209.八宝斎の町作り
旅の途中で、魔族の女の子と出会った。
俺はその子の話を聞いてみることにした。
「お茶でもしながら話そっか。■」
目の前に小さな黒い、■のような箱が出現する。
蓋をあけると、そこから簀巻きにされた敷物が出てきた。
「な、なんなのだっ? それはっ!」
「この敷物は俺の作った魔道具で……」
「そうではない! その黒い箱じゃ!」
ああ、■のこといってるのか。
「■だ」
「だからそれは何なのだっ!?」
「■だな」
「話が通じないのじゃー!」
まあまあ、となだめて、俺は敷物を広げる。
「ささ、どうぞお座りよ」
俺たちが敷物に乗った……
次の瞬間……。
ぷかぷか……。
「う、浮いてる!? 浮いておるじゃとぉお!?」
敷物は飛翔し、上空へとやってきた。
「なんじゃこれは!?」
「空飛ぶ絨毯」
「だからなんじゃそれは!?」
「空を飛ぶ絨毯」
「説明になってないのじゃーーーーー!」
ややあって。
「思った以上に、すごい職人じゃったか……八宝斎殿はすごいの……」
「あんたも八宝斎しってるんだな。ええと……君は……」
「失礼した、八宝斎殿……。わらわはロクサーヌと申す」
「ロクサーヌちゃんね。よろしく。俺はヴィル。この子はポロ」
ロクサーヌは紫紺の髪の毛を、ツインテールにしている、ろりっこだ。
頭にティアラが乗ってることから、王族なのがわかる。
「ロクサーヌちゃん。さっき魔王がどうとか言ってたけど、魔王って……あの魔王? 魔族を率いて人間たちを襲っていたという?」
おとぎ話とかでよく聞くあれかな。
しかしロクサーヌちゃんはぷるぷると首を振る。
「それはもう、随分と昔のことじゃ。今で言う魔王とは、魔族国ケラヴノスティアに暮らす、魔族たちの王、という意味じゃ」
「魔族国……魔族国……ええと」
俺は■から世界地図を取り出す。
ゲータ・ニィガ王国から北へ行き、奈落の森っていうデカい森を越えた先にある、広い国か。
「昔は魔王たちが、豊かな大地をもとめて戦争をふっかけたのじゃ。じゃが、聖剣の勇者達に敗れ、魔族たちは以後、人間を襲わない方策をとっていたんじゃが……」
過去形なのがひっかかるな。
「内乱が起きての」
「ほーん……内乱」
「うむ。人間を滅ぼし大地を奪うべきだ、という過激派の連中がクーデターを起こしてな」
あらまあ……。
それは怖いなぁー
「わらわや父たち、穏健派を城から追放し、魔王城、そして王都を占拠してしまったのじゃ……」
なるほど……
だんだんと話が見えてきたぞ。
魔族には穏健派と過激派に別れてる。
過激派が元々あった魔王城を占拠してしまった。
追い出された穏健派の人たちが住むための城……魔王城を新たに作って欲しい、と。
「別にいいけど場所はどうするんだ? 魔族国に城建てたら直ぐに、過激派の連中に壊されちまうんじゃない?」
「うむ……だから土地を選ばねばいかんのじゃが……当てがなくてな……」
うん?
そうかな。
「奈落の森に城をおっ立てればよくない? 確かあそこって、王国の領土じゃあないだろ?」
「う、うむ……し、しかし……奈落の森は魔物がうろついてて危険じゃ。それに木々が密集して生い茂っており、建設なんてとても……」
「大丈夫だって。俺に任せな」
開拓も、建築も、大得意である。
「よ、よろしいのですか、八宝斎殿……?」
「ああ。つーか城だけじゃなくて、穏健派たちが住めるよう、町を作ってあげるよ」
「!!!!! なんと……町を……?」
「おうよ。穏健派の人たちみんなが住めるような、でっかい町を作るさ」
ぐす……とロクサーヌは涙を流すと、俺の前でひざまづいて、頭を下げる。
「ありがとうございます、八宝斎殿!」
「いいっていいって。てゆーか俺が作りたいだけだしな」
こうして、俺は魔族の姫、ロクサーヌの依頼で、新しい魔族たちの町を作ることになったのだった。




