214.蠱毒
《七福塵Side》
ヴィルが魔族国へ向かう一方。
呪物をばらまく謎の魔道具師、七福塵はというと、己の工房にこもっていた。
そこは七福塵がこの世界にいくつも持っている拠点の一つ。
大樹を削ってくつった自然の工房だ。
「うーん、次回作をどうするかなぁ~」
長い髪にラフな格好の青年、七福塵。
彼は椅子に座って考え事をしてる。しかしその椅子はただの椅子ではなかった。
人間の肉と骨とかわを引っぺがし、再構築した椅子……人間椅子。
椅子以外の調度品も全て人間を素材として作られていた。
人間椅子に腰をかけ、ひとり考え事をしてると……。
「七福塵様」
「ん? 誰だっけ君?」
そこに居たのはスーツを着た妙齢の女性だ。
七福塵は彼女を見てもすぐに誰だかわからない様子。
一方、彼女は表情一つ変えぬまま言う。
「八宝斎No.4242564、フェイですよ」
八宝斎。それはヴィルたち、天才魔道具師に贈られる称号……のはず。
しかし彼女は魔道具師には到底見えなかった。なにか、別の意味合いを込めて、八宝斎といってるようだった。
「おお! フェイか」
七福塵はようやく、彼女のことを思い出す。
「どうした?」
「蠱毒の準備が整いましたので、ご報告を」
「おー! あのプラン、動いてたのか! いやはやすっかり忘れていた。どうにも、ワタシは目の前にある面白いおもちゃにしか興味なくってね」
「今のお気に入りは……ヴィル・クラフトですものね」
「そう! あれが一番八宝斎に近い。現状ね。だけどねー、最近マンネリ気味でさー。彼にどういう次の展開を与えようか考えあぐねてたとこなんだよー」
そうですか、とフェイが無感動につぶやく。
「蠱毒の器には、魔族国を選びました。そして、魔族国にヴィルが今向かっております」
「お! いいね! 最高だ、じゃあそこを次の遊び場にしよう!」
うきうきしながら、七福塵は立ち上がると言う。
「フェイ。他の失敗作八宝斎たちも蠱毒にじゃんじゃんぶっ込んであげなさい。そんで、状況をより混沌とするのだ!」
七福塵が恍惚の笑みを浮かべる。
脳裏には、彼にしか見えない何かが浮かんでいた。
「混沌より這い出た存在、それこそ……ワタシの求める八宝斎に違いないだろうから!」




