23.欠陥物件をなおしたら神の領域を作ってた
領地ディ・ロウリィにて。
竜の魔神ちゃんを俺は助けた。
『自分、ロウリィって言うっす』
「ロウリィ……?」
洞窟の中にて。
白い魔神の竜はそう名乗った。
「ディ・ロウリィってまさか……」
『自分のことっすね。の……あー……いにしえの王様から、ここらへんの土地をもらったんすよ』
なるほど、ロウリィちゃんの土地だから、ディ・ロウリィと。
「悪かったな、勝手にあんたの土地に入ってきて」
『いいんすよ。もういにしえの王国はないですし』
俺は自分が領主であることを名乗ると、ロウリィちゃんはうなずいて言う。
『領主さんでしたか』
「そ。だからここに調査に来たって訳。きみはいにしえの王が死んでからずっとここに?」
ロウリィちゃんは遠い目をしてうなずいた。
王様が死んで悲しくなり、ここに引きこもっていたのだろう。かわいそうに。
「あ、そうだ。ロウリィちゃん。この洞窟……あんたの家なんだろ?」
『そっすね。【とある人】に紹介してもらったんす』
とある人……?
「まあいいや。この家、欠陥住宅だぞ」
『な!? どういうことっすか!』
「実際見た方が早いかもな」
ということで、俺、ポロ、ロウリィちゃんは移動。
ちなみに、あの白い騎士たちは撤退してるのだが、後ろからシスターちゃん(クリスちゃんって言うらしい)が付いてきている。
……なんで付いてきてるんだろうか。
ややあって。
俺たちは洞窟の外へとやってきた。
ロウリィちゃんが出ようとすると……。
ごつんっ!
『ぎゃん!』
「どうした?」
『これは……結界っす! 魔神を閉じ込めるための!』
だがクリスちゃんは首をかしげている。
ポロも同様。
「やっぱりこれ、君が意図して作った結界じゃなかったんだな」
「! ヴィル様は見えるのですか?」
ポロに問われてうなずいて返す。
「この洞窟に入るときにさ、この結界が見えたんだ。外敵が入って来れないようになのかと思ったけど普通には入れたからさ。欠陥結界かと思ってたんだけど……」
つまり、人の侵入を防ぐ結界なのに、欠陥があって人が出入りできるようになっていた、のだと俺は思っていた。
しかし実際は違った。
魔神を閉じ込める結界だったらしい。
『それにこれは……負の念を暴走させる術式がこめられてるっす!』
ロウリィちゃんが目をこらした後にそう叫んだ。
「詳しいね君」
『自分、昔、大きな図書館で書物を守ってたことがあるっす。だからいろいろ知ってるんすよ』
なるほど、それに、長生きしてそうだし、いろいろ知ってるんだなぁ。
『自分にここの物件を紹介したやつの仕業っす! あいつが結界で自分を閉じ込めて、負の念を暴走させて……あんなことを!』
どうやらロウリィちゃんは、誰かに利用されてしまったらしい。
欠陥住宅に住まわされた上に、呪いまでかけられて。
かわいそうに。
「ロウリィちゃん。よければ、この欠陥住宅なおさせてもらえないか?」
ただの洞窟のうえ、入り口に呪いの結界だ。
こんなとこに住むのはいやかろう。
『い、いいんすか?』
「おう。俺は鍛冶師だ。家のリフォームも担当してるよ」
『で、でも……自分は領民に迷惑かけてた戦犯で……』
「違うよ。迷惑かけてたのは、君にこの欠陥住宅を紹介した野郎だ。気にすることはない。それに……君もこの地に住まう領民の一人だ。そうだろう?」
じわ……とロウリィちゃんの目に涙がうかぶ。
うれしかったのかな。
『お願いするっす』
「あいよ」
俺はまず、この呪いの結界の前に立つ。
クリスちゃんはこれを見て、ふるふると首を振る。
「だめですわ、ヴィル様。わたくしでもこの呪いの結界は解除できません」
どうやらクリスちゃんは、これを解除しようと頑張っててくれたらしい。
「聖職者なのに……この結界に気づくことすらできなかったなんて……」
『隠蔽の術式も組み込まれてるっすね。常人には見えないっす』
俺は見えるんだけどな。
ポロがキラキラした目を俺に向けてきた。
「常人では見ない結界を見えるなんて、さすがですヴィル様!」
「どもども。さて、はじめるか」
俺は一度洞窟の外に出る。
ふぉん……と目の前に魔法陣が展開した。
これは、毎度見る設計図。
結界の構造がこれを見れば一発でわかる。
たしかに、何カ所か不具合があった。
俺は神槌ミョルニルを手に取って、魔法陣に振り下ろす。
「分解して……再構築!」
その瞬間……。
洞窟の周囲の岩が変化。
ごごごお……と音を立てながら、洞窟とその周囲が変化していく。
ただの殺風景な洞窟から一転……。
「うぉ! す、すげーっす! お城になったっすよー!」
洞窟があらふしぎ、一瞬でお城へと変貌を遂げて……え、ええ!?
「ろ、ロウリィちゃん……?」
「はい? なんすか?」
そこにいたのは、白髪の、それはそれは美しい女の子だった。
白いドレスに、白い髪の毛。
青い瞳がくりっと可愛らしい。
「な、なんか人間になってない君……?」
「え? って、なんじゃこりゃああああああああああああああ!?」
ロウリィちゃんは竜の魔神だった。
しかし今は、俺たちと同じく、人間の姿になっている。
「な、なにがどうなってんだこりゃ……?」
「わ、わかったっす! この城……神域になってるんすよ!」
「し、しんいき……?」
なんだそりゃ……。
「文字通り神の領域っす。この領域内なら、魔神は自分の力を100%、引き出せるんすよ」
ロウリィちゃん曰く、魔神は普段かなり力を制限されているらしい。
神のいる世界と、下界(俺たちのいる世界)とではなんか空気とかが異なるらしい。
そのせいで、地上に降り立つと神は弱体化するそうだ。
「けど神域の中は、擬似的な神の世界と一緒っす。つまり、自分の力を100%使えるようになる。力のコントロールができるようになって、こうして人化の術が使えるようになった……ってわけっす」
……ようするに、俺が作ったこの城が、神域っていうすごい場所になった。
そのおかげで、ロウリィちゃんは人間の姿になれるようになったってわけか。
「さすがですヴィル様!」
「すごいですわ! 神域を、人間が作ってしまうなんて! 前代未聞ですわ!」
聖職者っぽいクリスちゃんも驚いていた。
ううん、そんなすごい建物なのか、これ。
「懐かしー姿に戻れたっすわ……ありがとう、ヴィルさん」
「いえいえ、どういたしましてだ」




