22.神の呪いを解く
俺、ヴィル・クラフトは与えられた領地へと訪問。
そこで呪いの竜が領民に悪さしていることを知った。
村人達の竜化の呪いをときながら、その竜がいるという洞窟へと向かった。
洞窟の奥にはホールがあった。
そこには、見上げるほどの大きさの、毒に体を覆われた竜がいた。
紫色のドロドロが皮膚を伝って、地面を汚している。
……それだけじゃない。
「オォオオロロロロロオロオオオオオオオオオオオオオオオン!」
……竜が吠える。
いや、泣いてる。
悲しいのだろう、苦しいのだろう。
聞いた話だと、大昔に死んだ王様を嘆いているうちに、いつの間にか呪いに侵されてしまったって言っていた。
あの体を覆う毒は、呪いだ。
俺にはわかった。
いろんな呪われたアイテムを壊して、再構築してきたからこそ。
「待ってろ。今すぐに楽にしてやるからな。ポロ、この人らを連れて下がれ」
ホールには白銀の鎧に身を包んだ騎士達がいた。
法衣を着る少女もいる。
獣人少女ポロがためらうも、こくんとうなずく。
ドロドロに溶けていた騎士達は俺が戻した。
でも恐怖から立ち直れていないらしく、その場から動けていない。
ポロが騎士たちに肩を貸して、外へと向かう。
「よし、相手は俺だ。かかってきな」
「オロロォオオオオオオオオオオン!」
竜が大きく口を開いて、毒のブレスを放ってきた。
「! お逃げください!」
法衣の少女が叫ぶ。
そういや、元気そうだなこの子。
「そのブレスは触れた物をすべて、ドロドロにとかします! 神聖なる守りの加護を受けた、聖騎士の鎧すらも溶かしてしまう!」
俺は神槌ミョルニルで地面を叩く。
「錬成」
俺の右手は、黄金の手という特殊な物。
ここには五つの特殊な物作りスキルが宿ってる。
そのうちのスキルのうちの一つ、超錬成。
物質を別の物質へと変換する。
……ただ、神器をいくつか作ったことでこの技術にも変化が訪れていた。
すなわち。
今まで作ったことのないものを、作れるようになった。
ハンマーで叩いたのは、大気中に含まれる魔素。
あらゆる魔法の根源となるもの。
これをたたき、別の物へ変換。
それすなわち……。
パキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「な、な、なぁ……!? そ、そんな……!」
法衣の少女が驚愕の表情を浮かべる。
彼女、そして周りで倒れてる騎士達は、全員が無事だ。
俺たちを包み込むように、光の膜が展開している。
「それは、聖なる結界!!」
そう、俺が今作ったのは、街を守っているあの結界だ。
「そんな! 選ばれた神の使徒にしか使えない力を、どうやって!? あなたも聖なる力がその身に宿っているのですか!?」
「いや」
「じゃ、じゃあどうやって結界を構築してるのですか!? スキルですか!?」
「違う。結界そのものを、作った」
「は………………?」
俺は結界を修繕し、聖なる結界を作った。
その際に、魔法陣……つまり、結界の構造を示した設計図を見ている。
完成した物、そして設計図が頭に入っているのだ。
必要となる材料もわかってる。
「だから、作れた」
「そ、そんな……あり得ません……聖女でもない一般人が、聖なる結界を作れるわけが……」
竜が毒ブレスをはき続ける。
しかし結界は毒を中和し続けた。
「ドラゴンよ、このままやってもあんたじゃ勝てないぜ? おとなしく治療をさせてくれよ」
「オロロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
ブレスがきかないと判断したのだろう。
竜がこちらに向かって突進してきた。
「いけません! いくら聖なる結界とはいえ、あんな巨大な竜の突撃を受けたら壊れてしまいます!」
だが……。
竜が結界に触れた瞬間……。
ぼよよよぉ~~~~~~~~~~ん……!
「なぁ……!? は、はじき返したですってぇ……!?」
竜が激突する瞬間、結界の材質が柔らかくなった。
ぶつかった竜はそのまま背後にすっ飛ばされ、壁に激突。
「そんな……呪いの毒を防ぐだけじゃ無く、物理攻撃すらもはじいてしまうなんて……」
竜は壁にはまったまま動けないでいる。
「あのすごい勢いでぶつかってきても、竜が生きてるなんて不自然です! 普通、ぶつかった瞬間に体にダメージが入ってるはずなのに……」
「ああ、だから結界を改造した」
「か…………!?」
目を見開き、あんぐりと口を開く少女。
「け、結界を……改造?」
「ああ。元となる構造がわかってるんだ。使い勝手がいいように改造できるだろ?」
硬いままの結界じゃぶつかったときに、あの竜が怪我してしまうって思った。
だから結界の材質を、軟質性のものに改造した。(錬成の応用)
「そんな……結界の改造なんて……」
「結界使いなら、これくらいできるんじゃないの?」
ぶんぶん! と女の子が強く首を振る。
「不可能です。結界の特性を変えることは不可能です。教本に、そんなやりかた、どこにも書いていませんでした」
「あらまぁ。古い教本使ってるんだな」
物は使う人の使い勝手がいいように、改造されていくものだ。
建物然り、道具然り。
そうやって常にアップデートされていき、より使いやすい物になる。
それが普通……だと思うんだけどなぁ。
「普通じゃ有りません……なんなのですか、あなたは……?」
「いやだから、ちょいと変わった旅の職人だよ。さて……」
俺は結界を抜け、外に出る。
壁にはまっている竜の元へと向かう。
「あぶない! 毒に触れて溶けてしま……え、えええ!? 結界の外でも普通に動けてる!?」
何を驚いてるのだろうか、あの子?
生身で外出るわけないだろう。
「俺の体を覆うように、最低限の結界を張ってるだけだぜ?」
目をこらせば、俺の体の輪郭に沿って、光の膜が張られてるがわかるだろう。
こうやって結界で身を包んでいれば、肌が毒に触れることはない。
「そんな……前代未聞ですよ。結界は、その場で固定して使う物なのに……。体にそんな、鎧のようにまとう使い方なんて……見たことない」
結界とはこうだ、って固定観念に縛られているのだろうな、あの子。
さて。
「よ、ドラゴンさん。待たせたな」
俺は呪いの竜の前に立つ。
ドラゴンはうなり声を上げてるが、体力がないのか、ブレスはもう吐いてこない。
「すぐ治すよ」
俺の目の前に魔法陣が展開。
細胞が呪いの毒に侵されている。壊れている。
この呪いのパーツだけを……。
「破壊し、再生する!」
魔法陣をハンマーで打ち砕き、正しい物へと作り替える。
呪いという異常を抱えた細胞が作り変わっていく……。
毒の竜はその姿を別の物へと変化させた。
紫の毒竜から……。
純白の、ドラゴンへ。
大鷲のような翼を持った、美しい、白いドラゴンがそこにはいた。
『……からだが、戻った。信じられないっす……』
ドラゴンが普通にしゃべれるようになった。
そーいや、高位のモンスターはしゃべれるんだっけ?
「どこか痛むところはないかい?」
『大丈夫っす……あの、あなたが治してくれたんすか?』
声は女の物だった。
しかも、こんな白くデカい神々しい見た目しているのに、フランクなしゃべり方だ。
「ああ、ちょちょいのちょいでな」
『……すごいっす。自分は、魔神なのに』
「まじん?」
『はい。地上に降りてきた神っす』
ほー……う?
竜の……神?
『まじで、すごいっす。あんた……魔神を治療しちゃったんすよ!』
「へー……」
すごいって言われてもなぁ。
俺はただ、壊れたものを修理しただけなんだが。
『……どうして、治してくれたんすか?』
そりゃそうか。
何で助けてくれたのか気になってるのだろう。
「深い理由はないよ。俺はただ、困ってる人をほっとけないタチなんでな」
みんな幸せであってほしいだけだよ。
そういうと、竜の魔神は深々と、俺の前で頭を下げてきた。
『自分を治してくださったこと、感謝するっす。ありがとう……ええと……』
「俺はヴィル。ヴィル・クラフトだ」
『ヴィルさん。まじで、ありがとうございました!』
まあ、なにはともあれ治すことができて、良かった良かった。
……一方、そんな俺を見て、法衣の少女が地にふせ、深々と頭を下げていた。
「な、なに? どうしたの?」
「あなた様は、地上に降り立った神様なのでしょう? ようやく、得心がいきましたわ」
は、はぁ……?
神ぃ?
「わたくしは天導教会に所属するシスター、クリス・ファートと申します。天より舞い降りし、創造の神よ……!」
「違う」
即答する。
違うって。なんだよ創造の神って……。
「俺は、旅の鍛冶師のものだよ。人間だ、神じゃない」
しかしシスターはふるふると首を振って言う。
「ご冗談を。ただの人間が、魔神を治療できるわけがありません。それに聖なる結界をここまで使いこなせるのは、やはり神で間違いありません!」
えええー……ちょっと思い込み激しすぎないこの子……?




