230.無我の境地
俺はウィンド・クローを修理した。
「兄貴、でもどうしよう。クローは、ぼくの全力に耐えれないんだ」
風の勇者ミリスが申し訳なさそうに言う。
するとクローが言う。
『ミリス殿! なんだか拙者……体に力が満ちているのでござる!』
「! ど、どういうことさ、クロー……?」
『八宝斎殿に作り直してもらってから調子が良いというか……』
ふむ?
俺はただ直しただけなんだが……。
ミリスがウィンド・クロー(籠手)を嵌める。
「まさか……兄貴、見てて!」
ミリスの体から、翡翠色のオーラがあふれ出す。
彼女は拳闘士のように構えを取ると……。
「せええええええええええええい!」
彼女は目にもとまらぬ速さで、拳を繰り出した。
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
彼女のパンチは嵐を呼ぶ。
突風は地を穿ちながら一直線上に飛んでいった。
ううん?
なんか前よりパンチの威力……あがってないか?
彼女自身成長してるからだろうか、聖剣使いとして。
「やっぱり! クローは以前よりも強くなってる! ぼくの全力パンチを受けてもひび割れないし!」
『やはりそうであったか!』
んん?
前より強くなってる……?
「おかしいな。俺は壊れたクローを直しただけなんだが」
アップデートまではしてなかったような……。
「さすがですヴィル様。無意識に、神器をアップデートなさるなんて!」
ポロがそういう。
なるほど、どうやら俺は意識せずとも、神器を改良できるようになっていたようだ。
そういや、先代の八宝斎、ガンコジーさんも言ってたな。
修練を積んだ一流のモノの作り手は、無意識に、呼吸するかのごとく、最高のモノを作り出すと……。
「俺もその領域にたどり着いたってことか……」
このたびを通して、俺は色んなモノを作ってきた。
その結果、作り手としてのレベルもあがったのだろう。
旅をして、良かったって、そう思ったね。




