03.夢を叶えるために旅立つ
ここから新展開です!
俺の名前はヴィル・クラフト。
王都で鍛冶師をしていた。
ある日婚約者と実の弟に裏切られる。
あいつらは俺に隠れて浮気し、子供まで作っていた。
さらに弟から新居と店まで奪われる始末。
ふたりの態度にぶち切れた俺は、王都を出て行くことにしたのだった。
「はぁ~……これからどうしようかな」
王都にほど近い森の中。
俺は木陰に座り込んで、空を見上げながら、今後の方針について考える。
「王都に戻る気は、ない。あいつらがもし謝ってきても、戻らない」
次にあの店をどうするか?
そんなの、次の店主である弟がどうにかするだろう。
「八宝斎としての仕事は、どうしよう……」
八宝斎。
いにしえの時代から連綿と受け継がれてきた、伝説の鍛冶職人の屋号。
国からの依頼で、一般人では作れないようなものすごいアイテムを作ったり、街の結界を補修したり、勇者の聖剣をメンテしたりしていた。
かっとなって出てきたけど、まずいよな。
八宝斎の仕事をほうりだしてきたら……。
「街の結界は、まあ1年は持つだろう。勇者の聖剣も同じくらいは。でも……その後は?」
誰が結界と聖剣をメンテするというのだ。
「まあ、店を継いだセッチンがやればいいだけの話か。そうだよ……爺さんが言ってたじゃないか。八宝斎の【本来の使命】は、メンテにあらずって」
俺は爺ちゃんの言葉を思い出していた。
『よいかヴィル。歴代の八宝斎たちの役割はな、【神器】を作り、天に奉納することだ』
俺の祖父、【ガンコジー・クラフト】が言っていた。
彼は先代の八宝斎だ。
親父は、八宝斎を継ぐために必要な、【黄金の手】を持っていなかった。
そこで、ガンコジーさん(※あだ名)は、孫の俺に八宝斎の屋号を継がせたのだ。
『神器って、なぁに爺さん?』
『神の奇跡がごとき力を発揮する、特別な魔道具のことじゃ。われら八宝斎は、はるか昔から、神器を作るために腕を磨き続けてきた』
そう言って、ガンコジーさんは俺に、自分の作った神器の1つを、くれた。
『これはお手本じゃ。この神器を参考に、ヴィルよ。おぬしは、自分オリジナルの神器を作り、天に奉納するのじゃ。よいな?』
……回想終了。
「そうだよ。俺のやりたいことは、ガンコジーさんみたいな、すげえ職人となって、神器を作ることじゃあないか」
俺は腰のベルトにつけてあるホルスターから、1本のハンマーを取り出す。
銀色で、手のひらに収まるくらいの、小さいハンマー。
これが、ガンコジーさんが作った神器の一つ、【神鎚ミョルニル】。
「メンテの仕事は、爺さんが死んで食うに困って、親父が始めた事業だ。つまり、本来の八宝斎の使命じゃない」
それに、親父も死に際に、こう言っていた。
『ヴィル、もしおまえが店を出るようなことがあれば、好きに生きて良い』
死ぬ数分前、ベッドサイドに立つ俺に、こういったのだ。
ちなみにそのとき、馬鹿弟はいなかった。
今にして思えば尻軽女とよろしくやってたのだろう。
『店の経営や、メンテの事業は、はっきりいって他のやつでもできる。修行を積めばな。……でも、八宝斎としての使命を完遂できるのは、世界でただ一人。黄金の手を持つ、おまえだけだ』
親父はしわしわになった手で、俺の手を握りしめた。
『おれが始めた店や事業は、最悪どうでもいい。けれど、先祖代々受け継がれてきた、八宝斎の名前と技術、そして使命は……絶対に後世に残さねばならない』
そういって親父は息を引き取った。
「親父……ガンコジーさん……」
俺はハンマーを持つ手の甲を見やる。
そこには、1つの【紋章】が描かれていた。
太陽の紋章。
これが、【黄金の手】の持ち主であることの証。
「わかったよ。俺、好きなように生きる。八宝斎として、俺オリジナルの神器を作る!!」
今後の方針が決まった。
店とメンテは、店を継いだセッチンに丸投げ。
俺は神器を作るため旅に出よう。
「腕を磨きながら、全国を旅するんだ。そこで素材とか、インスピレーションを集めて、そんで……作り上げる」
俺は神鎚を持ち上げる。
「ガンコジーさんが作ったこのミョルニルのような、すんげえ神器を!」
さて。
そうと決まったら早速行動開始だ。
「さっさとこの王都から離れるに限るな。もう店には戻らんし」
セッチンもシリカルも、確実に困るだろうが、まあがんばりな。
すぐにあいつらに見付からないように、できるだけ遠くにいこう。
「さ、工作の時間だ」
俺は近くに落ちていた小石を手に取る。
「黄金の手……起動。神鎚ミョルニルと接続」
手の甲に描かれた紋章が輝く。
太陽の輪から5本の線が伸びて、俺の5つの指を経由して、ハンマーに接続する。
「スキル【超錬成】、発動」
俺の人差し指に走る線が強く輝く。
黄金の手には、物作りに関する【ユニークスキル】が宿っている。
それは黄金の手を持つ人間だけが使える、唯一無二のスキルだ。
歴代の八宝斎達は、みな黄金の手をもっている。
そしてそれぞれ、異なる【物作りスキル】を持っていた。
俺は、その中でも特別らしい。
『ヴィルよ。おぬしは特別だ。通常、黄金の手にはひとりにつき1つのスキルしか宿らん。しかし、おぬしには5つの、それぞれ異なった物作りのスキルが備わっている。これは、長い八宝斎の歴史の中で、おぬしだけだ』
ガンコジーさんはそう言っていた。
俺は5つあるうちの、1つを発動させる。
「【錬成:小石→転移結晶】」
俺は宣言して、ハンマーで小石を叩く。
その瞬間、小石が変化した。
アメジスト色した、美しいクリスタルに。
■転移結晶(SSS)
→一度行ったことのある場所へなら、どこへでもテレポートできるクリスタル。使い捨て。
「よし、超錬成、問題ないな」
かつて存在した、黄金の手の持ち主のひとり、【セイ・ファート】さんは、小石を黄金に変えたという。
超錬成は、魔力と素材を消費することで、別の凄いアイテムを作り上げるスキルだ。
ただし、同質のものに限る(※石から水は作れない)。
小石を2つばかり持ち上げる。
「【錬成:小石→黄金】」
俺の手の中に、2本の金のインゴットが握られる。
「これを売ればまあ路銀には困らないな。……もっともやり過ぎると、市場がめちゃくちゃになるから、注意しないと」
金貨も偽装できはする。
けどそれやると面倒ごとが増える。だから、やらない。
やるのはインゴットまで。
しかも、やりすぎ御法度。
「あとは、これをしまって……」
俺は神鎚を持ち上げて、何もない空間めがけて振り下ろす。
「■、オープン」
目の前に■の形をした、黒い箱ができた。
これはアイテムボックス……の、ような効果を持つ特別な箱だ。
■のなかには他にも【色々入ってる】のだが……まあそれは今はどうでも良い。
インゴットをしまって、準備完了。
「あとは転移結晶を……いやまて。転移だと行ったことのある場所にしかいけないか。どうせなら、行ったことない場所に行ってインスピレーションを得たい」
ということで、俺はまた超錬成を発動。
「【錬成:転移結晶→漂流転移結晶】」
■漂流転移結晶(SSS)
→自分の行ったことない場所に、ランダムで転移する。
「漂流転移、起動!」
目の前が真っ白になり、俺はその場から転移した。
一瞬で視界が切り替わる。
「これで、行ったことない場所に飛ばされた訳か……森の中?」
かなり暗い森の中に俺はいた。
時間は夜なのか?
「きゃぁあああああああああ!!」
「! 女の悲鳴だ」
何かあったのだろうか。俺は声のする方へと向かう。
女の子が、熊のモンスターに襲われていた。
「たすけなきゃ!」
武器は、人を助けるための道具だ。
それを作る職人もまた、人助けの精神を忘れてはいけない。
これは親父の言葉だ。
あの人は俺に、何も技術面で教えられなくてすまないって謝っていた。
けどそんなことはない。
俺はあの人から、職人としての魂を受け継いでる。
「たすけてぇええええええええ!」
「グロォオオオオオオオオオオ!」
熊が女の子を襲う……そこへ。
俺は飛び出して、熊の脳天めがけてハンマーを振り下ろした。
「やめろ」
どがんっ……!
熊は、あとかたもなく、粉砕されたのだった。
「す、すごい……あの熊を、一撃で……!」
女の子が驚いていた。ま、助かってよかった。