27.壊れた村を直す、魔神のイメージを改善する
俺はディ・ロウリィの領地にいる。
魔神ロウリィちゃんをともなって、俺は村へ向かっていた。
竜の背には俺とポロの二人だけだ。
あ、そういえばシスターのクリスちゃんとは、ロウリィちゃんの住処の前でわかれた。騎士達と合流して、帰るそうだ。
「おー、ロウリィちゃん早いな」
ロウリィちゃんは白い竜の姿で空を飛んでいる。
この竜の姿こそが彼女の本来の姿なのだ。
『ヴィルさん、これからどうするんすか?』
「とりあえず、領地を出る前に、中の問題を解決しておこうとおもってさ」
『問題?』
俺はうなずく。
「そう、問題。大きく2つある。ひとつは、村に関すること。もうひとつは、ロウリィちゃん、君に関することだよ」
『村と、自分すか?』
順々に説明していく。
まず、村に関する問題。
ディ・ロウリィの領民は、竜化の呪いを受けていた。
そのせいで、領民ほぼ全員が蜥蜴人、つまりモンスターの見た目をしてしまった。
モンスターのはびこる呪いの大地、ということで、ここを訪れる人はほとんどいない。
行商人も、商工ギルドの連中も。
「村人たちの住居、結構壊れてるとこが目立った。直してくれる商工ギルドの連中もこないし、直すための資材も仕入れることができない」
『…………』
ロウリィちゃんが辛そうに顔を伏せた。
自分のせいだって思ってるんだろう。
まあたしかに、竜化の呪いはロウリィちゃんが原因で、領地に流行らせてしまった伝染病みたいなもんだからな。
「ヴィル様。もう一つの問題というのは?」
「ん……まあそれは追々わかるよ」
俺たちは【ロリエモン】の村へと到着した。
「あ! おにいちゃんだ!」
村に入ると、幼女のノーアちゃんが出迎えてくれた。
俺がこのディ・ロウリィに来て、初めて来た村、そして初めて出会った村人である。
「よっす。セバースじいさんに用事があってきたんだ」
「よんでくるねー!」
ノーアちゃんが村の奥へ引っ込んでいく。
ポロが周囲を見渡す。
「たしかに、住んでいる家がどれも、ボロボロだったり、半壊してたりしますね」
「直す人も直す資材もないしな」
『…………』
ロウリィちゃんが辛そうだ。
俺は背中をぽんぽんと叩く。
「やっちまった過去は変えられないよ」
『そっすよね……』
「でも、未来は変えていける。だろ?」
『ヴィルさん……』
「大丈夫。もう一個の問題も、俺が解決してみせるよ」
言うまでも無く、もう一つの問題というのは、ロウリィちゃんのことだ。
彼女は無自覚とはいえ、領民達に迷惑をかけてしまった。
彼女の中では、自分は疫病神的な存在だと思ってるんだろう。
それに、村人達も呪いの元凶たるロウリィちゃんに、思うところはあるはず。
この、領民とロウリィちゃんの間にある、精神的な【溝】。
これが、二つ目の問題だ。
だが俺にはもう解決のアイディアが浮かんでいる。
だから、なんとかなると思ってる。
「おお! 領主様ではございませ……えええ!? な、なんですかその竜は!?」
ノーアちゃんとともにセバース村長がやってきた。
彼はロウリィちゃんに気づいて目を剥く。
「白き竜神様だよ」
「な、なんと! し、しかし竜神さまは……呪いにかかって……はっ! ま、まさか……! 領主様が!?」
ポロが得意げに胸を反らして言う。
「その通りです! 竜神ロウリィ様にかかっていた呪いは、ヴィル様が見事に! 解いてみせました!」
「おお! なんということだ! すごすぎる!」
セバース村長がキラキラした目を向けてくる。
「コロコロと領主が変わっては、この問題をどうにかできずに帰って行きました。しかし、ヴィル様は一発で呪いを解いて見せた! 長く誰にもできなかった呪いを解くなんて! すごすぎます!」
「どうもどうも。で、今日はちょっと村を直そうって思ってきました」
「村を! 直す! おお、なんてありがたい! ささ、どうぞどうぞ」
中に入る前に、俺は言う。
「ロウリィちゃんも一緒に入れていいか?」
「そ、それは……」
やっぱり、思うところがあるんだろう。
まあ、ロウリィちゃんのせいで呪いにかかっていた、って意識はあるだろうからな。
「頼む。彼女はもう悪さしない。むしろ、今まで迷惑かけてきた、お詫びがしたいそうだ」
「『おわび?』」
セバース村長、そしてロウリィちゃんも揃って首をかしげる。
彼はうなずいて言う。
「わかりました。ほかでもない、領主様の頼みならば……」
「ありがと」
俺はロウリィちゃんもつれて村の中に入る。
こそっ、とロウリィちゃんが耳打ちしてくる。
『……お詫びって?』
「……まあ見とけって。したいんだろ、おわび」
『……そ、それはそうっすけど。でも何ができるかって言われても』
「……だいじょーぶ。ちょっと素材を提供してくれればいいから」
『……素材?』
俺は村人達の症状、そして、呪い状態のロウリィちゃんの使った技から、とあるアイディアをもらっていた。
そして、工房にいるときに、設計図はもう完成させている。
ほどなくして。
「じゃ、まあちゃちゃっと壊れた家は直しますか」
神槌ミョルニルを手に、そう宣言する。
すると俺の目の前に、いくつもの魔法陣が展開。
壊れた家の周りにも魔法陣が浮かんでいる。
「全修復+超錬成」
かつん! と俺が魔法陣を叩く。
すると壊れた家が一瞬で元通りになった。
「お、おお!? すごい! 家が直った!」
「すごいよおじいちゃん! 家が、とぉっても立派になったよー!」
直すだけじゃない、そこにもう一つ手を加えたのだ。
「迷宮の素材をプラスして、頑丈な家を造ったぞ。あと村を守る外壁もちょろっと造っといた」
目の前には立派な家々と、そして頑丈そうな外壁ができた。
いろいろ造ってきたおかげで、俺は一気にたくさんのものを修理+改造できるようになったのだ。
「さすがですヴィル様! 今までもすごかったのに、さらに腕前が上がってるなんて! 進化する天才とはまさにヴィル様のことかと!」
「どうもどうも。さ……問題にとりかかろうかな」
俺は村の中心へとやってきた。
「領主様、いったいなにを?」
「噴水を造る」
「ふんすい……? 王都などにある、水が湧き出るあれですか?」
「そう。村長、飲み水って川からくんできてるんだよな?」
村長がこくんとうなずく。
村から川までは、結構距離があった。
水をくむのにその都度、川まで行くのは大変だろう。
「そこで、こうする」
俺は■から、迷宮の壁から採取した素材を取り出す。
地面に置いて、かつん、とたたく。
その瞬間、大きな噴水の土台が完成。
「で、こうする」
かつん、と土台を叩く。
その瞬間、水がドドドオ! と湧き出てきた。
「川とこの土台とを、空間のトンネルでつないだんだ」
川から水を引いてくるのはめんどうだ。
だから、空間にトンネルをつくって、川と噴水とをつなげたのだ。
「く、空間のトンネル……?」
「まあ、簡単な転移みたいなもんだよ」
「す、すごい……! そんな神業ができるなんて!」
つまり川と噴水とで水が循環するようになっているのだ。
「で、仕上げだ。ロウリィちゃん。うろこ、1枚わけてくんない?」
『うろこ……っすか? いいっすけど』
ロウリィちゃんは純白の鱗に包まれている。
俺は一枚拝借して、噴水の土台に近づく。
「土台の根元に、くぼみがあるだろ。ここに鱗をはめる。すると……」
ぱぁ……! と噴水の水が、いっきに七色に輝きだした。
「な、なんと! 光っておりまするぞ! これはいったい……?」
「ロウリィちゃんの持つ、癒やしの力を付与したんだ」
「なんと! 魔神様に、そんなお力が!?」
俺はロウリィちゃんと戦って、彼女がすごい癒やしの力があることを知った。
そこで、思いついたんだ。
「ロウリィちゃんのうろこには、魔神の力……彼女が持つ癒やしの力が付与されてる。なら、これを道具に組み込めば、永久的にその力を受けられるんじゃあないかってな。試してみ?」
ちょうど、そこへ風邪を引いてる村人がやってくる。
噴水の水を飲むと……。
「おお! か、風邪がなおりましたぞ!」
「何とぉ! す、すごすぎる!」
飲めばたちまち病気の治る、噴水の完成ってわけ。
「川の中の微生物も、ロウリィちゃんの浄化の力でなおってるから、のんでも腹を下さないよ。ありがとな、ロウリィちゃん」
はっ、とロウリィちゃんが何かに気づいた顔になる。
「ありがとうございます! 竜神様!」
セバースさんをはじめとして、村人達がロウリィちゃんに頭を下げる。
そりゃそうだ、彼女の存在が無ければ、この癒やしの噴水は完成しなかったのだ。
みんな、ロウリィちゃんに対して、笑顔を向けている。
溝が少し、うまったんじゃあないかと思う。
ロウリィちゃんは目に涙をためた後、俺に頭を下げて言う。
『ありがとう、ヴィルさん……!』
うん、うん、みんな笑顔で、俺もうれしいよ。




