「ヴィル様♡ あーん」
「いや、自分で食べられるって」
ベッドに寝かせられてる俺。
獣人ポロが、切ったリンゴを口に運んでくる。
「いえ! ヴィル様はお疲れですから、私がやります!」
そこへ……。
「ポロちゃんよ、すっこんでな。あたいが先生に食べさせるんだ」
「……あなたも下がってなさい、ライカ。ヴィル様はわたしが」
氷の勇者キャロライン、雷の勇者ライカも、病室にいる。
「悪いなおちびさん、あたいは先生の女なんでな」
「……はぁ? なんですかそれ。ヴィル様に勝ったんですか?」
「ああ」
とすっとぼけるライカ。
ライカとは、戦って勝ったら結婚するって約束をされている。
空色の髪が美しい、氷の勇者はフンっと鼻を鳴らして言う。
「……うそばっかり。ヴィル様が貴女如きに負けません。だいいち、付喪神に手も足も出なかったのでしょう、貴女?」
「うぐ……た、たしかにそうだけど……」
さて、今どうしてこうなってるのか?
時間は昨日までさかのぼる。
帝都内の草原にて、俺は突如あらわれた、神の呪いを解いた。
その後、呪いのアイテムに憑りついていた化け物、付喪神と戦闘。
そこで俺は、奥義である【無限贋作複製】のスキルを発動させた。
魔力を消費することで、あらゆる神器を1分間だけ、再現するというもの。
俺は神器を複製しまくり、その結果魔力をすべて消費して、ぶっ倒れてしまった。
その後俺は帝都病院に連れていかれ、今に至る。
眠ったら魔力は全回復したので、入院なんて必要ないと医者に言われたのだが……。
「ヴィル、おはようございます」
「アルテミス陛下」
皇帝陛下も病室へとやってきた。
ご高齢だった陛下だが、俺のスキルで病気だけでなく、若返りまでしてしまったのだ。
金髪の美しい姿をした陛下が、俺のもとへとやってくる。
「お加減はいかがでしょうか?」
陛下が俺の手を取って、顔を近づけてくる。
心配そうに眉根を寄せていた。
「だいじょーぶですよ。どっこも体はいたくないですし、魔力も回復しました。もういつでも退院可能です」
すると陛下は「なりません!」といって激しく首を振ってくる。
「ヴィルはこの帝国の至宝なのです! 決して失わせてはいけない、唯一無二の存在! どこにも異常がないか、きちんと精密検査を受けて、調べないと!」
大げさだなぁ。
まあそんだけ大切にしてもらえて、悪い気はしないな。
そこに、キャロラインが顔をしかめて言う。
「……皇帝陛下。いつ、ヴィル様が帝国の所属になったのですか? 彼は王国の人間ですっ。勝手に帝国にヴィル様を縛り付けないでくださいますか?」
あ、そうだった。
キャロラインには言ってなかったな。
「俺、皇帝陛下から貴族の地位もらったんだよ」
「! そ、そんな……!」
キャロラインがこの世の終わりみたいな表情をする。
なんだどうしたんだ?
「帝国の所有物になられたということですか? じゃあ、王国の勇者とは……もう……」
ああ、なるほど。
キャロラインは王国の勇者だ。
所属が違うから、聖剣のメンテを見てもらえなくなるかもって、危惧してるわけだな。
あわてんぼうさんだな。
「大丈夫だよ、キャロライン。俺はおまえの面倒も見るから」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
キャロラインが顔を真っ赤にした。
湯気がでるんじゃないかってくらい、そりゃあもう見事に。
「う、うう……」
「う?」
「お、お外、は、はしってきますぅううううううう!」
キャロラインが病室からものすごい勢いで出て行った。
「聖剣の面倒見てもらえるのが、そんなにうれしかったのか?」
『いや、どう見ても違うっすよ……』
お、脳内に魔神ロウリィちゃんの声が聞こえてきた。
「ロウリィちゃん、今どこにいるの?」
『帝都上空にいるっす』
「そんなとこいないで、降りてこいよ」
しかしロウリィちゃんの返答はなかった。
あら? どうしたんだろう。
「ヴィル、どなたと話してるのですか?」
「ああ、えっと……」
俺は簡単に、ディ・ロウリィの領地であったことを報告する。
呪いによってロウリィちゃんが暴走していたこと。
領民が困っていたこと。
「…………」
アルテミス陛下は、俺の前で深々と、頭を下げてきた。
え、ええ!? なんで!?
「すみませんでした、ヴィル。まさか、領地がそのような状況になってるとは、つゆ知らず……」
「あ、いやいや! 陛下のせいじゃないっすよ。悪いのはディ・ロウリィの状況を報告しなかった、前の領主ですし……」
「それでも、きちんと状況を把握せず、問題のある土地を渡してしまったこと、本当に、本当に申し訳ありませんでした……」
いや、そんなに気にしなくても全然いいのに……。
「帝国に訪れた未曽有の危機を救ってくれた、大英雄だというのに、大変失礼なことをしてしまい、本当にすみません」
だ、大英雄だってぇ?
「そんな大げさな……」
「先生、大げさじゃあねぇさ」
ライカが俺にまじめな顔で言う。
「あのとき先生がこなかったら、まじで帝国は滅んでたよ。帝国最強の剣士と、精鋭の軍隊が挑んでも、あの呪われし神には敵わなかったってわけだし。ましてや、付喪神の強さは別格だった。あの場で先生がいて、本当に良かった。本当に感謝してるよ」
ライカもまた頭を下げてくる。
「いや別に俺は大したことしていないさ。あのときは、たまたまあの付喪神と、俺の相性が良かっただけだよ」
神器での攻撃が有効な敵に対して、神器を無限に複製できる俺が、たまたま居合わせたから、勝てただけだ。
「ヴィルは、本当に謙虚なおかたですね。強いだけでなく、その強さをひけらかさない。真の英雄とは、あなたのような人を言うのでしょう」
「そんな大げさすぎ。それに俺、強くないですから」
ぽかーん……とするアルテミス陛下と、ライカ。
ポロも困惑顔だった。あれ?
「だってあれは、神器が強いのであって、俺は別に強くないだろ」
まあ強い弱いとか、俺にはよくわからないし、興味ないけども。
付喪神を倒したのは、無限に複製された神器たちじゃないか。
俺がパンチで倒したなら、まあ俺が強かったでいいけどさ。
「「「…………」」」
「え、どうしたのみんな?」
なんか三人ともが、目を点にしていた。
あれれ?
『ヴィルさんってやっぱり、かなり変わってるっすね……』
あ、ロウリィちゃんだ。
「え、俺変わってるかな?」
『ええ。どーーーーみても、あんた強いっすよ! 神器を無限に複製した時点で、やばすぎでしょ!』
「いやいや、でもほら神器を無限に複製しただけだし」
『それがもう異次元なんだって言ってるんすよ! もう!』
まあなんかわからんが。
「とにかく、俺は別に当然のことしたまでだから、そんな頭を下げなくてもいいよ」
アルテミス陛下が「そ、そうですか……」と困惑気味に言う。
うーん、そんなおかしなこと言ってないと思うんだけどね。
「話は変わりますが、ヴィル。あなたに支払う報酬のことなんですが」
「え? 報酬? なんの?」
「帝国の危機を救ってくれたこと、そしてライカの聖剣を直してくれたことに対する報酬です」
付喪神との戦闘中に、雷の聖剣が壊れてしまったんだよな。
「あー、いいっていって、気にしないで。あれはお金が欲しくてやったわけじゃあないからさ」
剣が可哀そうだから直しただけだし、いわば、自己満足の範疇だ。
仕事じゃない。
「なんということでしょう。お金ではなく、助けたいというただその一心だけで、自らの危険も顧みずに、あのような化け物に挑むなんて……!」
陛下がなんか目をキラキラさせてらっしゃる。
勇者二人も、感心したようにうなずいていた。
あれ? 聖剣の話してるんだけど、なんか国の話と勘違いされてる?
まあどっちにしても、別に俺がやりたくてやったわけだが。
「ヴィル、どうか、報酬を支払わせてください。そうでなければ、心が痛みます」
「ふーん……そういうもんかね」
でも別に金が欲しいとは思わないんだよな。
工房も手に入れたし……あ。
「そうだ、じゃあ、1個お願い聞いてもらいたいんだ」
「なんでしょう! なんでも致します!」
なんでもか。
じゃあ遠慮なく。
「ロウリィちゃんのこと、許してやってほしいんだ」
『! ヴィルさん……それって……』
ロウリィちゃんは、領民の人たちに迷惑をかけた。
彼女の呪いのせいで、領民はモンスターになり、村は外部と交流できなくなり、窮地に追い込まれていた。
多分だけど、ロウリィちゃんはそのこと、すっごい気にしてるんだと思う。
「ロウリィちゃんは、まあたしかに迷惑かけちゃったけど、でもワザとじゃないんだ。好きな人が死んだ悲しみに囚われてただけ。それに……彼女に呪いをかけた人物は、ほかにいる」
ロウリィちゃんの住処には、妙な結界が張っていた。
それを作り替えたからわかる。
あれは、ロウリィちゃんの悲しみを暴走させる呪いだった。
「ロウリィちゃんは悪くない。でも、やっちまったのは事実だ。罰を受けなきゃいけないかもしれない。でも……俺に免じて、許しちゃくれないかな? 報酬とか全部いらないからさ」
『ヴィルさん……うう、うわあああん!』
びりびり、と病院の窓が揺れる。
外には大きな白い竜がいて、滝のような涙を流していた。
アルテミス陛下は俺とロウリィちゃんを見て、厳かにうなずいていう。
「わかりました。では、この度の報酬として、魔神ロウリィの一件はお咎めなしとします」
「ありがとう、陛下」
俺は窓を開けて、ロウリィちゃんに笑いかける。
「許してくれるってさ。よかったな」
『ありがとうございますっす! ヴィルさん!』
うんうん、これで一件落着だな。
よかったよかった。
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