31.邪悪なる神を秘奥義で倒す
俺、ヴィル・クラフトには、黄金の手と呼ばれる生まれ持った恩恵がある。
この手には、5つの生産スキルが存在する。
超錬成。万物を自在に変換する。
全修復。壊れたものを瞬時に完璧に修復。
付与。作ったものに特定の効果を付与する。
万物破壊。万物を完璧に破壊する。
そして、最後のスキル。
俺はこの力があまり好きではない。
でも、必要とあれば、使う。
多分、それがいまなんだと思う。
★
帝都の草原にて。
獅子の体を暴走させていた、呪いのアイテム。
そのアイテムに取り憑いてた邪悪なる意思、付喪神。
一見すると、大きな人間に見える。
でもよく見ると、複数の触手がからみあって、まるであやとりのように、人間のすがたを作ってるだけのように見えた。
「付喪神だかなんだかしらないが、俺はおまえを倒す」
『やってみろ人間風情がぁ!』
付喪神が右腕を振りかざし、俺に向かってこぶしを振る。
聖なる結界を作りそれを防ごうとした。
『甘いわぁ!』
触手が蛇のように動いて、目の前に展開した結界を避けてきた。
俺はとっさに錬成スキルを発動。
地面から無数の鉄の槍を作る。
だが槍は、触手を素通りしたのだ。
蛇がよけたんじゃない、透けたのだ。まるで幽霊に触れているかのようだ。
俺は肉体改造をし、高速で触手から逃れる。
『無駄無駄ぁ……!』
付喪神が逆の腕を振るってくる。
同じように触手が俺めがけて襲ってくる。
2本の巨大な触手に追い回される俺。
何度地面から武器を錬成しても、通用しない。
『馬鹿が! 無駄なんだよ。我ら神を、人間ごときが作りしもので、傷つけることは不可能!』
それを聞いて、俺は闇の聖剣、夜空を作ったときのことを思い出す。
聖剣は神器だ。
神器には、作った本人(神)を傷つけることはできないルールがあった。
裏を返せば、神器で神を攻撃は可能。
いや、ただしくは……。
「神器でなければ、神を殺すことはできない、か」
『!? き、貴様……なぜそのことを知ってる!? たかが人間が! なぜ!?』
やっぱりそうだ。
神器でなきゃ攻撃できない。
だから、地面からいくら通常の武器を作っても、攻撃できなかったわけか。
今、手元に神器は一つしかない。
俺の祖父、ガンコジーさんの作ってくれた、神槌ニョルミル。
このハンマーで攻撃すればいい。
だが、やつの体は無数の触手で覆われている。
あの触手は、聖剣を壊した。
つまり神器を壊す呪いがかかっているんだ。
じーちゃんのハンマーで直接なぐったら、壊れてしまうだろう。
『くたばれぇええ……!』
付喪神が触手を伸ばして俺に攻撃してくる。
「……しかたない」
本当は使いたくない。
けれど、今はそのときだ。
「■、全開」
俺の目の前に、黒い箱が出現する。
これは黄金の手に付随される、機能の一つだ。
『そんな箱ごときで何ができる!?』
「――――」
俺が、スキルを発動させる。
その瞬間。
ボッ!
触手が一瞬で消し飛んだのだ。
『ば、ばかな!? おれに攻撃が通じた!? ありえん! 神に通常攻撃はきかないはず!』
付喪神が動揺する。
絶対に攻撃が当たらないと思い込んでいたからだろう。
『き、貴様! 神器を使うのか!? 人間の分際で!?』
「いや、違うよ。俺の持つ【本物の】神器は、1個だけだ」
ガンコジーさんの作った神槌ニョルミルは使っていない。
では、何を使ったのか・
いや、正確には、作ったのだ。
「贋作複製……【エクスキャリバー】!」
その瞬間、■から1本の美しい、黄金の剣が吐き出される。
『ば、ばなかぁ!? 聖剣だとぉ!? なぜだあ! なぜ聖剣を持ってる!?』
今作ったエクスキャリバーば、高速で射出される。
付喪神の脇腹を貫いた。
『ふぎゃぁあああああああああ!』
触手が武器に触れた瞬間、作ったエクスキャリバーはボロボロになって消える。
……すまねえ。でも、こうしないと勝てないんだ。
「贋作複製……【エクスキャリバー】、100本!」
その瞬間、■が分裂した。
空中に100個の■が出現し、そこから黄金の剣が顔をのぞかせる。
その数は、100本。
『あ、あああありえない! 聖剣を100本も!? ありえない!』
「ああ、だがこれは、全部偽物なんだ」
『偽物だとぉおおおお!?』
俺は100本の聖剣を、■から射出する。
高速で飛翔したそれらは、付喪神の体を穴だらけにした。
神に攻撃できるのは、神器のみ。
聖剣は本来神の作ったしろもので、オンリーワンなものだ。
通常、100本なんて作れない。
そう、これらは……俺が作った贋作。偽物だ。
「これが俺の、最後のスキル。【無限贋作複製】だ」
『む、無限……贋作複製、だと!?』
俺は■を展開する。
やつの周りを取り囲むように、無数の■が出現する。
「この■には、かつてこの黄金の手の持ち主たちが作った、神器の記憶が秘められている。俺のスキル、無限贋作複製は、魔力を込めることで、一時的にその偽物を複製し、呼び出すことができるんだ」
その瞬間、付喪神を取り囲んでいた■から、数々の神器が顔をのぞかせる。
『グングニル、イージス、エクスキャリバー……ばかなばかな! 神器の博物館じゃないかこれは!?』
言いえて妙だな。
まあ、全部偽物なのだけども。
「この偽物の神器の寿命は1分。1分で消えてしまう。所詮は偽物、魔力で作ったコピー品だ」
魔力がある限り、無限に複製はできる。
でも、複製品であって、本物を作り上げるわけじゃない。
作られたら、すぐに消えるはかない贋作達。
心のこもっていない製品を大量生産する。だから、俺はこのスキルが嫌いなんだ。
「終わりだ」
無数の■から神器が大量に吐き出される。
それらは機関銃のように、高速で射出。
ずどどどどどど!
『いぎゃぁああああああああああああああああああ!』
……付喪神の体は無限の神器による攻撃を受けて、消滅した。
そして、神器たちもまた消え去ってしまう。
「わるいな、みんな」
犠牲となった贋作達に俺は謝る。
なんどやっても、このスキルは好きになれないわ。
「すごい、すごいですヴィル様!!!」
結界の外で、俺たちの戦いを見ていた獣人のポロが、俺に飛びついてくる。
「神を倒してしまうなんて! すごいです! さすがヴィル様です!」
偽物を犠牲にしてつかんだ勝利。あまりいい気分ではない。
けれど、帝国のみんなを守れた。
ポロも、そして雷の勇者ライカや、帝国軍人のみんなも笑っている。
みんなの笑顔が見れたから、俺はそれでいいやって、そう思ったのだった。




